第294話、黒ワームの巣
厄介なワーム退治のお時間だ。
石造りの集落の奥に、複数の空洞があって、そちらは採掘場になっているようだ。この地下も、掘り進められたせいで、かなり広くなっている。
パッと見、集落の中央に巨大黒ワームの塊があって、そこだけで7、8体くらいいそうだ。その周りにも3、4体ほど移動しているのが見え、たぶん見えない奥や、地面の中などに、まだまだいると思われる。
結構気が立っているように見えるが、やっぱトンネル近くを俺たちがうろついているのを感じ取っているのか。警戒されているかもしれない。
汚染され、黒きモノとなったワームを放置しておくという選択肢はない。進軍する討伐軍本隊のためにも、掃討する。
「で、どうする、ヴィゴ?」
聖剣を手にヴィオが言った。リベルタメンバーは集結し、いつでも戦闘できる構えである。
「このままボクたちで切り込む?」
黒きモノが相手である。聖剣コンビで一気に突き崩す――というのも悪くはないが。
「あたしたち、だ。忘れるな」
シィラが挑むように言った。シィラやルカ、彼女たちの魔法武器にも神聖属性は付与済みだ。
広いとはいえ地下空洞。神聖剣や魔竜剣で力押しは、崩落などの危険があるので制限される。俺は今回、46シーもディバインブラストもなしだ。
皆には期待しているぜ――と、言いながら、結局はワームをぶん殴る気満々なんだけどね。
「とりあえず、俺がワームを誘い出すから、出てきた奴を皆でよろしく」
「どうするの?」
「まあ、見てなって」
俺は、皆より先行して、集落へ近づく。
「さあて、オラクル、ちょっと地面を揺さぶってやろうか!」
『うむ! ソルブレード!』
神聖剣の剣身が、薄く緑がかる。大地属性の聖剣、ソルブレードの力が発現する。こいつを地面に突き刺して――
「振動!」
地面を伝う魔力波動。それが振動し、ワームたちの感覚器官を揺さ振る。この手の振動には敏感なワームたちが、これを見逃すはずがなかった。
軋むような声を上げて、黒ワームが動き出した。つーか、マジで悲鳴みたいな奇声やめてくれないか、耳にくる!
怒っているのか、建物を砕いて突っ込んでくるワームたち。見えているのが一気にこっちへ来ているような――
『他のところにいるワームも、こっちへ集まってきておるぞ』
地面に突き刺した神聖剣が報告した。
『どうやら、探られたのが相当お気に召さなかったらしいわ』
神聖剣もまた、ワームの発する振動で位置をつかんでいるようだ。大地属性の聖剣の力、中々便利だ。
俺は魔竜剣を握る。
「ダイ様、46シーはなしだけど、インフェルノブラスト、あれって威力を限界まで絞ったやつ、撃てる?」
『できんことはないが……あまり飛ばんぞ?』
「何体かやれればいい。頼むぜ!」
岩を砕き、突進してくるワーム。涎撒き散らしてくるんじゃないよ、気持ち悪い!
『行くぞ、ラーヴァブラスト!』
魔竜剣から灼熱の火の玉が放たれた。それはワームに迫り、その眼前で破裂した。周りに飛び散る炎、いや溶岩が、ワームの体に触れ、ジュッと音を立てて溶かす。
『フフン、ただの溶岩ではないぞ。我が地獄の溶岩だ! 溶けるぞ』
ダイ様は上機嫌な調子だ。溶岩を浴びて、瞬時に1体が頭から溶け、すぐそばを共に進んでいた黒ワームは、自らにもかかった溶岩にのたうつ。
1体ダウン。2体がのたうち、最後尾の1体がそれにぶつかり、足止め。両翼から残り2体、いや3体!
「もうひとつ、ラーヴァブラスト! これもおまけだ!」
右と左の黒ワームに、それぞれ溶岩弾を叩き込む。肉が焼ける音も刹那、巨大な黒ワームが、氷のように溶けていく。
『主様、天井と地面より、増援、来るぞ!』
オラクルが知らせる。俺は神聖剣を地面から引っこ抜き後退。すると地面を突き破って巨大黒ワームがニョキニョキと生えてきた。危ない危ない……。
「セブンソード」
神聖剣を矢継ぎ早に振るう。雷、光、火、水、氷、土、風の各聖剣の斬撃が黒ワームを切り裂く。バラバラとなった黒ワームの死骸が散らばり、闇の力が抜けていく。
『どんどん来るぞ!』
ソルブレードの振動で集まってきたワームが、わらわらと姿を現す。ようしようし、誘導は成功だろう。
「ニニヤ、アウラ!」
「――聖天よ、悪しき力に光の裁きを!」
「パニッシュメント!」
ふたりのSランク魔術師の神聖魔法が炸裂した。光の束が黒ワームを貫き、その体を分断していく。
集中していた中央の黒ワームの数が減ったので、後続が左右に散る。だがそこへ、リベルタクランの前衛組が躍り出る。
ルカ、シィラ、ヴィオ、カイジン師匠が、神聖属性付与の武器で切り込み、巨大なワーム種を両断していく。
勢いで突っ込んでくる大きな魔物にも、まったく怯まないリベルタメンバー。カイジン師匠はともかく、他の面々も安定感がある。
仲間たちが前に出たことで、俺は、神聖剣を再び地面に刺す。大地属性の聖剣の力を使って、見えない地面の中を索敵。
これが普通の敵だったなら、見える範囲の敵に備えるだけでいいんだけど。
その間にも、ユーニが弓を、イラが長銃を、マルモがガガンを撃ちまくった。いずれも神聖属性付きの矢や銃弾。黒きワームも、神聖属性には痛みを感じて悲鳴をあげてのたうつ。
そこへカメリアさんやカバーン、ガストンら騎士が前に出て、黒ワームを攻撃し、集団で1体ずつ仕留めていく。
集まってきた黒ワームを、ひたすら退治していく俺たち。その数は30を超えた。
これらが、討伐軍が通過している最中に襲ってきたらと思うとゾッとした。いったいどれだけの兵が犠牲になっただろうか? まあ、それはもうないんだけどさ。
「……これで全部か?」
シィラが魔法槍を肩に担ぎながら聞いてきた。ソルブレードの力で地中の反応を探っていた俺だけど、手応えはなかった。
「ない。少なくとも、この辺りにはもういない」
「ハードでしたね」
ルカが苦笑している。君たち本当、もう巨大ワーム如き淡々と討伐するよね。
「イテぇ!」
男の声。見れば、ヴィオ付きの騎士であるゴッドフリーだった。おい、怪我したのか?
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