第259話、湖の大穴


 ルカとヴィオが、ダークバードに乗って討伐軍へと飛んだ。


 俺たちはセッテの町の守りを固めて、警戒しながら過ごした。やはり、鳥型邪甲獣が汚染岩柱を運べるという手の衝撃が大きい。


 おかげで、いつ奴が飛んでくるかわからないから、空も見張らないといけない。夜ともなれば、視界が昼間より制限されるから、ネムやディー、カバーンなど亜人や充実の能力に頼るところが大きかった。


 結局、その日はセッテの町に敵は来なかった。ルカとヴィオも無事に討伐軍に行って帰ってきた。


 だが――


「ヴィゴ兄! 大変、大変だよっ!」


 セカンドホームで休んでいた俺のもとに、ネムが駆け込んできた。ずいぶんと騒がしいモーニングコールだが、気持ちは緊急事態に備えていたから、すぐにベッドから飛び起きた。


「何があった!?」

「湖の水がなくなっちゃったっ!」


 ? ……湖の水? え、何それ。思っていたものと違う事案に、ちょっとまだ俺の思考はついていけなかった。


「早く! 皆、集まってるよ!」


 お、おう。着替えを手早く終わらせて、鎧は……まあいいや。魔竜剣と神聖剣を持って、と。そういえば、ファウナもコーシャ湖の水位が下がっているとか言ってなかったっけ。


 ということで慌てて、俺とネム――途中、寝ぼけ眼のヴィオとニニヤと合流して、妖精の籠の外へ。聖堂を出て、セッテの町を出て移動。……結構距離があるんだが?


「乗れ、ヴィゴ」


 ダイ様がダークバードを出してくれた。俺たちはコーシャ湖まで飛べば。


「うわぁ……」


 ぽっかり深い窪みがあった。コーシャ湖は、確かにそこにあった大量の水が消え失せて、剥き出しの地表を露わにしていた。


 でかいな。コーシャ湖って底が深くない? たとえば一番深いところに城を建てたら、尖塔とか一番高い部位が、ようやく水面を突き抜けるくらいじゃないか?


 しかし気になるのは、ふたつの大きな穴。ひとつはコーシャ湖の底、その中央部分。もうひとつはターレ川がコーシャ湖に流れ込む場所の下に、巨大な横穴が開いている。


 コーシャ湖の水は、このふたつの穴から抜けてしまったのではないか、なんて、突拍子もないことを思いついた。


 だがそうなるには、そもそも穴が空いてなくて、突然空洞と穴が繋がった、でもない限り流れていくなんてあり得ないけど。もとから空いていたなら、そもそも水で満たされているはずだから流れ出ることもない。


「そういえば、川も干上がってない?」


 ヴィオが指さした。確かに、ターレ川からも水が流れてこない。


「どうなってるんだ……」


 川が流れてこなくなった、というだけで、湖の水が半日程度で消えたりはしない。下流に流された――いや、それでも底の水位のほうが深い。水が止まって、一定量が下流の川へ流れても、川の水位より下に位置している分は、溜め池よろしく残るはずだ。


「お主たち、気づいておるか?」


 オラクルが少女の姿になって言った。


「この湖の穴から、瘴気が出ておるぞ」

「何……!?」


 ひょっとして、露わになった湖の底でキラキラしているのって、陽光が反射している魚の死体じゃなくて……黄金?


「黄金領域!?」


 シィラとネムがたじろぐ。お前らお守りは持っているな? 俺はネックレスよろしく寝るている時も身につけていたぜ。


「あの穴から、黄金領域の瘴気が流れ込んできているのか……?」

「これも敵の仕業でしょうか?」


 ルカが身構える。アウラが頷いた。


「かもしれないわね。湖の水を一気に消滅させるとか、ちょっと普通じゃないわよこれは」

「……塞ぎますか?」


 ファウナが聞けば、セラータが「どうやって!?」と目を回す。これはあれかな。


「昨日は、空から邪甲獣を使った。今度は地面の下を邪甲獣で掘ってきたのかも」

「そういえば、ナハルだっけ? 巨大な大蛇型の邪甲獣」


 アウラが手を叩いた。


「あいつも地面に穴掘っていたわね」

「でもあの穴、大き過ぎませんか?」


 ルカがターレ川の下にある大穴を指さした。確かに、高さもあって、軽く3、40メートルくらい。横幅も30メートルくらいあった。ダークバードでも余裕で通れるくらい。


「別にナハルとは限らない。ワタシたちの見たことがない未知の邪甲獣かも」

「穴はふたつ」


 俺はそれぞれを見た。


「そこから瘴気が出てきて、周りを汚染しているんだ。セッテの町と目と鼻の先だ。さすがに放置ってわけにもいかない」

「穴を探索する?」

「ああ。もし黄金領域を生み出す岩柱があれば、ぶっ壊しておかないといけない」


 むしろ、そういうあからさまに発生源となっているものがあると、対処できるからありがたいのだが。


 領主町と繋がっていて、そこから流れてきているとかだったら、どうにかして穴を塞がないといけなくなる。


 ……いや、待てよ。領主町まで繋がっているなら、それは攻略ルートのひとつにならないか?


 あのふたつある穴が、それぞれどこまで伸びているのか、あるいは繋がっているかはわからない。調べないとな。



  ・  ・  ・



 一度、セッテの町に戻り、探索メンバーを選ぶ。……といっても、ダークバードを使うから、自ずとメンバーが決まってくるのだが。


「探索はターレ川の下の大穴。闇鳥を使う。行くのは、俺とダイ様、オラクルのほか、リーリエ、ルカとユーニ、アウラ、カメリアさん。それとゴム。お前、変身できるだろ。闇鳥に化けてついてこい」

『わかったー』

「あたしは!?」


 シィラが言ったが、俺はやんわりと返す。


「お前は闇鳥を操れないだろう。いざ事が起きた時、ダイ様もサポートできないかもしれないから、いざという時、乗りこなせるやつじゃないと困るんだ」


 アウラとユーニは、魔法と投射攻撃要員だ。


「シィラがユーニ並みかそれ以上の弓使いなら、連れて行くがどうだ?」

「……う、わかった」


 しょんぼりするシィラ。ダークバードが絡むと、ルカが優先される。馬だったらシィラも負けてないんだけど。


 朝食を搔き込み、防具をつけて装備確認。さあ、未知の大穴へ行くぞ!

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