第287話、領主町、奇襲


 涸れたターレ川の底をダークバードで飛行する俺たち特別攻撃隊。川底からも、馬鹿でかい黄金の枝葉――汚染精霊樹の一部が見えた。


 いよいよ近づいてきた。俺の前にいるダイ様が顔を上げた。


「ヴィゴ、水だ!」


 ターレ川の水がある。だがこちらには流れ込まず、黄金の精霊樹のほうへ流れて行っているように見えた。つーか、でかぇ。


 もう領主町にかなり近づいているが、余計に汚染精霊樹の大きさが嫌でも実感できる。当然ながら、すでに黄金領域の中にいる。


「行くぞ、ヴィゴ。準備はよいか?」

「いつでもいいぞ」


 俺は神聖剣を右手に握り込む。すると、ダイ様の姿が消えて、ダークバードがインフェルノドラゴンへと姿を変えた。


 俺は神聖剣を掲げて、後方に合図。


「突っ込むぞ!」


 インフェルノドラゴンがふわりと、ターレ川から飛び上がった。途端に視界に現れる黄金の領主町と、黄金城カパルビヨ。でもやっぱり汚染精霊樹の方が目を引くデカさなんだよな。


『ゆくぞ、ディバインブラストォ!』


 神聖剣が、光のブレスを放った。標的は汚染精霊樹なのだが……。


 もう大きさのスケールがおかしいんだよ、精霊樹。以前は城と同じくらいと、それでも大きかったけど、今は城が小さく見えるくらい太く大きい。領主町に匹敵するくらい太くなっている。


 そんな大木だから、オラクルセイバーの一撃ですら、木の棒で表面を削っているくらいに見えるほどの跡しか残らない。


「やっぱ、デカ過ぎるか……」

『ぐぬぬ……』

『ならば町だ!』


 ダイ様――インフェルノドラゴンが地獄の業火を思わすブレスを、領主町に叩き込んだ。射線にあった黄金の建物はたちまち溶解し、あまりの高熱に可燃物が燃え、そして爆発した。その一撃は、黄金城の城壁にも達し、一部を吹き飛ばす。


 後ろに続くゴムの分裂体型ダークバードに乗る仲間たちも、黄金の町への攻撃を開始する。


 ニニヤがエクスプロージョンの魔法で、適当な建物や目についた敵を爆発に巻き込めば、ネムが、マルモ特製爆弾矢を短弓で放ち、町にいる黒オークや黒リザードマンを攻撃する。


「そーれ、やっちゃいますよー!」


 マルモも自作の魔法爆弾を、領主町に次々に投げ込む。地下暮らしのドワーフは、火薬を用いた技術が発達している。マルモにとっても爆弾作りはお手のものである。……まあ、彼女の場合、投げて敵に当てる芸当はできないだろうから、かなり適当なんだけど。


 それでもいい。今回の目的は、領主町を攻撃して『お前たちのいる町は、安全な場所じゃないぞ』ってわからせてやることなのだから。


 俺はカパルビヨ城に神聖剣を向けて、再びディバインブラストを発射する。今度は城壁ではなく中に。


 と、ばちっと城に当たる直前に、見えない壁に当たったような光が走った。防御の障壁か……?


 しかし神聖剣の一撃をすべて耐えることはできなかったようで、光の渦は見えない壁を貫いて、黄金城にいくつか爆発と部分倒壊を引き起こした。


『減退した! 減退した!』


 神聖剣が繰り返した。


「いま、防御魔法みたいなものが見えた!」

『そいつのせいなのじゃ!』


 オラクルは悔しがったが、普通に考えれば、敵も城の守りは固めて当然。むしろ驚くべきは、神聖剣の攻撃をも減退させた強力なものだったことの方か。


 インフェルノドラゴンがブレスを吐いた。その先にいたのは、鳥型邪甲獣アルバタラスが複数。インフェルノブレスが、それらを瞬く間に溶かし墜落させた。


『また邪甲獣どもが上がってこよう。さっさと捲るぞ!』

「そうだな。奇襲はさっとやって、さっと逃げるもんだ」


 俺が同意すれば、インフェルノドラゴンが頭を元来た方向へと向けた。後続するダークバードもそれに倣う。


『むぅ、中途半端なのじゃー』


 オラクルは不満を漏らす。そうは言っても、一発挨拶するだけなんだから、これくらいでいいんだ。……精霊樹をどう倒すかについては、また考えるとして。


 インフェルノドラゴンとダークバードは黄金の領主町を離れる。俺は後ろを見やる。……追ってくるか、敵は?


 グッと神聖剣を握る。来るなら来い。不完全燃焼のオラクルセイバーが火を吹くぜ。


 どこから出てきたのか、数十もの数になった鳥型邪甲獣の群れ。あれだけでも充分脅威だ。


 追ってくるかに見えた邪甲獣だが、町から少し出たところで引き返していった。


「来なかったか」

『いくじなしなのじゃ!』


 やっぱりウズウズしていたらしいオラクルである。


「なに、まだ出番はあるぞ」

『そうとも』


 インフェルノドラゴン――ダイ様は言った。


『行き掛けの駄賃というやつだ。帰り際に、行きで見かけた敵を吹っ飛ばすぞ!』


 ニエント山とターレ川の狭隘きょうあいを守る黒きモノどもの部隊を叩く。これも今回の領主町奇襲と並んで重要なポイントだ。


 要するに、アドゥラ谷も含め、討伐軍を効果的に叩ける場所にいる敵を、それぞれ叩いてしまおうって作戦だ。


 これで敵が、討伐軍がどちらのルートを選んでもおかしくない、って思えるようにする。高速かつ、大威力の攻撃手段を持つ俺たちリベルタならではの機動攻撃だ。


『ほうれ、見えてきたぞ』


 インフェルノドラゴンがひと声吼えた。わざわざ敵に知らせなくてもいいのに。……地上にいる黒きモノや邪甲獣の動きが慌ただしくなった。


 ドラゴンの咆哮が聞こえれば、そりゃ備えるわな。


『まずは我が先制!』


 インフェルノブレスっ!! まばゆいばかりの炎の息が地上の野を瞬時に炭に変えて、黒リザードマンや黒ゴブリンを焼き尽くす。


「バニッシュメント!」


 ニニヤが光の雨を降らせて、黒きモノたちを貫いていく。ネムは神聖属性を付与した聖水入り弾頭付きの矢を放ち、マルモは、同じく聖水入り爆弾を地上に落とした。神聖属性の水を浴びて、蒸気を上げて苦しむ黒きモノども。


「オラクル!」

『お任せなのじゃ!』


 三度目となるディバインブラストが地上を薙ぎ払い、敵を一掃した。


 それでもまだまだ残っているだろうが、全滅させるまで残れるほどこちらも戦力は多くないんだ。誰も怪我をしていないうちに撤収して、仲間たちと合流する!

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