第291話、トンネル大洪水


 ニエント山の地下トンネルに陣取る黒きモノたちを一掃し、街道ルートを確保するため、俺たちは攻撃を開始した。


 西側正面を、ボークスメルチ氏らドゥエーリ族の傭兵団で固めてもらい、俺たちリベルタは、使い魔などに乗ってニエント山頂上を経由、東側入り口へと回り込んだ。


 頂上を制圧した頃には、東側トンネル外に敵が集団でいたのだが、アドゥラ谷が攻撃を受けたと聞いて南ルートから増援が送られてきていて、今では400ほどの黒きモノの戦士たちが陣地を形成していた。


 俺の右手の魔竜剣から笑いが漏れた。


『お誂え向きに固まっておるぞ! やってもいいんだな、ヴィゴ!』

「おう、行くぞ!」


 46シー・フルブラスト! ダーク・インフェルノの力が解放され、黒きモノたちを九つの巨大な火球が飲み込み、吹き飛ばした。


 ……うわ、こりゃ洞窟とか建物内では使えないわ。ドラゴンブレスも大概だけど、この威力は――


「前よりパワーアップしてるぞこれ!?」

『ドラゴンブラッドで進化した我の力よ!』


 そういえば、今の魔竜剣になって、46シー・フルブラストは初だったか?


『見るがよい。神聖属性なぞに頼らずとも、我が力で黒きモノの呪いすら蒸発してしもうたわ!』


 うわー、凄ぇ……。マジでほぼ一掃じゃねえか。いや、そうでもないか、わずかに残った連中がトンネルに駆け込んだり、あるいは逃げ出している。


 俺たち、リベルタは、ダークバードやゴムの分裂体から地上に降りる。


「イラ、ユーニ!」


 逃げる奴を倒せ、と指示を出せば、イラは長銃、ユーニは魔法弓で、外にいる残敵を狙撃する。


 その間、俺たちはトンネル東側入り口へ。


 黄金色と青い光の入り交じった奇妙な洞窟の中。こっち側は完全に黄金領域内だもんな。西側から見るのと色合いも違って見える。


『ここからはわらわの番じゃな!』


 左手の神聖剣――オラクルセイバーが声を弾ませた。


「大きいやつを頼むぜ!」

『任されよ! アクアウングラ!』


 神聖剣の刀身が青くなる。俺が神聖剣をトンネル内に向けると、ディバインブラストにも匹敵する光――ではなく、大量の水がドラゴンブレスの如く放射された。


 結局、水攻め作戦!


 それが当初想像したものより、効果が薄くなるのは承知。だがそれでも、怒濤の水攻撃はやめない!


 トンネルは東側が西側より高い。当然水は下へ下へと流れていく。黒きモノたちは西側からの侵入に対して防備を固めていたから、無防備な背中をこちらに向けていることになる。


 先制攻撃で、外からトンネルにいた連中が中に駆け込んだが、それで配置を急に変えられるほどの時間はなかった。


 というより、むしろ、俺たちが東から攻めてきた、どうしましょうって対応を考えている頃合だったかもしれない。


 ともあれ、トンネル内を大波が押し寄せ、黒ゴブリンや黒オークらを下へと押し流した。即席の石壁を押し流し、柵を引き抜くほどの勢いだったから、黒きモノたちも為す術なく水に飲まれて流されていく。


『これくらい流し込めば西側入り口まで届いたじゃろ』


 神聖剣が放水をやめる。向こう側に出口がなければ、ここまで浸水しているくらいまでの水を突っ込んだが、西側入り口も含め、横穴などに水は流れてしまっただろう。


 つまり、水は溜まっていない!


「突撃!」


 俺の合図に、ルカ、シィラら前衛組が応えて、東側入り口からトンネルの中へと突入した。


 土石流もかくやの水を1分程度も見舞われたトンネル内には、黒きモノたちが倒れていた。しかし生身の生き物なら死んでいるそれも、この黒きモノたちは死んでいない。


 だが起き上がり、武器を取るまでに時間が掛かる。その間に肉薄して、神聖属性付与の武器でトドメを刺す!


 ルカが魔法竜剣ラヴィーナを、シィラが魔法竜槍タルナードを、ヴィオが聖剣スカーレットハートで切り込む。


 水で流され、ぶつけて、翻弄された黒きモノたちの反応は鈍かった。だが敵襲と気づくと、状況は整理できずとも武器を探した。


 それは本能だったのかもしれない。だが武器を取ったり、構えたところを、リベルタメンバーに次々に倒されていく。


 手元に武器がなく探している間に斬られる黒ゴブリン。立ち上がった瞬間、一太刀で両断される黒オーク。


 カイジン師匠、ベスティアにあっさりと切り倒され、カメリアさんやガストンら騎士たちも、神聖属性付与の剣で黒きモノたちにトドメを刺していく。


 スピードだ! もっと早く! 奥にいる奴らが、立ち直る前に!


 俺はダッシュブーツでさらに先を行く。


「ヴィゴ様!」

「アニキ!」


 セラータとカバーンが、俺の速度についてくる。すでに斧を持った黒リザードマンが身構えている。


「邪魔!」


 オラクルセイバーを振るい、光刃を飛ばす。光が飛んでくるのは予想外だったらしく、黒リザードマンは呆気にとられて首が飛んだ。


 セラータが炎竜の槍で、顔を上げた黒オークを串刺しにすると、カバーンも石壁から頭を覗かせた黒ゴブリンを蹴飛ばし、神聖属性付きの片手斧で小鬼の頭蓋を砕いた。


「おおっ、ヴィゴ殿!」


 ボークスメルチ氏たち、ドゥエーリ族の傭兵たちが西側入り口から入って、坂を登りながら黒きモノを一掃している。


「さすがだな! 外に流されてきたヤツらは始末した。あとはここのヤツらと――」

「横穴に隠れている奴がいないかの確認ですね」


 俺は、合流したボークスメルチ氏に頷いた。早さで駆け抜けてきたが、マルモが言っていた横穴などに流されている敵がいるかもしれない。


 東と西、双方から入って合流し、一応見える範囲は制圧したが、まだ油断できない。


 俺たちは、トンネル内を捜索。いくつか横穴を見つけ、案の定、潜んでいた黒きモノを討伐。ニエント山地下トンネルを奪回した。


 瘴気をばらまいている水晶柱が生成されかけていたので破壊しておく。……だめだな。汚染精霊樹の範囲に入っているようで、黄金領域は若干弱まったが消えなかった。


 ともあれ、神聖剣の水で洗い流す策が図に当たり、敵に態勢を整える時間を与えず、片付けることができた。当然、被害も怪我人が数人出た程度で、死亡者なし。


「すげぇ、さすが兄貴だ!」

「兄貴は、戦神の遣いに違いない!」


 ……なんか、ドゥエーリ族の野郎たちのテンションがおかしい。ボークスメルチ氏は笑った。


「まあ、まともに戦えば、突破が難しかったトンネルを、ほぼ無傷で取り返したんじゃ。そりゃ、あいつらも興奮するだろうよ」


 確かに、幾重もの石壁による防御陣地が機能し、クロスボウなどを雨あられと撃たれれば、苦戦は必至だった。まともに戦わずに済んだのは――


「それもこれも、ダイ様とオラクルのおかげだぞ」


 俺が魔竜剣と神聖剣に感謝を露わにすれば。


『ふん、当然だ』

『もっとわらわを褒めるがよいぞ』


 と、調子に乗られた。


『ま、お主がおればこそ、だがな……!』

『うむ、わらわたちの手柄は、主様の手柄なのじゃ!」


 ……お前たち。ちょっと感動した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る