第275話、討伐軍、到着!


 セッテの町を守りつつ、一部盛り上がっていた遺跡探索だったが、いよいよ来るべき時がきた。


 ウルラート王国の討伐軍が到着したのだ。


 廃墟の町にようこそ! それにしても長い行列だ。それだけ人数が多いってことなんだけど。


 先遣隊が来て、俺はクランリーダーとしてご挨拶。セッテの町にようこそ。


「ご苦労様です! 神聖騎士ヴィゴ・コンタ・ディーノ殿自らのお出迎えいただけるとは、光栄です」


 あー、うん……。もっと上から目線で来るかなと思っていたけど、指揮官らしい騎士殿はきちんと馬から降りて挨拶してきた。


『そりゃ、お主のほうが階級的に上だろ。神聖騎士殿』


 ダイ様の声、いや念話というのかな、直接聞こえてきた。騎士団でもないけど、確かに俺、一応騎士なんだっけ。冒険者気分の抜けない男、それが俺である。


「話には聞いていましたが、だいぶ町はやられていますな」

「俺たちが来た時からこうだった。……いや、奪回の際にもうちょっと壊したかな」


 どうぞ町の中へ。騎士と先遣隊をセッテの町へ案内する。建物の多くは崩れ、無傷のものは、ひとつもない。


 舗装は直っていないが、穴は埋めてあって水平になっている大通りを進む。騎士たちは、廃墟同然となった町の姿に驚き、言葉もないようだった。そして騎士殿がそれに気づく。


「ヴィ、ヴィゴ殿、あれは……!?」

「ん? あぁ、邪甲獣だ。王都カルムの……南のダンジョンに出たナハルって呼ばれている奴の亜種の死体だよ」


 例のコーシャ湖の横穴封鎖で、ダイ様の収納庫に岩を入れた時に、邪魔になるからと外に出したやつだ。


 マルモとベスティアを中心に解体したから、この大蛇型邪甲獣で残っているのは骨だけなんだけど。


 邪甲獣や黒きモノ対策の神聖属性付与武器で切れ味を確認しながらの作業で、まあ、いいテストにはなった。


「君はコーシャ湖は知っているか? あそこの水がなくなってしまってね。その原因になった邪甲獣だ」

「……」


 騎士たちは圧倒されたように、そのバカでかい頭蓋骨を見ている。人間なんて、丸のみに出来るくらい大きな口だろこれ。


 先遣隊に町の状況を説明。討伐軍からどれくらいの人間がセッテの町の警備につくかはわからないが、守備は引き継ぐことはわかっているからな。


 それが一段落した後、いよいよ討伐軍本隊が町に着いた。指揮官であるマルテディ侯爵をお迎えするために、またも西入り口に戻って、先遣隊の騎士と共々ご挨拶。あと、侯爵の娘でもあるヴィオも同席した。


「ご苦労だった、ヴィゴ殿」


 相変わらず、厳めしいお顔のマルテディ侯爵である。威厳があるね。そして娘の姿を見て、一瞬安堵したような表情になった。……お父さん、心配していたんだろうな。


 侯爵殿には、俺らも使っているこの町でまともな部類に入る聖堂まで案内。さっそく守備隊司令部が設置されることになった。


 俺は、討伐軍の主な指揮官貴族たちを交えて、状況報告と領主町の偵察の様子などを伝えた。


「黄金領域……厄介だな」


 マルテディ侯爵は言った。それまで席についての会議だったが、俺が黄金領域を説明するために椅子を離れ、窓から東の遥か彼方に見える黒雲を指したので、侯爵もやってきた。


「ずっとあの雲が見えるんですよ。つい2、3日前から、夜になると光って見える。……少しずつですが、黄金領域の瘴気は広がっています」

「先日報告は受けたが――」


 ヴィオとルカが、討伐軍に闇鳥で知らせた件だ。黄金領域とその対策について、侯爵や討伐軍でも共有されたはずである。


「瘴気にやられると、人は魔物になる、と」

「そして一部の物質は黄金化する。金目のものにつられると、モンスター化してしまいます」

「確かなのかね?」

「魔剣のほか、専門家の魔術師も間違いないと言っています」


 実際に化け物になるところは見ていないが、前回の討伐軍兵士が化け物になっていたのは見ている。


「敵が、瘴気をばらまく水晶柱を空から運んでくる手を使ってくるかもしれません。最初は、領主町を攻める時に対策ポーションがあればいいかと思っていたんですが、いつ、どこで黄金領域化するかわからない状況です」

「うむ」


 マルテディ侯爵が眉をひそめれば、各指揮官たちの難しい顔になる。


「常に、兵士たちに対策ポーションを配布できるようにしておくべきです。できれば、討伐軍全員に、最低ひとつポーションを携帯させておきたいですね」


 一本飲めば、約一日は効果が持続する。とっさの黄金領域でも、ポーションひとつで瘴気範囲から脱出する時間は確保できるだろう。


「こっちの方で、対策ポーションを生産できる体制を整えて、ひとまず各一本は全員に配れる分は間に合いました」


 ラウネ以下、ファウナと精霊たち、マルモなどの技術部の尽力のおかげである。


「ただ、さすがに継続生産するには、うちは人手もいませんし、今後、領主町への進撃も考えれば、討伐軍の方から人員を出していただきたいですが……」

「わかった。黄金領域対策は、今回の討伐戦において要となろう。その量産は、我々全員の命がかかっている」


 マルテディ侯爵の発言に、指揮官たちは頷いた。その指揮官のひとり、とある男爵が手を挙げた。


「その対策ポーションは、いつ配布されますかな?」

「すでに、到着した部隊に順次配っています。あなた方が部隊に戻られる頃には、全員がポーションを使えるようになっているかと」

「それはよかった……。いや、神聖騎士殿の話では、敵が今にも現れそうな口ぶりでしたから――」


 さすがに今すぐは――窓から外を見たら、何か外が騒がしい。うちのクランのディーとカバーンがいて、外壁上で警備についた討伐軍の兵も浮き足立っているような……。


「おいおい、まさか……」


 俺が東の空を見れば、マルテディ侯爵もそれに倣った。ポツポツと点のようなものが見える。鳥……しかしかなり遠い。何かを掴んでいるのか、縦に長いシルエット。それがこの距離で見えるってことは――


「敵だ!」


 鳥型邪甲獣が、黄金領域を発生させる水晶柱を運んで飛んでいる、まさにそれだ。


「早速、対策ポーションの出番のようです。大至急、全員に対策ポーションを!」

「伝令!」


 マルテディ侯爵はすぐに動いた。この場にいた指揮官たちも、自分の軍へと戻る。


 討伐軍がセッテの町に到着した早々、襲撃とは。敵もやるな……。

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