第299話、黄金宮の正体
黄金のピラミッドは天井に張り付いているという構造上、その周囲をダークバードで飛んで、まずは入り口を探した。
「まったく、悪趣味の極みだ」
「悪魔というのは黄金が好きなんだよ」
ダイ様が皮肉っぽく言った。
「黄金とは欲望の象徴だ。獣ださえ、その輝きに魅了される。物の価値というものは違うはずなのにな」
「なあ、ダイ様。1000年前のウルラート王国にこんなものがあったって聞いたことは?」
「ないな。……いや、ただ、ちょっと辻褄が合わないなって話なら知っておる」
「というと?」
「魔王は、黄金宮を手に入れた」
さらっと、凄いことを言わなかった? 俺もビックリする。
「今、魔王と言った?」
「ああ、倒されたことになっている魔王は、あんなピラミッド型、というのか? ああいう黄金宮を見つけ、我が物とした」
「じゃあ、あれ、ひょっとして魔王城とかいうやつか!?」
おいおい、冗談じゃないぞ。ラーメ領の領主町と精霊樹がゴールだと思っていたのに、それよりもっと深い終着点に来ちまったのか?
「どうかな? 我の知っている魔王城こと黄金宮は、天にあった。空に浮かんでいたんだよ」
「空に……? それって、ハクたちが言っていた神の島みたいに浮いていたってことか?」
「そうだ。我も当時は、今ほど人格ができておらんかったから、記憶があやふやなのだがな。だが空にあったのは間違いない」
ダイ様がダークバードを導く。やがて、ピラミッドの入り口らしきものを発見する。
「うん、やっぱりそうだ」
「何がそうなんだ、ダイ様?」
「あの入り口、どう思う?」
「……天井側にあるな」
歩いて入ろうというなら、上下逆さまになって、天井を歩いてくれば、すんなり入れるかも。
「ヴィゴ、これは逆さまだ」
「は?」
「これは天空にあった黄金宮だ。何があったか知らぬが、浮遊していた島ごと落下して、ここにあるんだろうな」
ダイ様は自信満々だ。1000年前のウルラート王国を攻めた魔王の城――天空にあったそれが、真っ逆さまで地面の底にある。
「それって、ニエント山は、昔はそこになかったってことか?」
「さて、我の中での記憶の中のそれと、ニエント山の大きさが合わない気もするから、昔あった山に黄金宮のあった島が合わさって今の形になったやもしれんがな」
ひぇぇ、そんなことが……。俺も言葉が出てこない。
「空にあった黄金宮は、どうして逆さまに?」
「我は知らん。だが魔王が倒された時にでも、いっしょに落ちてきたんじゃないか?」
ダイ様は、ピラミッドの入り口の前で、ダークバードを滞空させる。
「さて、どう入ったものか……」
『わらわが、門を吹っ飛ばそうか?』
神聖剣が悪戯っぽく言った。魔王の城なら遠慮いらないとでもいうことか。
「まー、それも手ではあるがな。だがいくらお主でもこれを完全にぶち壊すのは、さすがに――ん?」
ダイ様が最後まで言う前に、巻き上げ式と思われる鎖が引く音がして、門が開いた。
「……おいでってことかな?」
「嫌な予感がするんだが?」
来訪者を歓迎する魔王の城なんて、罠じゃないのか?
『少なくとも、誰かがおるということじゃな』
門が勝手に開く仕掛けでもない限り。……それが罠なんじゃないかってことなんだけど。
「入るか」
あっさりとした口調でダイ様は言い、ダークバードを進ませた。
「狭いから、一列な」
「おいおい」
ダークバードの幅でも、一列なら通過できるくらいの門だった。俺たちの後ろに仲間たちの乗ったダークバードが続いている。
昔は悪魔の巣窟だった場所だ。今はどうなっているか知らないが、そこに俺たちだけなのは――おおっ!?
その瞬間、俺の視界がぐるんと回った。いきなりかよ!?
「ダイ様! ロールするなら言って」
「我は何もしとらんぞー」
嘘だ。横に回転……って、あれ?
「気づいたか?」
「……おう」
上下逆さまだったはずなのに、内装は全然逆じゃなかった。黄金の内装。悪魔を模った像も、騎士飾りも、すべて普通に見える。
「わ!?」
「あっ!?」
後ろで、俺と同じように困惑した声がした。見れば、仲間たちが半回転して、上下が内装と一致していっていた。
「ここに入ったら、上下が修正されるらしい」
逆さまでなくなっただけで、かなり探索が捗りそうだ。ダークバードが床に降りて、俺もその背中から飛び降りる。
「信じられるか? たぶん、外から見たら、俺たち天井を歩いているんだぜ?」
「おかしな気分ですね」
ルカがやってきた。アウラ、セラータも周囲を見渡す。
「中も静かね……」
「ダイ様がここを1000年前の魔王の城だって言うんだよ」
俺が説明すると、アウラが素っ頓狂な声を出した。
「何ですって!?」
「魔王城……!?」
ヴィオが駆け寄り、驚愕した。彼女の騎士たちも、途端に剣を抜いて周囲――特に悪魔像を警戒する。
俺とダイ様で、先のやりとりを仲間たちに伝えた。アウラは腕を組んだ。
「なるほど、神の島ならぬ魔王の島だったかもしれないってことか……」
「まさか、魔王がいるとか?」
ヴィオが聖剣の柄を握り込む。ダイ様は口元を歪めた。
「まあ、1000年前の魔王は命を落としてバラバラだ。そいつはおらんのは間違いなかろう」
……ただし、他に魔王がいたとしても、それについては知らない。
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