第295話、ドワーフの廃集落で


 黒きモノと化した巨大ワームを退治した俺たちリベルタ。


 だが、その戦闘で、ゴッドフリーがやられた。

 ヴィオ付きの騎士で、もっとも体が大きく、無精ひげを生やした、ややワイルドさが目立つ騎士だ。


『どこがやられた!?』


 カイジン師匠が怒鳴るよりに声をかければ、座り込んでいるゴッドフリーが、その逞しい体躯の持ち主からぬ苦悶に満ちた顔を向けた。


「右腕です! くそっ、毒液を吹きかけられた……っ!」

「触るな! 溶けるぞ」


 同僚のガストンが、ゴッドフリーを支えながら注意した。


「治癒魔法を。トレ!」

「駄目。まずは毒液をどうにかしないと……」


 ヴィオ付きの騎士で紅一点のトレが首を振った。普段落ち着いている彼女もさすがに、こういうパターンは初めてかもしれない。


 ゴッドフリーの鎧の右肩のアーマーがジュクジュクに溶けかけていて、その液体がしたたり、ゴッドフリーの肌に落ちた。


「うおおっ!?」

「ゴッドフリー!」


 毒というか酸に近いか。俺はとりあえず、その鎧の端をつかんで、それ以上液が落ちないようにする。


「ヴィゴ殿!?」

「ヴィゴ!?」


 ゴッドフリーも、ヴィオも驚くが、大したことじゃない。


「DSG装甲の小手だ、溶けないよ」


 俺のしている小手は、サタンアーマースライム装甲+ドラゴンブラッドで強化されてる。神聖属性じゃなきゃ無敵のゴム様だぞ。


「ゴムっ! ちょっと、ゴッドフリーのアーマーと傷にくっついて、表面の毒を取り除いてくれ」

『わかったー』

「ううっ――」


 激痛に体が動くゴッドフリー。おいおい、動くと液が――


「動くな!」


 ガストンがゴッドフリーを押さえつけながら言った。


「なあ、タフガイ。もう少しの辛抱だ」


 ゴムがペトリとゴッドフリーの右上半身にのし掛かりくっついた。俺は手を離して、様子を見守る。


 ディーとファウナがやってきて、ゴッドフリーの傍らに膝をつく。毒を取り除いたのか、ヌルリと滑り落ちるゴム。ゴッドフリーの肉の溶けた傷を見て、ヴィオとトレが「ひっ」と小さく悲鳴をあげた。


 ディーが顔を上げる。


「ニニヤさん、すみません! 高位治癒魔法をお願いします!」


 傷を診た治癒術士は、より高いレベルの治癒魔法が必要だと判断した。アウラと遠巻きに見守っていたニニヤが駆けつけると、骨が見えるくらい溶けている傷を見て、さっそく治癒魔法を使う。


 もう大丈夫そうだな。俺は立ち上がると、すぐそばにいるゴムに手を出した。


「悪い。このついた毒も頼むわ」


 ついたまま他のものを触ったら、二次被害になりそう。うっかり顔とかに触ったら、治癒魔法に頼らないといけなくなるだろう。


『とったー』

「ありがとう、ゴム」


 サタンアーマースライムに礼を言い、俺は怪我人から数歩歩きながら、カイジン師匠と話した。


「毒液を吹きかけてくるとは……」

『ヴィゴは見なかったのか? わしは吹きかけられたぞ』

「当てられました?」

『まさか。しっかりと避けた』


 さすが師匠。しかしDSG装甲のボディーなら、たとえ毒液が当たってもダメージはないだろうけど。


 俺は改めて仲間たちを観察する。見たところ、怪我人はなさそうだ。装備品がいいからなんだろうけど、うちのクランメンバーは優秀だな。


『しかし、油断は禁物ぞ』


 カイジン師匠は重々しく言った。


『いくら鎧が無敵であろうとも、顔面や装甲のない部分をやられれば、致命傷にもなりかねん』

「そうですね……」


 ワームの吐いた毒なんかを顔面にもろ浴びたら、地獄だろうな。肉が溶け落ちて骨が剥き出しとか、恐ろし過ぎる……。


 俺だって持てるスキルがあるけど、別に不死身ってわけじゃないんだ。領主町に乗り込んで敵と戦う時も、魔竜剣や神聖剣の力を過信することがないように気を引き締めないといけない。



  ・  ・  ・



 怪我人の治療が済んだところで、俺たちは、かつてドワーフが使っていた集落を探索した。


「この辺りの有用鉱石は、あらかた掘り尽くしたんでしょうね……」


 マルモは、廃墟となった集落を見やる。


「報酬に足る分を採掘したから、ここは放棄されたんでしょう。家財道具とか、見つかっていないから、めぼしい物は撤収の際に全部持ち帰ったみたいですね!」


 でも――と、マルモは天井から生えている水晶柱に、ガガンを向けて撃ちまくった。


「これはいらないですねー」


 黄金領域をばらまく水晶柱は破壊である。でも、汚染精霊樹の影響が拡大し続ける限り、また生成されるんだろうな。


 この辺りに見える水晶柱は、無理矢理設置したものって感じじゃなくて、自然物が生えてきた風に感じられる。


「ヴィゴー! ヴィゴ、ちょっと来てー!」


 アウラが呼んでいた。様子を見にいくと、ドリアードの魔女は、ハクと一緒にある建物の壁に触れている。


「どうした? 何かあったのか?」

「この民家の素材なんだけどさ……」


 ハクは神妙な調子で言った。


「これ、1000年前のウルラート王国の遺跡で見た壁と同じ素材が、結構な割合で混ざっているんだよ」

「……どういうこと?」


 混ざっている? 実はここが旧ウルラート王国の遺跡で、そのまま流用したとかじゃないってこと?


「当時のドワーフたちは、ここに集落を作る時、遺跡を見つけたんだと思う」


 アウラは真顔になる。


「そしてその遺跡から、建材として利用した。この近くに、あるわよ、その遺跡が!」


 ……勘弁してくれ。領主町で戦いが近いうちに控えている時に遺跡探索か?

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