第255話、飛行する邪甲獣


 鳥型邪甲獣が、瘴気をバラまく厄介なものを運んで飛んでいる。このままだとセッテの町へ辿り着いてしまうかもしれない。


 それは断固阻止しなくてはいけない。俺たちはここで、この西へ飛ぶ邪甲獣4羽を叩き落とさないといけないんだ!


「で、具体的にどうやるんだ、ヴィゴ?」


 ダイ様が聞いてきた。右手には神聖剣。ダイ様はダークバードを制御している。


「インフェルノドラゴン……使い魔のほうは出せる?」

「いま我は複数のダークバードを操っている状態だ。それを解除していいなら、出せるが……そうはいくまい?」

「うん、却下だ」


 乗っている俺たちは地面へ真っ逆さまだ。それはお断りである。ならば、こうだ。


「俺とベスティアで、1羽ずつ仕留める。ユーニにはチクチクと攻撃してもらって――」

「ヴィゴー!」


 ヴィオ・マルテディの声だ。見れば、彼女とガストンを乗せたダークバードがこっちへ寄ってきた。


「あれを落とすんでしょ? 僕も突っ込む!」


 彼女は聖剣スカーレット・ハートを抜いた。


「僕も聖剣使いだ。あんな化け物鳥には後れは取らない!」


 確かに、相手は邪甲獣。生半可な武器では弾かれてしまうが、聖剣ならば話は別だ。


「わかった。俺とベスティア、ヴィオで1羽ずつ仕掛ける。――ルカ! ユーニが射撃できるように距離をとって援護!」

「わかりましたー!」


 ルカが操るダークバードには、ユーニが同乗している。ルカとカメリアさん以外のダークバードは、ダイ様が制御しているが、その2羽はそれぞれの騎手が操っている。


「よし、じゃ、仕掛けるぞ! ダイ様!」

「応さ!」


 俺たちを乗せたダークバードが上昇する。随伴するベスティア&ゴム、ガストン&ヴィオの闇鳥は、ダイ様制御なので、俺同様、攻撃の際はタイミングを見計らう必要がある。自分でコースもタイミングも選べないのだ。


 鳥型邪甲獣は、高度変わらず直進し続ける。俺たちが何もしなければ、襲ってくることもなくやり過ごせてしまえるかもしれない。


 ま、そうはさせんけどね。


「ヴィオは先頭のやつ! ベスティアはその次! 俺たちは3番目のやつだ!」


 ダイ様が俺の指示に従い、ダークバードを急上昇から一転、急降下に展示させた。それぞれの攻撃目標に、降下する。


 風がビュウビュウと耳に響き、強風が突き刺さる。かなりのスピードだ。ダークバードから落ちたら余裕で死ぬんだろうな……。下の地形は見ないように、邪甲獣だけを凝視する。


 デカい。黒いその姿、両の翼を羽ばたかせる巨大なる鳥。迂闊に翼側から近づけば、接触して跳ね飛ばされてしまうのではないか。


 頭はハンマーのような形をして歪だ。黒い体毛に、邪甲獣特有の石材のような装甲が継ぎ接ぎのように、いくつもその体に見える。


 鳥だけあって幅がある。ざっと五十メートルほどか。こんなの、お空の上じゃなけりゃ余裕で背中に乗れるな。飛び込んだとしても、背中も広そうだから降りられそうだけど、俺はそこまで命知らずじゃないんだ。


 邪甲獣じゃなくても、人間の手持ち武器じゃ傷を負わせることさえ難しいくらいデカかった。あってよかった神聖剣。


「オラクル、やれるな?」

『姉君に出来たのじゃ。わらわにもできるわ』


 頭の中に、オラクルがやろうとしていることが伝わった。なるほど、この前、ドゥエーリ族の集落で魔竜剣でやったやつな。了解!


 神聖剣の剣身が白き光に包まれる。光の力を集めて、それを放つ!


「ディバインブレスッ――!!」


 青みを帯びた白い光が迸った。それは鳥型邪甲獣の頭に降りかかり、溶かして、さらに胴体を上から下へと飲み込みながら溶断した。


 胴体が溶けて消えた。巨大な翼だけが残り、バラバラに地面へと落ちていく。撃墜だっ!


『やったぞぃ!』

「あー、我の技を真似っこしたなーっ!」


 ダイ様が子供っぽい非難の声を上げた。まあ、真似っこといえば、そうなんだけど。


『知らぬ』


 オラクルはそっぽを向くような声で応じた。インフェルノブレスの時、あの場にオラクルいなかったしな。


 急降下をやめて、旋回する俺たちを乗せたダークバード。しんがりの4羽目が、ルカの操る闇鳥の後ろにいるユーニからの魔法弓攻撃にさらされているのが見えた。


 ユーニの持つ魔法弓スヴェートから、矢が光となって放たれ、邪甲獣を攻め立てる。あれだけデカい図体をしていながら、邪甲獣が身じろぎして嫌がっている! 倒せはしないが、かなり効いているのではないか?


 あっ、邪甲獣が足で運んでいた岩柱を離した。落下する荷物を無視して、大きく旋回する邪甲獣。それを追うルカ&ユーニ。


 と、鳥型邪甲獣のハンマーヘッドが、見えない何かを叩いたように動いた。


「躱す!」


 ダイ様がダークバードを急降下させた。頭の上を風が抜けていったような。髪がなびいた。


「ソニックブームだ! 器用な真似を――」


 ルカたちを乗せたダークバードも急降下で回避したようだ。また敵が攻撃してくる前に――


「オラクル!」


 ディバインブレス――神聖剣から光の渦が放たれ、直撃を受けた邪甲獣は爆発するようにバラバラに四散した。


「残りは!?」

「先頭のやつは、小娘が聖剣の攻撃で撃墜した」


 ダイ様が教えてくれる。ヴィオの聖剣スカーレット・ハートの炎が、邪甲獣を分断し、焼き尽くしたらしい。


「それで最後のやつは、ほれ」


 ダイ様が指さした。鳥型邪甲獣が高度を落としている。――見間違いか……?


「あの背中に乗っているのは、ベスティアとゴムか?」

「他に何に見える?」


 マジかよ。あのマシンドールとスライム。ダークバードから飛び降りて、邪甲獣の背中に取り付いたらしい。


 なんて命知らずな! あ、まあ、ゴムは物理で死ぬことはないっけか。落ちても平気って感じだし、マシンドールは……どうなんだろう? サタンアーマー素材の装甲にドラゴンブラッドでさらに強化されているから、簡単には壊れないとは思うが、さすがにこの高さは……。


 何にせよ、邪甲獣の背中に飛び乗ったベスティアとゴムはそれぞれ攻撃して、どうやら撃墜に漕ぎ着けたらしい。


 迎えのダークバードに乗った直後、邪甲獣は地面に激突して果てた。


 これで厄介なお荷物を運んでいた鳥型邪甲獣4羽、全部撃破だ。……だが、瘴気を拡散させるクソ厄介な置き土産がまだ残っている。

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