第254話、使えるか試そう


 黄金領域対策の護符、その試作品が完成した。


 神聖魔法である神聖結界は、闇の魔力を遮断する。魔の空間である黄金領域の作用を防ぎ、魔物化、黄金化を阻止できる。


 ……ということなのだが。


 俺たちは、街道砦からセッテの町に戻っていた。メントゥレ神官長はハクと協力して、硬貨ほどの大きさの護符を作り上げていた。


 いや、護符というか、メダルだな。この小さなメダルに、結界の効果があるという。


 何やら文字が刻まれているが、これ作るのって、割と大変そう。わずかな間に数個を製作したみたいだけど、討伐軍全員分作って、と言われても無理だろうな。


「後は、実際に効果があるかどうか、ですね」


 メントゥレ神官長は言った。


「なにぶん、黄金領域というのは、私も初めて遭遇する事象ですので。ハクは大丈夫と言ってくれたのですが」

「この護符は、黄金領域の瘴気を阻む効果はあるよ」


 ハクは、微塵も不安はないという顔をしていた。メントゥレ神官長は、俺を見た。


「とはいえ、やはり皆も不安でしょう。そこで実際に効果があるかを実証してみせる必要があると考えます」


 つまり、黄金領域に入って、無事なところを皆の目で確かめてもらい、何の不安もなく護符を使ってもらえるようにしよう、ということだな。


「実験には、製作者である私が――」


 メントゥレが志願したが、ハクは腕を組む。


「わざわざキミが実証しなくても、問題ないよ。そんな暇があったら、クランの仲間たち全員分をさっさと作るべきだよ」


 実証なら、他のメンバーにできるでしょ、とハクは言い放った。


 聞いていたメンバーたちの表情が揺らいだ。メントゥレか、ハクか。どちらの言い分を信じるべきだろうか、と迷ったのだろう。


 ハクは問題ないと言ったが、メイン製作者のメントゥレは実際に試したいと、不安を口にしている。そんな状態で、万が一、護符が効果がなければ魔物化してしまうというリスクは、皆を緊張させるに充分だった。さすがのシィラも、二の足を踏んでいる。


「自分、行きます」

「オレが、やります!」


 ガストンと、カバーンがほぼ同時に志願した。ヴィオ付きの騎士であるガストンは淡々と、獣人戦士のカバーンは力強く言った。


「いいのか?」

「ええ、誰かがやらなければいけないことですから」

「ここで真っ先にやるのが、男ってもんでしょう!」


 対照的な二人である。アウラやルカが俺を見たので、俺は頷いた。


「よし、じゃあ黄金領域の偵察を兼ねて、実地試験といこう。神官長、ちょっと言ってくる。戻ってくるまでにできるだけ、数を揃えておいてくれ」


 つまり、俺はハクの言い分を信じて、この護符の性能を信じているということだ。あくまで仲間たちの不安を取り除くための実証だ。……あ、その護符、俺の分ももらっていくぞ。オラクルセイバーを手放したら、即座に魔物化はヤバいからな。


 護符が黄金領域に通用するのを確かめるため、俺はメンバーを選抜して、領主町方面へと行った。



  ・  ・  ・



 ハクの言を信じるなら、マシンドールであるベスティア、サタンアーマースライムであるゴムも黄金領域も問題なく活動できるらしい。


 リベルタ・クランのメイン防具であるSG、DSG防具も、黄金化の影響がない防具ということになる。


 まあ、それ以外の素材は黄金化してしまうから、留め金ひとつをとっても、すべてゴムのサタンアーマー素材でないなら、大人しく結界や防御魔法に頼るべきである。


 空からの偵察と同様、ダイ様の使い魔であるダークバードに乗って、黄金領域を目指す。


 今回の同行者は、俺とリーリエの他は、ガストン、カバーン、ヴィオ、ベスティア、ゴム、ルカ、ユーニ、カメリアさんとなる。


 街道に沿って東進。街道砦を超えて、東へ飛ぶ。


 奥にニエンテ山が見え、その手前には両側を切り立った崖となっている谷が伸びている。街道はその間を通っていく。


 正面、領主町の方向には常に黒雲があるから、これ以上ない目印となる。……なるのだが。


「何だ……?」


 領主町の方から、巨大な何かが飛んでいるような……。羽ばたきからすると鳥のようだが、まだ距離があるにもかかわらず、結構デカい。あと足に、大きな柱みたいなのを掴んでいる。数は3、4……5羽か?


「ヴィゴぉ」


 リーリエが俺に掴まった。


「何かヤバいよあれ……。怖いのまとっている! 黄金領域!」

「はァ?」


 ちょっと意味がわからないんだけど? 黄金領域? 近づいているとでも言うのか?


 と、先頭を行くデカ鳥が、掴んでいたこれまた巨大柱を離した。落下した柱は重力に従い、地面に落下、谷の底に突き刺さったようだ。


 何だってんだ、いったい。


 岩柱を落とした1羽は、東へと引き返していったが、残り4羽は、そのままこちらへ向かってくる。向こうは、俺たちに気づいているのかいないのか。


「ヴィゴ」


 ダークバードを操るダイ様が振り返った。


「ヤバいぞ。仕組みはよくわからんが、奴らの持っている岩柱は瘴気、黄金領域を発生させておる」

「何てこった……!」


 黄金領域を発生させる岩ってだけでもマズい代物なのに、それを運んでいるって。それでどこへ行くつもりだ? セッテの町にきて、黄金領域による汚染をバラまくってか?


「そしてさらによろしくないことにだな……」


 これ以上面倒は聞きたくないが?


「あのデカ鳥――邪甲獣だ」


 おお神よ。並大抵の攻撃を無効化する巨大化け物のご登場。それも鳥型、だと? しかも1羽引き返したが、まだ4羽もいるんですが?


「邪甲獣なら、多少硬いが、魔法武器でも攻撃できるな……」


 厄介なのは、黄金領域を出している岩の効果範囲がどれくらいあるか、だが。一応、今回ここに来ている面々は、皆、護符は身につけている。実証試験がまだだから、不安もあるんだけど。


 しかし面倒だ。よりによって、空を飛んでいるってことが。地上で戦うのとは訳が違うのだ。

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