第281話、突撃前夜
コーシャ湖の地下空洞に浮遊している岩を、全部回収した。
俺たちは、セッテの町に戻り、妖精の籠へ。ダイ様の収納庫に入れていた浮遊岩を全部出して、お役御免。今度こそ俺は休むぞ。
「ありがとう、ヴィゴ。後はこっちでやっておくからさ」
ハクはそう言うと、岩を削り出して、中の浮遊石を掘り出していった。まあ、彼は直接戦うわけじゃないからいいんだけどさ。
……おや?
「マルモに、ファウナか」
「お疲れ様ですー!」
ドワーフのマルモと、エルフの姫巫女ファウナとすれ違う。
「これからお出かけかい?」
「ハクさんが、浮遊石で何か作ると聞いて!」
好奇心が抑えられない様子のマルモ。ファウナは「お休みなさいませ」と一礼して去っていった。……お前たちもな、明日に差し支えないようにな。
セカンドホーム前では、シィラとネムや、うちのメンバーらがドゥエーリ族と晩餐をとっていた。
俺も誘われたが、ちょうどダイ様に頼んでいたダークバードの偵察も戻ってきたので、辞退して、セカンドホーム内の食堂で、報告を確認しながら晩飯を頬張る。
楽しいお食事中に仕事を持ち込むと周りの気が滅入るかもしれないから、お一人様で――と思っていたら、アウラとルカがやってきて、彼女らもダイ様の使い魔の報告を耳にした。
現在のアドゥラ谷は、魔物だらけなのだそうだ。
「……こりゃ明日は激戦だな」
「ですね」
ルカが同意する。ダイ様曰く、街道には邪甲獣と黒きモノ、谷の左右にも黒きモノが至る所にいて、弓や剣で武装しているという。
アウラは、頬杖をつきながら言った。
「真っ正直に街道を行ったら、上からバンバン攻撃されるわね」
「ゴムの分裂体の警戒線でやっつけたヤツらも、武器を持っていたようだけど、あれも黒きモノだったのかな?」
俺たちが駆けつけた時は、邪甲獣しか残っていなかったし、ほぼゴムの分裂体が喰ってしまっていたけど。
「サタンアーマースライムは、黒きモノに触れてもダメージを受けないものね」
アウラの言葉に、ルカもコクコクと頷いた。ダイ様は言った。
「で、この黒い奴ら、顔がオークとかゴブリンだったぞ」
「黒きモノに顔、ですか……」
ルカは首を傾げた。以前見かけたやつは、人型をしていたが、顔はなかったもんな。
「ターレ川の下にあった横穴にいた黒きモノも、武装していたみたいですけど、ひょっとして――」
「ええ、たぶんね」
アウラが頷いた。
「このラーメ領にいる黒きモノは、人外を取り込んでいて、さらにより戦士としてレベルが高そう」
人間が飲み込まれたタイプは、ゾンビとか見たく、ノロノロと近づいてきて飛び込んでくるものが多い。理性を失い、本能のみで生かされている、という感じだ。
だが、ダークバードの偵察で確認された黒きモノは、純粋なオークやゴブリンなどの上位種のように感じられた。
「黒きモノだから、直接触れるのは駄目だ。神聖属性を付与していない武器は効果がなく、むしろ逆に腐食してしまう。それに加えて、亜人タイプとしては上位種並みと思われる戦闘力。……ヤバイなこれは」
「でも、こちらも対抗できますから」
ルカが俺を見た。
「こちらは、武器に神聖属性を付与しましたし、装備もゴムちゃんの素材であるサタンアーマーとドラゴンブラッドで強化されています。行けますよ」
武器も腐らなければ、防具が黒きモノの接触も防いでくれる。つまり互角以上にやり合えるということだ。……ただし、ドゥエーリ族の男たちは武器はともかく、防具が心許ない。そこは個々の熟練の技の見せどころだろうが。
「何か作戦を考えないとな」
敵が四方八方から弓を撃ちまくってくれば、さすがに防具がDSGアーマーでも、隙間を抜けてきた一撃でやられてしまうだろう。攻防は五分でも、無策では戦術で負ける。
アウラとルカ、そしてダイ様とオラクルを交えて、あれこれ話していたら、カイジン師匠が来て、話し合いに加わった。
攻略手順と手段を検討し、目処が立ったので、戦術会議は終了。予め偵察できてよかった。
ということで、明日に備えて就寝した。
・ ・ ・
裸のルカとシィラに抱きつかれる夢を見た。ふわふわだった。これは夢だと自覚し、それを堪能。
そして朝。目を開けたら、ベッドは俺ひとり。……ほらね?
しかし匂う。ルカとシィラの体臭だ。……これはひょっとして、またも俺の寝ている間にベッドに入られたパターンか?
「ダイ様?」
『知らん。我は知らんぞ』
魔竜剣は机の脇からそう言った。
「ベッドが暖かい……」
この範囲は、三人分くらい。俺の寝相が相当悪かったとしてもこれはない。
『わらわも、知らんぞ。ヴィゴのベッドに誰がいたかなど』
「俺はまだ何も言っていないぞ、オラクル」
神聖剣が墓穴を掘った。着替えて、顔を洗い、一階の食堂へ。
「……おはようございます、守護者様」
「おはよう、ファウナ」
朝食の支度をしていたファウナ。シィラとルカが食卓にいて、「おはよう」と声をかけたら――
「お、おはよう、ヴィゴ……」
「おはようございます……」
シィラは赤面して胸もとを押さえつつ、俺から視線を逸らす。ルカもまた、やはり胸を庇うように頬を染めて、恥ずかしそうに顔を背けた。
……え、何、この反応? 俺、何かした?
「ヴィゴ」
「わっ、ヴィオか」
俺のすぐ後ろにヴィオがいた。彼女は俺をしげしげと見つめる。
「な、何だよ……」
「ヴィゴのエッチ」
はあ!?
いきなり何だこれ。わけわかんねぇよ!
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