第268話、岩の中には……
「これは珍しい。浮遊石だ」
あの浮遊する岩をハクに見せたところ、そのような答えが返ってきた。
「浮遊石!」
アウラがビックリする中、俺は腕を組む。
「まあ、浮遊している石だからな」
「何だか、オレとキミで、微妙に認識が違うみたいだけど、大丈夫?」
浮いている石だから、浮遊石、という意味ではないらしい。
地下空洞で回収した浮遊する岩を調べたいからと、アウラに言われて提供したのだが、結局解析したのは、白獄死書だった。
ゴリゴリと、ハクが浮遊する岩を削っていると、中から青い鉱石が出てきた。
「はい、これが岩を浮かせていた原因の浮遊石だよ」
「へぇ……これが」
俺は小さな宝石のような欠片を受け取る。アウラがズイッと顔を近づけた。
「こ、これが伝説の浮遊石……!」
「アウラ……?」
さっきから反応が変だぞ。
「何だよ、伝説って?」
「アナタ知らないの!?」
目を剥くアウラだが……。知ってりゃ聞かないよ。
「昔話で聞いたことがない? 神様の住む島が空の上にあるとかって」
「天に神様がいらっしゃるというのは、もちろん知っているよ」
俺を誰だと思っているんだ。これでも王都にいた頃は足繁く教会に通ってお祈りしていた人間だぞ。
最近遠征しているからご無沙汰だけど、すぐお祈りできるようにと、セッテの町での拠点は聖堂においたんだから。
「だったら知っているでしょう。神様は空に浮く島にいて、そこからワタシたち地上の生き物を見ていらっしゃるって」
「それはそうだけど。……浮遊石なんて出てきたか?」
俺的にお初だったんだけど。ハクが肩をすくめた。
「ただの信者は、神様の世界が何でできているか、とか関心ないものだからね。オレたち魔術師や研究者じゃないと、神の島がどんなもので、どうやって空にあるのか、どこにあるかなんて、考えないんだろうよ」
「実在するのか!?」
これには俺がビックリする番だった。ハクはニヤニヤする。
「おや、キミは神の存在は信じているんだよね?」
「そりゃな。俺の持てるスキルだって、神様から授かったものだ」
それに、オラクルセイバーを手に入れた時、剣の神ラーマの声を聞いたし、神託も賜った。
「だけど、神様の世界って、俺たちから触れることができない、どこか不可侵な場所なんだって思ってた」
「まあ、間違っていないよね。だけど、それが本当なのか、本当に触れられないものなのか、調べるのがオレのような魔術師や研究者なんだ」
ハクは、さらにゴリゴリと岩を削る。
「話を戻すと、神の島というのは、浮遊石を大量に含んでいて、その力で空に浮いている、というのが、オレたち魔術師界隈では有名な話だ」
「それで、浮遊石を見つけようと、昔から魔術師たちが躍起になっていたわけ」
アウラの言葉にも熱がこもる。かつては、躍起になって探していた口かもしれない。Sランク魔術師様も、若き日は神の世界を覗こうと調べたのだろう。……太陽神を信仰している俺としては、そういうのって神様に無礼じゃないかって思わなくもないけど。
ハクは、どんどん岩の塊から浮遊石を見つけ出して、取り出していく。
「で、この浮遊石というのは実在し、そしてこのラーメ領のコーシャ湖の地下に存在したわけだ」
「大発見だわ!」
アウラは声を弾ませた。
「しかもあの空洞って、水没しているけど遺跡もあったのでしょう? もしかしたら、神の島が地上に落ちて……あの遺跡は神の園だったかも!」
少女のように興奮を隠せないアウラである。別人みたいな変わり様。……神様のいる島が落ちてくることなんてあり得るのか? ちょっと信じられないな。
「何かはわからないけど、好奇心は疼くよね」
ハクは言うのだ。神の島と信じているわけではないが、それが何かは調べたいって顔をしている。
「水を抜かないといけないわね……」
「どこかに穴を開けるとか――」
アウラとハクが話し込む。いやいや、今はそういう場合じゃなくてさぁ。
俺は、浮遊石を手に取って観察しているダイ様やオラクルを見やる。こいつらもか……。
「遺跡調査もいいが、今はそれよりコーシャ湖の横穴を塞がないと」
そしてラーメ領から魔物や敵を倒さないといけない。もうじき、セッテの町に討伐軍が到着するんだぜ。
「それはそう」
アウラは頷いた。
「じゃあ、ヴィゴ。とりあえず、コーシャ湖の底、遺跡の上の天井をどうにか取り除いて、風通しをよくしましょう。横穴を塞ぐ地盤を横穴封鎖に利用、そして遺跡調査の準備もできる。一石二鳥!」
駄目だこりゃ。まあ、どの道、封鎖用の土砂は必要だからやるけどさ……。魔術師は一度、火がつくと没頭する傾向にあるって本当なんだなぁ。
・ ・ ・
浮遊する岩の正体がわかったところで、本題である横穴を埋め立てるための土砂集めに取り組む。
俺たちはコーシャ湖に向かい、湖底へと降りた。大きく開いた横穴からは、若干の瘴気が漏れ出しているようだが、黒きモノなどはまだ出てきていない。
監視していたゴムの分裂体も『異常なーし!』と元気よく答えていた。
発生源が近くにあるわけでなく、ただ流れてきているだけみたいだけど、埋めれば漏れないんだろうか? あんまり自信ないな。
ま、敵が来れないようにするだけでも意味はあるかな。
「わからぬぞ。地面を掘るタイプの邪甲獣が来たら、また穴を開けられてしまうやもしれぬ」
「ダイ様……それを言うなって」
意味ないかも、というのが一番堪える。誰だって徒労に終わりたくない。オラクルが口を開いた。
「そういう邪甲獣でもこない限りは、黒きモノなどの侵入を阻んでくれるのじゃ。意味はあるじゃろ」
「だな」
敵が出てくる前に、塞いでしまいましょうかねぇー。
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