第269話、岩集め
横穴を塞ぐための土砂・岩を集める、と言葉にすると簡単そうなのだが、実行するとなると大変である。
問題のひとつは、砂や土の層。これはさすがに個々が小さすぎて、ダイ様の収納庫に一括で取り込めない上に、俺の持てるスキルも小さすぎてばらけてしまう。でっかい大岩1個という形なら重さも大きさも関係ないのだが、土砂についてはそうはいかない。
かと言って、リベルタメンバーを総動員して掘って集めるという手も、時間がどれほどかかるかわかったものではない。苦労と効果が釣り合わない。
ではどうするか?
砂や土ではなく、岩盤を砕いて、岩石を用いるのである。
幸い、ナハル亜種がコーシャ湖の底に穴を開けてくれた。その下にあった地下空洞の天井は、まさに岩石の層である。
というわけで、岩石を取りにいく。
インフェルノドラゴンに乗って、地下空洞の穴へ侵入……入れる、か?
『サイズを合わせる』
ダイ様がドラゴンの大きさを穴が通過できる大きさに変える。ゆっくりと降りつつ、穴の中の層を眺める。
神聖剣が言う。
『ここらは岩の層じゃな』
「よし。……ダイ様、浮遊岩を」
『うむ』
インフェルノドラゴンのそばに、例の浮遊する岩が出てくる。ドラゴンの背から岩に飛び乗って足場とする。
「ダイ様、ちょっと壁まで押してくれ」
この浮遊する岩、自力移動させる方法が今のところないんだよな。手間だけど、ドラゴンに押してもらって壁際に。
俺はオラクルセイバーを構える。
『大地の聖剣ソルブレード!』
岩の層に神聖剣を突き立てる。普通、岩盤に剣をぶつければ、弾かれることはあっても刺さることはない。
だが大地の聖剣の力を持つ神聖剣は、強固な岩さえ貫く! そして剣を握ったまま、神聖剣の効果範囲をイメージする。オラクルが俺のイメージを補強し、大地の聖剣ソルブレードの力を発動させる。
『地割れ!』
効果範囲内の岩盤にヒビを入れ、そのまま割って周りと分断する。
俺はすぐにオラクルセイバーを岩の層から抜いて鞘に戻し、たったいま割った壁に両手をつく。
地響きの音がしたのが一瞬、下へ落ちるだけだった岩の層がその場に静止する。よし、持てるスキルが、落ちる岩盤を持ったのだ。
「……ダイ様、じゃ、悪いけど、この岩、地上まで動かして」
先にも言ったが、この岩はただ浮いているだけで自力では動けない。
『しょうがないなぁ』
『頑張れ、姉君』
『お主は、いいよな。もう仕事ないもん』
「いや、この岩を適当な大きさに砕く時に使うさ」
俺は両手で岩の層とその上の土砂の層を持ったまま、インフェルノドラゴンに足場ごと押しもらう。
俺の持てるスキルの影響で、どんな超重量でも俺が持っていたり触れているもの重量は、足場や踏んでいる地形に掛からない。
もし掛かっているなら、俺は最初から魔剣を持って歩くこともできなかったし、馬に乗ったり、家に上がったりもできなかっただろう。
ダイ様が押している分の重量は、せいぜい浮遊する岩と俺の体重プラスほんのちょっとくらいなものだと思う。
「しかし、前が見えないな……」
周囲が明るくなり、穴の外に出た。が、俺の正面や上、左右は持てるスキルで持ち上げている岩盤以外見えない。
「ヴィゴさーん!」
ルカの声がした。振り返れば、ダークバードとそれに乗ったルカ、リーリエがいた。
「少し右にズレています! 横穴は、真正面を北に例えるなら北北西方向です!」
「ひだりー」
ルカと、リーリエが見えない俺たちを導いてくれる。インフェルノドラゴンがそちらへ押そうとするが……。
「いや、このまま突っ込むわけじゃないし、とりあえず、降りれる場所に降りようか」
この岩盤サイズでは、そのまま横穴に入らない。なので持ち上げた層を、湖底に置く。ちょっと傾いたら、上から砂がパラパラと落ちてきた。兜や鎧に砂がかかったぞ!
パッパッと砂を払いながら振り返ると、地下空洞の上の岩盤がなくなって大きな穴が空いていた。
横穴からの敵襲に備えて待機していたクランメンバーが何人か、興味深そうに大穴から下を覗いている。……落ちるかもだから、あんま乗り出すなよー。
さて、次の工程。
岩盤を横穴封鎖用に適当な大きさに砕く。だがその前に岩の層に乗っている砂や土の層が邪魔。下の岩盤を崩した時、これが上から降りかかって折角の大岩が埋まったり、回収の邪魔になる恐れがあった。
そうなると面倒なので、この土の層を吹っ飛ばす!
「オラクル!」
再び神聖剣を抜いて、大地の聖剣の技を借りる。ソルブレードを他の聖剣に合わせていく段階で、その使い方も頭に入っている。
ガイアクラッシュ!
神聖剣を土の層にぶっ刺し、大地の聖剣の力を打ち込む。衝撃が土の層を押し、乗っていた土砂が波のように前方へ飛散した。
まさしく押し寄せる波のように、土砂の壁が横穴へと飛び、横穴の入り口に降りかかった。4、5メートルくらいの土の盛り上がりができて、入り口を少し狭めた。
まあ、これはおまけだ。邪魔な土を退けただけで、本命はこれから砕く岩盤の方。俺はオラクルセイバーを使い、持ち上げ、そして置いた岩盤を適当な大きさに砕いた。
大地属性の聖剣は地味だって……? いやいや、これが中々どうして使えるじゃないか。
砕かれた大岩は、ダイ様が収納庫へ収納していく。結構な分量だったけど、もう1、2回くらい、同じように岩盤持ち上げて砕く?
「邪甲獣ダンジョンの砕かれた天井を回収した大岩が余っておる。それを足せばよかろう」
ダイ様が言った。
あー、そうそう、いつか使うだろうって、大岩を収納庫にしまってもらってたんだよな。ダイ様からは、我の収納庫はゴミ箱じゃないぞって、文句言われたけど。……ほら、役に立つだろう?
「よし……じゃあ、横穴埋めっぞ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます