第267話、とりあえず調査したけど……
「ターレ川の横穴をどうするか、これが問題よね」
アウラはそう告げた。
コーシャ湖の水消失事件に関係するふたつの穴の調査が終わり、湖の底に穴を開けた思われる邪甲獣ナハル亜種は倒した。
発生した瘴気もなくなり、湖底の方は安全を確保した。しかし、同じくコーシャ湖の東、ターレ川の下にある方の大穴、通称『横穴』の存在が、俺たちを悩ませていた。
セッテの町の聖堂内。俺たちリベルタが勝手に会議室とつけた一室で、俺たちは顔を付き合わせるのである。
「横穴の何が問題かというと、領主町の精霊樹にまで通じている」
俺はため息をついた。
「黄金領域内だし、黒きモノまでいやがった。通るのも大変だが、逆に領主町から敵が攻めてくる可能性もある」
「精霊樹に繋がっている、というのは、つまりこちらからも仕掛けることができるってことでもあるのだけれど――」
アウラは自身の緑色の髪を撫でた。
「ダイ様のダークバードで乗り込んでも苦労するのに、もし徒歩で行こうなんてことになったら、まあ敵にやられてしまうでしょうね」
『地上は論外』
カイジン師匠が腕を組んだ。その視線の先には、手書きのラーメ領の簡略地図があって、問題のターレ川の上を、リーリエがトコトコと歩く。
『それならば結論は出ているのではないか?』
横穴を封鎖する。どうせ使わないなら、敵が使えないように塞いでしまえばよい。……まあ、普通に考えたらそうなんだけど。
「横穴が大きすぎて、封鎖するのも大変なんですよね……」
俺がダイ様を見れば、魔竜剣の少女は肩をすくめた。
「川の下、横穴の天井を崩すというのが一番簡単ではあるのだがなぁ……。たぶんだが、天井を崩しても、あの横穴の大きさから、完全に埋まらない」
魔法とか魔剣とか聖剣の力で、どうにかこうにか横穴天井を破壊できたとしても、余裕で隙間ができてしまうと。
「かといって、川に沿って天井を全部崩すってのも現実的じゃないし」
アウラが首を傾げる。それをやるとどこまで崩すか、って話になるし、敵もいることを考えれば面倒ではある。そして最終的に、結局はその方法では塞ぎきれないっていうね。
「……ちょっといいかな?」
ヴィオが、おずおずと切り出した。
「僕だけかな……? 皆、簡単に横穴の天井を崩すとか言っているけど、そんな簡単にできるものなの?」
「まあ、普通は、そんな簡単じゃないわよね」
アウラが、チラと俺の方を見た。
「ダイ様の6万4000トンアタックで、川底を何度かぶっ叩けば、横穴の天井になっている部分は崩せると思う」
「それ、危なくない? ヴィゴが」
崩れた足場もろとも、崩落に巻き込まれて……。
「うん、俺も危ない」
俺が認めると、アウラが嘆息した。
「46シーとか、神聖剣のディバインブレスとか、他にも方法はあるでしょ」
そうだよな、うん。ダイ様こと魔剣ダーク・インフェルノは、かつて大地を割るほどの力を持って、封印されていたという。そういう魔剣だから、岩盤破壊もできなくはない。
俺も最初は、全然魔力はなかったけど、今はそこそこ伸びてきて、魔剣の力もある程度引き出せるようになっている。今でこれだから、もしフルで使えたら、どれだけのことができるんだろう……?
セッテの町にいながら、、領主町に影響のある攻撃ができたりして。
俺がそんなことを考えていると、オラクルが隣にやってきた。
「なあ、気づいているのはわらわだけなのかや? 封鎖する方法ならあるだろうに」
「何かいいアイデアが?」
「アイデアも何も――」
オラクルは、何故かダイ様にジト目を向けた。
「日頃から姉君が自慢しておるじゃろ。7100トン入る収納庫とやらだ。そこにし
こたま岩でも放り込んで、そいつを横穴にぶちまければ、さすがに塞がるじゃろうて」
「8800トンな! 今の我の収納庫にはそれだけ入るわ」
ダイ様が吠えた。
あれ、そうだっけ。途方もない数字だから、俺もあんま覚えてなかったけど。でも悪くない話だ。
埋める土砂が足りないなら、どこからか運んでくればいい。アウラとカイジン師匠も考え、そして何度か頷いた。
『なるほど、不足するなら足せばよい。道理だ』
「となると、次の問題はその不足分をどこから持ってくるか、ね……」
「そんなもん、水のなくなったコーシャ湖を削ればよかろう」
オラクルが、リーリエの足下――地図の上のコーシャ湖の底を指さした。
「ほれ、ここに穴が空いておる。いっそその周りの岩を集めて、下の空洞との風通しをよくするのも手じゃぞ?」
むしろ、あの穴は危ないから塞いだほうがいいと思ったのは俺だけか?
「そうねぇ、コーシャ湖はもう水もないんだし、元々底も深かった。今さらもっと深くなったって、誰も困りはしないでしょ。木が生えているわけでもないし、削ったところで土砂崩れが起きるでもない」
『空洞がある分、穴が空いて天井が崩落する可能性があるかもしれぬ。今の状態のほうが危険ではなかろうか?』
カイジン師匠が言えば、アウラは指を鳴らした。
「じゃあ、その地下空洞の天井を、横穴を埋めるために使いましよ! ヴィゴ、いいわね?」
「お、おう……」
いいも悪いもないが、そういうことなら、やりましょう。
もうじき、討伐軍がラーメ領に到着する。それまでに横穴を塞いで、敵からの逆攻撃のルートを潰してしまおう。
……本音を言うと、精霊樹までの直通ルートは残しておきたいけどな。でも行きであんなに苦労した手前、また行きたいかと言われると、ちょっと待って、と言いたくなる。
「あ、そういえばダイ様。あの地下空洞で、浮遊する岩、回収したよな?」
「したぞ。それがどうした?」
首を捻るダイ様。俺は言った。
「あれも、色々試してみようぜ。もし他の場所でも浮くんなら、足場として作業にも使えるかもしれない」
「ねえ、ヴィゴ。あの浮いている岩を持ってきたの?」
アウラが聞いてきたので、俺は頷く。
「それなら、1個、調べるためにもらえない? 何で浮いているのか、理由が知りたいわ」
「そうだな。いいよな、ダイ様?」
「うむ、構わんぞ」
確かに何で浮いているのか、わからないままよりわかったほうがいい。その理由がわかれば、魔道具とかに応用できるかもしれないしな。
ともあれ、まずは横穴封鎖の準備を、始めるか!
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