第293話、ドワーフの廃鉱


 ニエント山の頂上で、俺はハクと空飛ぶ乗り物について話し合っていたら、突然、リーリエが現れた。


「ヴィゴ、大変だよ、大変!」

「何があった?」

「トンネルにジャイアントワームが出た!」


 ワーム――要するに巨大ミミズ型の魔物が現れたという。トンネルの外はもちろん、中にもうちのメンバーやドゥエーリ傭兵がいたはずだが。


「援護が必要か?」

「うん、アウラが呼んでた!」


 それなら行くしかないよな! 俺が踵を返そうとすると、ハクがポンと手を叩いた。


「じゃあさっそく、下までこれで送っていくよ。走っても下山には時間が掛かるからね」


 空飛ぶ馬車もどき。確かに飛行したほうが早いか。


「わたしも行きます!」


 ユーニも同行した。ゴムの分裂体がダークバードに変身して、牽引準備よし。ハクが車の御者台に座り、俺とユーニはその後ろに乗った。


「それじゃ行くよ。振り落とされないように気をつけて」


 闇鳥が引っ張り、車が動き――


「あ、ロックの解除を忘れた」


 ハクが取っ手を引くと、車輪が回り出して、車が前進する。そして浮遊石に魔力を伝えるバーを操作すると、フワリと車は宙に浮いた。


「ほう、これはこれは」


 ダイ様がひょっこり顔を出して、車から下を覗き込む。


 いつもはダイ様の使い魔に乗っているから、空を飛ぶこと自体は慣れているんだが、車が荷車のような形のおかげで、安定感が段違いだった。……落下防止の枠があるだけで、この安心感よ。


 ほぼ直進で、ニエント山を下山。山道を通らない分、最短ルートで通過。あっという間に、トンネル手前に降下した。


「あんがとよ、ハク。俺たちは行くぜ」


 俺はユーニと共にトンネルに入った。中では、仲間たちが出現したワームを倒していて、ほとんど終わったような感じだった。


「アウラ。……うわ、黒」


 倒したワームは、黄金領域のせいか、黒きモノのような黒い魔物となっていた。


「普通に黒きモノよね」


 アウラは俺たちを迎えると、「こっちへ」と誘導した。


「横穴は全部チェックしたと思っていたんだけどね。近くに空洞があったみたい」

「ワームが開けた穴じゃないのか?」


 あいつら、地面掘りのプロだろう? 土や砂だけじゃなくて、岩も進んでくる化け物だからな。


「それもあるけど、それだけじゃないのよ」


 ドリアードの魔女が先を行く。俺たちはひとつの横穴を進む。分岐して結構長いなここ。


「あ、アウラさん!」


 先からルカがやってきた。アウラが手を上げる。


「はぁい、ルカ。どう? 行き止まりにぶつかった?」

「それが、面倒なことになりそうです」

「何があった?」

「町、というか、集落がありました。廃墟なんですけど」


 ルカが、自分が悪いわけではないのに申し訳なさそうな顔になる。うん、まあ、そんな顔になるのもわかる。俺も正直、『またか』という気になる。


「例の、前のウルラート王国の遺跡か?」

「いえ、今回は違うようです。たぶんですけど、ドワーフの作った集落ではないかと」

「ドワーフ?」


 ああ、そういえばニエント山のトンネルを作ったのはドワーフたちで、その穴掘りの代金に、ここの地下鉱石などを採掘していたって話を、マルモがしていたな。


「ええ、それを確認してもらおうと、マルモを呼んでこようかと……」



  ・  ・  ・



「あー、これ、ドワーフの集落ですね。たぶん、間違いないかと」


 ルカに呼ばれてやってきたマルモが、その地下空洞にあった石造りの建物が立ち並ぶ集落を眺めて言った。


「ここは、採掘用のベースキャンプだったようですね。ちゃんと建物を建てているところからみて、少なくとも数年はここにドワーフがいたんじゃないないでしょうか」


 当時の領主から許可をもらい鉱石を採掘したドワーフたちは、しっかり腰を据えて、徹底的にやったようだった。


「さすがに、今はいないようですけどー」

「だろうな」


 俺は、眉をひそめる。寒気のような感覚と、ワーム特有の臭気を感じ取る。


「今はアンデッドとワームの巣みたいだ」


 がらっ、と天井の一部を砕いて、黒ワームが現れ、そのまま地面に突っ込むと穴を開けて潜る。


 地下だが、ここにも多数の青光石と水晶柱の黄金瘴気のおかげで、青、または黄緑でぼちぼち視界は確保されている。


「ワームが現れたと聞いて、そんな予感はしていたが、すっかりワームの巣じゃないか」

「面倒なことになったわね」


 アウラが渋い顔を作った。俺は確認する。


「トンネルに出てきたワームは何体?」

「2体。でもこうもトンネルに近いと、討伐軍が通ろうものなら、ここにいる連中、きっと襲ってくるわよ」


 だろうな。地面の振動を感知して寄ってくる傾向にあるワームだ。大群が行進していたら、気づかないはずがないんだよな。


「要約すると、いつものやつか?」

「そう、いつのものやつね」


 俺たちで、予め敵を倒しておこうってやつだ。マルモが振り返った。


「あんまりこういうこと言いたくないですけど、ここドワーフが鉱石の採掘をしているので、ここの他にも坑道がいくつもできていると思います」

「……」


 俺とアウラは顔を見合わせる。つまり、いくつあるかわからない廃鉱にも、ワームのお仲間がいるかもしれないってことね。


「やるしかないよな……」

「ええ、せっかく敵の待ち伏せ難所であるトンネルを押さえているんですもの。ここで討伐軍の数を減らされたら、たまったものではないわ」

「ワーム退治だ」


 クソッタレ――と、罵詈は飲み込んでおく。ひと仕事、増やしてくれやがって、まったく。

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