第261話、精霊樹の下で
地下空洞をダークバードが猛スピードで飛び抜ける。ぐりんぐりん動くので、しっかり掴んでないと振り落とされそうだ。
下や横の足場から、黒きモノが矢を放ってくる。そのせいで回避を強いられている有様だ。
「敵だらけだ!」
こんなところを降りたら、四方から狙い撃ちされる!
「ユーニ! 黒きモノに普通の矢は利かないわよ!」
アウラの声がしたので振り向けば、ルカの操るダークバードの後ろに乗っているユーニが得意の弓矢で反撃していた。彼女の正確無比な射撃は、黒きモノに当たっているようだが……。
と、吊り橋が落ちて、乗っていた黒きモノが落下した。弓を使おうとしていた奴が二体ほどその機会を逸した。
「ユーニ、やるぅ!」
リーリエが歓声を上げた。今の橋落としはユーニがやったのか。
「やるなぁ……!」
その間にも俺たちを乗せたダークバードを空洞を飛ぶ。どこまで続いているんだここは。冗談でもなく、領主町の地下にまで繋がっているんじゃないだろうか?
「ヴィゴ、この先、嫌な感じ」
肩の小妖精さんがさらに俺にくっつく。彼女は、闇の気配とか人一倍危険に敏感だからな。すでに黄金領域の中だが、さらにヤバいのを感じるって、これはひょっとしてあるかもしれない。
「ダイ様、どうだ?」
「まあ、嫌な予感はしているよ」
俺の前に座ってダークバードを操っているダイ様は振り返らなかった。緩やかなカーブを描く空洞。やはり、黒きモノがいて矢を放ってくる。
「邪魔!」
俺は神聖剣を向けて、壁面などにいる敵に光弾を撃つが――
「早すぎて、当たらねえ……!」
ユーニがやるようにはいかないってことだ。それだけ彼女が卓越した弓使いってことだな。
「抜けたか!?」
ダイ様が唐突に言った。何が、と思った時、唐突に前方の天井が崩れた。
「おいおいっ!」
何か巨大蛇のようなものが天井を突き破って出てきたような……? ガラガラと崩れる中央を壁際に避けて回避。
しかし、今度は下からその蛇のようなものが壁面を砕いて出てくる。ダークバードは上昇に転じて飛び越えるように避ける。
こんな岩の洞窟に出てくる蛇っぽいが蛇じゃないとすれば――
「ワームかっ!?」
しかしこんなデカいワーム――ジャイアントワームにしても大き過ぎないか?
「違うぞヴィゴ。ワームでも蛇でもない!」
ダイ様が闇鳥を左へと回避させたので、体がそちらへ流されそうになる。ジャイアントワームでも大蛇でもないというものが、さらに壁面から飛び出してきて、俺たちに襲いかかる。
「これは、木の根だ!」
「はぁ!?」
木の根って、嘘だろ? 正面真下から木の根というそれが飛び出す。大口開けて、何か叫んでるが!?
「木の根に顔なんてあるのか?」
「トレント?」
リーリエが言えば、ダイ様が皮肉った。
「マンドレイクだって、引っこ抜かれたら悲鳴をあげるだろ!」
「自分から引っこ抜くマンドレイクなんて聞いたことないぜ!」
さらに避けるダークバード。木の根とかいう馬鹿デカいそれは、ドラゴンのような顔がついたものもあれば、ただ触手のように伸びてきているものもある。確かに色合いは木だな。
「こいつらが――うおっと! 木の根って言うなら、精霊樹か?」
「たぶん、なっ!」
グンと回避したせいで、強く体が引っ張られた。アウラやルカたちは大丈夫なのか? 心配になって、チラと一瞬だけ振り向けば、後ろに二羽の闇鳥が飛んでいるのが見えた。よし、まだ大丈夫そうだ。
「正面、光だ!」
ダイ様の声。キリリと心臓が緊張のあまり痛む。洞窟じみた空洞を抜けた。そこは地下であることには変わらないが、広々とした空間が広がっていた。
「地底湖……?」
底には大量の水が張っている。いや上から水が滝のように流れ込んでいる……?
だがそれよりも、天井にびっしり生えた木の根が目を引いた。大きさからして――
「精霊樹か、これは……!」
地下空間自体、領主町くらいの広さはありそうだ。なんてデカいんだ……。地上、遠くから見た汚染精霊樹もまた巨大だったけど、これを何とかしないといけないのか。
「これ、46シーやドラゴンブレスでどうにかなる代物なのか……?」
あまりに大きすぎる!
「しっかり掴まれ!」
ダイ様が叫んだ。巨大な根が落ちてきた。否、伸ばしてきた。侵入者を許さないってか?
「頭上注意!」
アウラの大声が耳に届いた。ゲッ、黒い塊が落ちてきた。鳥――邪甲獣!
顔面に継ぎ接ぎ装甲板を貼り付けた異形の巨鳥が、パラパラと降ってくる。
「多勢に無勢だ! 逃げるぞ!」
ダイ様が闇鳥を引き返させた。確かに、この数はいくら神聖剣があっても、無策で挑んでどうにかなるとは思えない。
「またあの洞窟を戻るのか……!」
「他に道があるか?」
ダークバードは加速し、元来た道へ引き返す。ルカもカメリアさんも、しっかりついてきているな……?
「あれ、そういえばゴムは?」
最後尾を飛んでいたはずだが、いつの間にか見ていないような……。
「まさか、やられちゃったぁ!?」
リーリエが叫ぶ。まさか、とダイ様が鼻で笑う。
「あのサタンアーマースライムが、矢とか木の根にやられるものか。むしろ逆に喰ろうておるのではないか?」
聖剣とかじゃないと傷すらつけられない魔王武具素材スライムのゴムである。煮ても焼いても食えない、黒きモノにも取り込まれないヤツがやられるとも思えない。
「おや……いたぞ、ゴムだ」
ダイ様は言った。え、どこ? 正面を見れば、道中襲ってきていた木の根が、ぼろん、と落ちた。黒いものがくっついて食っているような。
「ひょっとしてあの黒いのゴムぅ!?」
そうなのか、リーリエ? ダイ様が口を開いた。
「どうやらアヤツ、根っこを躱せずぶつかったようだな。それでそのまま捕食したのだろうよ。ともあれ、道は開いているな!」
「ゴム、戻るぞ! 来い!」
飛び抜ける寸前に、俺は大声で呼びかけた。ほとんどすれ違いざまだったけど、あいつ聞こえたかな……?
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