第256話、黄金の岩柱


 本当にろくでもない代物だ。


 俺は、地面に突き刺さった岩柱を見上げた。


 高さ5、6メートルほど。黄土色の岩柱は、近くで見れば水晶のようにわずかに透けていた。


 この岩柱の周りは、見事に黄金化しており、黒いオーラのような瘴気がわずかに立ち上っている。絶対、体に悪いぜこいつは。


 黄金領域でお守りは効果があるのか――その実証は果たされた。俺たちは誰ひとり、変異することも気分が悪くなることもなく、領域内にいられた。


「凄い、本当に金だ!」


 ヴィオが黄金化した岩や植物にビックリしている。ルカとユーニは、ベスティアたちが撃墜した邪甲獣のほうを見ていて――


「おぅえぇぇ-!」


 カバーンが吐いていた。その背中をカメリアさんが、さすってあげている。俺は聞いた。


「具合が悪いのか?」

「乗り物酔いのようです」


 カメリアさんが、カバーンの代わりに答えた。獣人だから、お守りが効いていないとか、そういうのではないらしい。


 それはそれでよかったが……、あいつ、そういえばドゥエーリ族の集落へ行った時もお空はダメそうだったな。


「お守りは効きましたね」


 ガストンが言った。俺は頷く。


「いいことだ。これで領主町にも乗り込める」


 少なくとも時間制限を気にして戦うなんてことはなくなる。


「それで、これですが……」


 俺たちは、岩柱を見やる。


「これが黄金化の発生源でしょうか?」

「どうかな。だがこれもその黄金領域を生み出しているのは間違いない。そして厄介なのは、邪甲獣が、こいつをどこかへ運んでいたということだ」

「例の帝国の仕業でしょうか?」

「状況から考えると、そうだろうな」


 このラーメ領を滅茶苦茶にした連中の仕業だろう。


「そして奴らは、この柱を使って、黄金領域を増やそうとしていると」

「こんなものを集落や王都などで使われたら……」


 ガストンが口元を引きつらせた。


「ああ、最悪の事態だな」


 そこにいる人間は魔物化し、辺り一面が黄金になる。そしてその黄金を見て集まってきた者たちも、魔物化と、黒きモノたちの餌食のどちらかだろう。


「あの邪甲獣ども、街道に沿ってこの柱を落とすつもりだったようだな」

「最初の一頭が、落としてましたね」


 ガストンが言えば、ヴィオが立ち上がった。


「敵は、この一帯も黄金領域にしようとしている?」

「ラーメ領全体を、黄金領域にするつもりかも」


 王国の危機である。黄金に包まれる一方、対策なしで人が住めなくなる土地。黒きモノが徘徊する魔境と化す。


 断固、そうはさせない。


「ヴィゴ殿、差しあたり、ここの柱はどうしますか?」


 ガストンが問うた。このまま放置しておくなんてことはできない。この落下場所は街道にも近く、討伐軍の通行にも影響が出るかもしれない。


 それに、もし時間と共に影響範囲が拡大したら大変なことになる。


「ダイ様、これ、収納庫に入れられる?」

「おすすめせんぞー」


 拗ねた子供のような返事をするダイ様。


「我の収納庫が汚染されてしまうわ」

「どれくらい入るか知りませんが――」


 ガストンが冗談っぽく言う。


「役に立たないガラクタと一緒に入れておいたら、黄金になりそうですね」

「名案だ。大金持ちになれる」


 俺もガストンも苦笑する。お互いに冗談なのはわかっている。……面白いことをいう男だ。

 それにしても、収納庫いっぱいに入れたら8100トンの金塊か。金の価値が暴落しそう。


「世界が全て、金になったら、果たして価値なんてあるのかな」


 それはそれとして。


「とりあえずは、破壊するしかないだろうな。調べたいのは山々だけど、運んだ先もその道中も汚染するんじゃな」


 人は護符や魔法で守れても、周囲の物はそうはいかないからな。


「えーと、落ちたのは4つか」

「5つですね。我々が交戦する前にひとつ、落としていったものがあります。もしかしたら、我々が見ていないところで他にもあるかもしれませんが」


 ご指摘ありがとう、ガストン。


「よし、じゃ、その最初のひとつを残して、後は壊すぞ。どれくらい耐久性があるのかも見るから、攻撃も色々試そう」


 領主町の黄金領域も、この岩柱のようなものがあって発生源となっているなら、壊せばそれ以上の汚染も止められるかもしれないからな。どれくらいで壊せるか、折角なので耐久実験といこう。


「ひとつ、残すの?」


 ヴィオが首を傾げる。どうして全部壊さないかって?


「ちょっと、やってみたいことがあってね」


 お礼参りは好き?



  ・  ・  ・



 ラーメ領、カパルビヨ城。黄金領域は平常通り。黒きモノや邪甲獣が徘徊する魔境は、これといった争いも出来事もなく、日常の中にあった。


 警備を担当する特務団兵も、専用の見張り所から城下町を監視していた。


「どうした?」

「いや……黄金領域は、そろそろニエンテ山の天辺まで届くんじゃないか?」


 兵たちが雑談をはじめた矢先、西にあるニエンテ山の上で、何かがキラリと光った。


「何だ……?」


 特務団兵が目を凝らした時、猛烈な速度で巨大な何かが飛んできた!


「!?」


 ズゥンと、城下町にそれが落ちて、黄金の建物が直撃だったらしく倒壊した。まるで投石機から岩を投げ込まれたようだった。いや、飛距離からすれば、投石機などとはとても言えないほどの超長距離だったが。


 さすがにあれだけの音と衝撃がすれば、城にいる他の特務団兵も集まってくるもので、飛来したモノの正体に気づき、驚愕した。


 黄金石。黄金領域を発生させる岩柱が、遥か彼方から飛んできたのだ。

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