第263話、横穴と湖底の穴
行きも大変だったが、帰りも中々面倒だった。
しかし一度通った空洞だ。見え方は違うが、何となく地形は覚えている。だから黒きモノが弓で狙ってきても、俺は適当に神聖剣から光弾を飛ばして迎撃した。
行きよりも当たってると思う。外れても、地形ごと抉ってやれば、黒きモノとて怯み、攻撃の機会を逃すことになる。
こっちはダークバードで、ほぼ全速力で突っ切っているからな!
後ろを見れば、ルカ、カメリアさんの闇鳥もしっかりついてきていて、その後ろにゴムが化けたダークバードもいた。そのさらに後方は……追っ手はないようだ。
「よそ見をするなよ、ヴィゴ!」
ダイ様の声。
「洞窟を出るぞ!」
ダークバードは、空洞を出て、干上がったコーシャ湖に戻ってきた。お外は眩しい……!
ゆるりと旋回しつつ高度を取る。改めて見ても、後続は無事についてきている。鳥型邪甲獣は出てこない。
「やらやれ、まさか精霊樹のもとまで繋がっていたとはな」
「領主町の攻略ルートが増えたな」
ダイ様が横顔を見せる。
「ただし、狭い洞窟内。いくら闇鳥で飛べるとはいえ、待ち伏せ上等の地形だ。連中も精霊樹を守るつもりなら、次はもっと分厚くガードされておるだろうな」
「徒歩で簡単にいけるものでもないしな」
「あそこを歩いていくくらいなら、素直に地上ルートを進んだほうがいいだろ」
だよな。しかも敵には黒きモノが、たくさんいた。それだけでもゾッとする。ハクは、黒きモノでも神聖系の魔法で対処できるって言っていたし、その方法を仲間たちにも広めた。
だから、次に乗り込む時はその神聖系魔法を施してから、になるだろうな。今回もそれをやっておけば、ユーニの弓で、多少の黒きモノを倒せていたに違いない。
カメリアさんとアウラが乗るダークバードが、近づいてきた。
「外は特に何もなかったみたいね!」
俺たちが留守の間にセッテの町が襲われるとか、それはなかったように見える。まずは一安心だが――
「あのターレ川の下の穴、やっぱ敵が湧いてくると思うか?」
「黒きモノが道中にいたんだもの、その可能性はあるわね。できれば塞いでしまいたいところだけど……」
俺たちは、ターレ川の下の大穴を見やる。上の地盤を崩しても、完全に塞げなさそうなくらい大きいんだよな、この穴。
それと気になっているのは、もうひとつ――コーシャ湖の底の部分にある巨大穴。横穴よりは小さいが、翼を広げたダークバードでも、そのまま垂直に降りられるなら通れる大きさはある。
「横穴については考えるとして、ひとまず、底の穴を調べておくべきだと思う」
「気にはなるけど……いいの?」
「何で湖の水がなくなったのか、気になってるんだよな」
俺は、ダイ様にセッテの町へ戻るように指示し、随伴するカメリアさんの闇鳥に乗るアウラへ視線を戻した。
「横穴が開いただけなら、底に水が残っているはず。それがないってことは、あの底の穴も昨晩のうちに開いたってことだ。もし地面に穴を開けるような化け物がいるなら、まずそいつを何とかしないと、横穴を対策してもまた破られるかもしれない」
「あの穴の原因は、化け物?」
「勘、というか、他に思いつかなかっただけ」
確証はない。だが、うだうだ考えるより、行って確認したほうが早い。
・ ・ ・
セッテの町に戻り、待機していたリベルタメンバーと合流した。
「お帰りなさい、ヴィゴ」
ヴィオやイラたちが出迎えてくれた。変わりなかったかと確認すれば、特に何もなかった、と答えが返ってきた。
今度は俺たちの報告する番だけど、コーシャ湖底の穴を早く調べたいから、報告は簡潔に済ませる。あの穴は領主町の地下まで伸びていて、精霊樹の根が張っていた。黒きモノが徘徊して侵入者を待ち受けている――以上!
「そんなわけで、あの横穴から邪甲獣や黒きモノが出てくる恐れがある。セッテの町にも襲撃があるかもしれないから要注意だ。戦闘になったら通常の武器では通用しないから、神聖属性持ちのものを使うこと」
これは全員に周知させておく。知らずに挑んで攻撃が効かない、なんて馬鹿らしいからな。
「で、これから湖の底の穴を調べようと思う」
ということで、人選。俺、アウラ、リーリエ、ゴムはそのまま。横穴対策で戦闘と激しい空中機動をこなしたルカ、ユーニ、カメリアさんは町に残す。シィラ、ネム、セラータ、ディー、カバーン。
たぶん、今度は徒歩移動がメインになると思う。穴の大きさ的に、ダークバードが複数飛び回って、避けたりするような余裕はないだろう。
「また、僕はお留守番かい?」
ヴィオが自身の腰に手を当てて苦笑する。
「お前が頼りになるからだ」
セッテの町を頼むぞ。正直、いつ横穴から敵が飛び出してくるかわからないから用心はしておかないとな。
再度、準備をして、湖底の穴調査隊、出発! ダークバードに乗って現地へ飛ぶ。横穴からは……まだ敵が出てないな。
「ゴムーっ!」
『なぁに?』
ダークバードに化けたゴムが、そばにきた。
「分裂体を2体、横穴が見える位置に配置してもらえるか? 敵が出てきたら、1体はセッテの町の仲間たちに報告。もう1体は、湖底の穴にいる俺たちに報告してくれると助かる」
『わかったー』
うにょーん、とダークバード・ゴムが二つに上下に避けるように分かれると、すぐに2羽のダークバードになった。スライムの分裂って凄いよな……。
さて、俺たちは湖の上方から円を描くように旋回しつつ降下。周りの観察と、底の穴から、敵性の何かが飛び出してきた時に備えて警戒する。
相変わらず、先導するのは俺の乗るダークバードを制御するダイ様。後続するメンバーの乗る闇鳥も、ダイ様が操っている。
改めて思うが、湖の底、深いなぁ。周りが山みたいに見える。
そして湖底に到着。穴は直径20メートルくらい。ダークバード1羽なら余裕だが、2羽並んで下りるのは無理だろう。下りるとしたら1羽ずつ、垂直に並んで下りる格好になる。
「これまた深そうだ……」
「底が見えないな」
ダイ様が下を覗き込む。日が直接差し込まないせいで、暗闇が広がっている。
「オラクル、ちょっと光って、どこまで見えるかやってみよう」
俺は神聖剣を抜き、体を傾けて、ダークバードより下に剣先を出す。
『わらわは照明ではないのだがのぅ』
ボヤきながら、オラクルセイバーの剣身が白く輝いた。……まだ底が見えないな。
『光球を落とす』
神聖剣から、光の球が放たれた。ぽっかり開いた闇の中を照らしながら、光は落ちていった。
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