第257話、水位の変化
お礼参り――要するに、あの黄金領域を生み出す巨岩を、ラーメ領を不法占拠する奴らにお返ししたんだ。
まず、俺が持てるスキルで、岩柱を持ち上げます。
インフェルノドラゴン、ディバインドラゴン、どちらでもいいので乗せてもらって、ニエンテ山の上まで飛んでもらいます。
そして、黄金の領主町が見えたら、持てるスキルでぶん投げ、さらにそこに魔法によるブーストを加えて、打ち出します。
持てるスキル効果でぶっ飛んだそれを、魔法でさらに飛距離を伸ばしてやった結果、カタパルト――投石機よろしく、岩柱を町に放り込んだのだ。
城には当たらなかったが、城下町には落ちた。もうあの町に民間人はいない。魔物と邪甲獣が蔓延り、黄金領域まであっては一般人が生き残れるわけがないのだ。
命中精度については研究の必要ありだが、遠距離から攻撃するのに使えるかな、と思った。
黄金領域に対する護符も、まったく問題ないのも確認したし、今日はこのくらいにしておこう。
……それにしても、黄金の町に、汚染精霊樹か。また少し樹が成長しているな。もう城よりも大きいのが一目でわかる。
「こいつは、どこまで大きくなるんだ?」
「さあなぁ」
ダイ様は突き放すように言った。私に聞くなってか。
「どこまで成長するか見物ではあるがな。伝説に聞く、天にも届く世界樹くらいになるかもしれん」
「世界樹は、あるなら一度見てみたいものだ」
おとぎ話くらいしか聞いたことないけど、冒険者であるからには、やっぱ見たいよな。
「だけど、そこまで大きくなっている時には、この国全体が黄金領域に飲み込まれてないかな」
さすがにそれは願い下げだ。
「やっぱり、あの精霊樹、どうにかしないといけないよな」
黄金領域の発生源となっているあの樹。あれがある限り、討伐軍も対策しない限り近づけない。
そして討伐軍全体にその対策が行き渡るのか、という疑問も大きい。領主町とカパルビヨ城を敵から奪回するのとは別に、精霊樹だけを叩くことを考えたほうがいいかもしれない。
『また、あの鳥型が飛んでおるのぅ』
オラクル――ディバインドラゴンが言った。精霊樹の周りを、大きな鳥型邪甲獣が飛んでいるのが見える。遠くからざっと見た感じ、5、6羽は見える。たぶん、もっといるだろう。
「うーん?」
「どうしたダイ様?」
「気のせいか? 川の水が、この前来た時より少なくなってないか?」
「ターレ川?」
俺は山頂から見える汚染精霊樹より南へ視線をスライドする。最初の偵察の時、この川を登ってやってきたのだが……。
樹が大きくなったせいか川がちっちゃく感じる、というわけでもなく、確かに――
「水量が減ってるように見えるな」
領主町に接しているターレ川である。それが下流へと流れ、第一の町セッテに比較的近いコーシャ湖に流れている。
『そういえば、あの川の水、大丈夫なのかの?』
オラクルは指摘した。ターレ川の一部は黄金領域に入っていて、その水が川に沿って、コーシャ湖に流れ込んでいる。さらに下流の地域にも。
「やっぱ汚染されているのか?」
「そう考えるべきだろうが……調べてみたほうがいいのではないか?」
「だな」
俺とダイ様は、ディバインドラゴンの背中に乗り、その場を離れる。一度、待機しているルカたちと合流して、ちょっと川のほうも調査しよう。
……まあ、手遅れな気もするが。いつから黄金領域が発生していたかわからない。だが俺たちが王都カルムに戻っている間に、すでに領域に触れた水がターレ川やコーシャ湖に流れ込んでいただろうから。
・ ・ ・
ラーメ領領主町、カパルビヨ城。
スヴェニーツ帝国特務団団長のボーデンは、元侯爵の執務室にいて、ペルドル・ホルバと話し合っていた。
「――黄金石を城下町に打ち込んでくるとは。カタパルトで飛ばせる大きさではあるまい。魔法だとしても、常軌を逸している」
「まあ、こんなことができるとすれば、やはり――」
「ヴィゴ・コンタ・ディーノか。どこまで我々の邪魔をする男だ」
ボーデンは苦虫を噛み潰したような顔になる。ペルドルは苦笑する。
――もう何でも、悪いことはヴィゴのせいになっていないか?
ペルドルは思うのである。
ともあれ、セッテの町へ進出しているだろう討伐軍に対する黄金領域をぶつける先制攻撃は、阻止されたとみていいだろう。
このまま黄金領域を盾に待ち受けるのか。あるいはこちらからまた何か仕掛けるのか――ペルドルは、ボーデンの判断に委ねるつもりである。
そこへ扉がノックされる音が響いた。
「何か?」
「失礼します!」
黒装束の特務団兵が入ってきた。
「ターレ川の見張りより報告です。……やはり川の水位が下がってきています」
「原因は?」
「は、どうやら精霊樹の根が、川の上流付近にも伸びて、そこから水を取り込んでいるようです。黄金領域外から流れてくる水量は、特に変わっていませんので、おそらく」
「ふむ……」
「あれだけ大きな精霊樹ですからな。何が起こってもおかしくありません」
ペルドルはお茶を啜る。
不思議なことに、土や植物、生き物は黄金領域の影響を受けるのに、水だけは元のままである。
自分たちが飲む分だから、毎回検査をしている。必要なら浄化を、と準備もしているが、現状、黄金領域に触れた水も無害である。
興味深くはある。黄金領域内の魚などの水生生物も汚染されるが、水自体は無害。領域に入ってしまったせいで変化するが、入らなければ影響しないときている。仮に水まで汚染されていたなら、ターレ川が通る下流域は地獄となっていただろう。
ボーデンたちからすれば、むしろ汚染してくれたほうがウルラート王国をさらに混乱させられたのだろうが、世の中そう都合よくいかないらしい。
本当に世界は……大自然というのは、わからないことのほうが多い。
――まあ、精霊樹は水を吸って、スクスク育っているようだし、これは観察し甲斐があるというものだな。
ペルドルは口もとを歪める。
果たして次は何を引き起こしてくれるのか。研究者として、とても興味をそそられるのである。
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