第283話、谷を抜けて


 谷の天辺に上がったアウラたち第一陣は、そこにいた黒きモノ数体と交戦した。


「こいつらは任せろ!」


 シィラが魔槍を手に言った。神聖属性は付与済み。聖剣使いのヴィオ、部下のガストン、ゴッドフリー、トレもそれぞれの得物を手に、武装した黒オークたちと切り結ぶ。


 アウラは後続に言う。


「マルモ、ベスティア、南側の敵を攻撃! 間違っても、落ちないでね!」

「りょーかいです!」


 マルモがガガンを斜め下、対岸の壁沿いにいる黒きモノたちへ向けて、引き金を引いた。猛烈な勢いで白い光弾が吐き出される。


 ベスティアも左腕部に固定されたガガン・コピーを構えて、掃射を開始した。


 属性の付与により、放たれる魔弾もまた神聖属性。下の敵を待ち構えていた黒オークや黒ゴブリンを、次々に蜂の巣にしていく。


「対岸!」


 アウラが指し示すと、ベスティアが南側の崖の天辺にいる黒ゴブリンを銃撃した。ゴブリンといえど、黒きモノ。その威力を侮ることはできない。


 そうこうしている間に、南側の崖に、ハクの浮遊板で運ばれた第二陣が乗り込んできた。


 ルカが率いるそちらは、ユーニ、カメリア、ニニヤ、イラ、セラータ、カバーンとドゥエーリ族の戦士二人である。


 カメリアとカバーン、ドゥエーリ族の戦士らが南側天辺を制圧しつつ、残りの面々は崖下の敵への攻撃を開始した。


 ユーニとルカが弓を使い、イラが銃撃、セラータが、かつてイラが使っていた擲弾筒を使用する。


 彼女たちは、アウラたちの下、北側崖にいる敵をまず排除する。真下に向かって攻撃するのは、自身が落下するリスクがあるからだ。


 だから、アウラたち北側組は、南側の敵を、ルカたち南側組は、北側の敵を狙ってお互いの死角をカバーするのである。


 たまらないのは、防衛側の黒きモノたちだ。


 正面を邪甲獣装甲ゴーレムとヴィゴ。それを待ち受けて集中攻撃するはずだった黒きモノたちが、逆に上方を取られて狙い撃たれる。


 神聖属性の付与された矢や魔弾が、突き刺さり、黒オーク、黒ゴブリンたちが次々に倒れていく。


 下からの攻撃に備えた地形に潜んでいた黒ゴブリン・スナイパーも、上からは丸見えだ。イラの狙撃や、セラータの撃ち出した擲弾に穴から叩き出され、マルモやベスティアのガガンによってトドメを刺される。


 四方八方から撃つはずが、撃たれているのは黒きモノたちの方だった。


 そして、谷底で光の川が瞬いた。


 もちろん、本物の川ではない。ヴィゴの神聖剣オラクルセイバーが、ディバインブラストで、下にいた邪甲獣や黒きモノを掃討したのだ。


 それに伴い、邪甲獣装甲ゴーレムは前進する。その後ろには、ドゥエーリ族の戦士団が付き従うように続く。


 それに合わせて、アウラ、ルカのグループもそれぞれ先へと移動する。アドゥラ谷は結構長い。ニエント山の近くまで、まだまだ敵も多く潜んでいるだろう。


 戦いは、まだまだこれからだ。



  ・  ・  ・



 まあ、想像はしていた。


 昨日のダークバードの偵察で、おおよそ敵情は掴んでいたからな。


 ゴムの操る邪甲獣装甲ゴーレムは、お世辞にも足が早いとは言えない。しかし前方の敵を掃討しながらの前進も、上にいるアウラやルカたちが上手くやってくれているから、ノロノロペースだが足は止まらずに進めている。


 たとえ足が早くても、止まってしまったら一緒だからな。邪甲獣装甲ゴーレムが、ペースを乱さずいる時点で、成功していると言ってもいいのではなかろうか。


 俺はオラクルセイバーを、敵に向けて光の一撃を放つ。光の矢と化した魔弾は、こちらへ駆けてきた黒オークの頭を吹っ飛ばす。


「来るぞ!」


 ゴーレムに取り付こうと、ワラワラと向かってくる黒きモノたち。


「来いやぁぁーっ!」


 ボークスメルチ氏の獣の咆哮のような声が、谷に響いた。地響きのように、ドゥエーリ族の男衆が声を上げて、黒きオークやゴブリン、リザードマンと切り結ぶ。


 それぞれの武器は神聖属性が与えられ、黒きモノに触れて溶けることもなく、逆にその命を奪っていく。


 さすが戦闘民族。上位種に等しい強さを持つだろう黒きモノたちと、互角以上に渡り合い、次々に倒していく。


 いやいや、こりゃさすがだわ……。


 ボークスメルチ氏の戦斧が、黒オークを一刀両断にする。成人男性以上の体躯を持つ敵を、薪割りの如く一撃とか、見事だ。


 ドゥエーリ族の戦士たちも剣や槍、斧を自在に使って立ち向かう。獅子型や大蛇型邪甲獣も、彼らは怯むことなく囲み、装甲のない部分を狙って攻撃していた。


 俺はゴーレムの背部から、全体を見回す。俺たち下で戦う者にとって、上にいる敵から狙われるのが厄介なんだが、さらに上にいる別動隊がそれをさせない。


 こちらは下の敵に集中できるってのが理想。そして今のところ、その理想的状況は続いている。


「だが、そう簡単にはいかないよな」


 俺が呟くと、魔竜剣が答えた。


『そうだな。まだ敵にアレが出てきていない』


 事前偵察でわかった敵の種類において、出てきたら厄介な連中――


「ヴィゴ!」


 俺の肩の上に、フェアリー――リーリエが突然現れた。わ、びっくりした!


「来たか?」

「来た来た!」


 リーリエがキンキンした声で言った。


「谷の奥にいた鳥型邪甲獣が、一斉に飛び立ったよっ! たぶん30体くらい!」


 アルバタラスより一回り小型の飛行型邪甲獣。これが谷に巣を作って集団でいるのは確認済み。


「ちょっと多いが、手筈通り。リーリエ、頼むぞ」

「はーい! じゃあ、行ってきまーす!」


 リーリエが消えた。転移である。



  ・  ・  ・



 リーリエが転移で飛んだ先は、漆黒の鳥の上。


「よーし、ゴムちゃんたち! 出番だよ! かかれーっ!」


 はやぶさ型に変身したゴムの分裂体の編隊が、一斉に眼下の鳥型邪甲獣に急降下をかました。


 高度を取っての降下、その分スピードがついて、一気にその距離が縮まる。


「いっけぇぇー!!」

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