第300話、ゴーストガード
黄金宮の中は、床や壁が黄金で出来ているせいか、僅かな光源でも反射して眩しいくらいだった。
1000年前の魔王の居城でもあったということで、悪魔やゴーストなどには警戒する。
エルフの姫巫女であるファウナは、いつも淡々としているが、その表情は心なしか険しさを感じさせた。
「……悪鬼、悪霊の類い、その気配を感じます」
怨念、亡霊がいたとしても、おかしくはない。魔王の城だったなら、そう思うが――
「こうも明るいと、幽霊が出るって感じがしませんね」
ルカが苦笑している。それな!
「暗い場所に幽霊っていうなら、身構えてしまうけど、確かにこれじゃあな」
昼間から幽霊なんて聞かない。せいぜいダンジョンや洞窟の奥とか、暗い所でないと、雰囲気ないな。
『油断するなよ、ヴィゴ、ルカよ』
カイジン師匠――白い竜騎士が言った。
『見かけに騙されてはならぬ。……そもそも、わしもゴーストだしな』
確かに。ベスティアボディに憑依しているとはいえ、カイジン師匠も今や肉体を失った魂だけの存在だ。
『邪な気配が蠢いておる。気をつけよ。すぐ近くにいるぞ』
「ニニヤ」
「備えます」
浄化魔法が使えるニニヤも周囲へと意識を向ける。ディーが浄化の杖を構え、騎士たちも見張る。
「!?」
とっさに、ファウナが下がった。敵か?――その瞬間、彼女のすぐ目の前で白い光と火の玉のようなものが露わになった。
「ゴースト!」
敵だ! 入り込まれた!
「……黄金領域対策の障壁が、敵を弾いた!?」
わずかに驚くファウナ。素早く反応したのは、カバーンだった。飛び込みながら、手斧を振りかぶる。
「馬鹿、相手はゴースト――」
マルモが叫んだが、物理攻撃がすり抜けると思われたカバーンの一撃は、ゴーストを両断し、露と消してしまった。
「え……効いた?」
困惑するマルモだが、イラが穏やかに言った。
「たぶん、皆の武器が黒きモノ対策で神聖属性を付与されているから、霊体にも効いたんじゃないかな」
「あー……そういえば」
聖剣など神聖な武器などでなければ、切れない、攻撃できないゴースト系アンデッド。だが、本来の対象とは違えど、リベルタクランのメンバーの武器は、すべて対策済みだった。
結果、ゴーストたちは俺たちを襲ってきたが、虚しく護符の力で弾かれた。向かってきたところを武器で応戦する簡単なお仕事である。
「明るいところのゴーストは、あまり怖くないかもって思っていたんですけど」
ルカは神妙な調子になる。
「やっぱり見えないのって、明るくても怖いですね」
突然、近くで音がしたら、そりゃビックリするよな。
護符のバリアにゴーストが触れると、バチッと弾ける音がして、ゴーストの輪郭が露わになる。
そこに一発、神聖剣で両断。
「明るいせいで、逆に見にくいってのは意外だった」
夜だと突然発光することで、驚かされるが、終始その姿が見えにくいのは新たな気づきだった。
「しかし、俺たちも人気者だな! こうも寄ってくるなんて」
『こちらに取り憑こうとしておるのだろう』
魔竜剣――ダイ様が言った。
『見えないまま、人間に取り憑いて、仲間うちで戦わせたりしようとしておるんだろう。障壁で防がれているから余裕でいられるが、本来ならかなり厄介な悪霊どもだよ』
魔王の城にいる魔物、敵に相応しい強敵だった、か? ゴーストたちにとっては、相性が悪かったんだろうな。
俺たちは、黄金宮の中を進む。魔王城なんて言う通り、確かに城や宮殿の内装といった雰囲気が強い。
周りが黄金だらけで明るいのだが、ゾクゾクした寒気のようなものが、段々強く感じてきた。
「来るぞ!」
ゴーストたちが、黄金の鎧飾りに憑依し、黄金騎士となって向かってくる。……そりゃあね、カイジン師匠もベスティアボディで同じことをやっているんだから、敵ゴーストでもできるだろうよ。
「差し詰め、ゴーストゴーレムってか?」
俺は黄金騎士のハルバードを、神聖剣で弾き、魔竜剣で本体に一撃を叩き込む。カーンといい音を響かせて、黄金騎士は砕ける。
カイジン師匠、ベスティア、シィラ、ルカらが、それぞれの得物で黄金騎士たちを力で砕き、倒していく。
と言っても、力任せで黄金騎士を叩けるのは、俺たちくらいのもので、その他の面々には頑丈な装甲に苦戦を強いられた。
「硬いなぁ……!」
ヴィオが黄金騎士の攻撃を避けて、その関節に聖剣スカーレットハートを差し込む。
「浄化!」
取り憑いているゴーストを聖剣で浄化することで、黄金騎士はただの飾りに戻る。
カメリアさんやガストンら騎士たちが苦戦する中、ディーがヴィオを真似て、浄化の杖を黄金騎士に当てたり隙間に差し込んだりしながら、浄化して倒していく。
ゴーストに、騎士飾りや悪魔像などが、俺たちに牙を剥いてきたが、対策も倒し方もわかっているこちらが苦戦する要素はほぼなかった。
黄金宮の捜索は順調に進む。その中で気づいたのは、この宮殿内は大昔の戦闘の跡がそのまま残っていたこと。ところどころに亀裂や破損があって、当時の魔王の悪魔と、人々の戦いが垣間見ることができた。
「でも、それらが悪霊となって、ここに囚われ続けていたのは不幸だったわね」
アウラがそう表現した。かつては魔に立ち向かった人間たちも、無念と憎悪を抱えて霊となれば、それが積もり重なって、悪霊となる。
カイジン師匠も、ファウナが解き放たなければ、そうなっていたらしいから、何とも複雑な気分にさせた。
ここは、1000年前の記憶を残す遺跡なのかもしれない。
ピラミッド内を上へと登っていく。ここは上下が逆だから、外からしたら下に向かっているように見えるんだろうけど。
『我の記憶が正しければ、もうじき玉座の間だ』
ダイ様がどこか懐かしさを滲ませた。階段を登り切ったところで、黄金――人の形をしたものが立ち並んでいたので、身構える。黄金騎士かと思ったが、そうではなく――
「なんだ、これは……?」
俺たちの前には、精巧な人の形をした黄金像があった。十数体……いや、部屋全体に二十や三十はあるような。
あまりにリアルな作りに、背筋に冷たいものを感じた。これは、ひょっとして――
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