第249話、街道砦を越えた先には――
ラーメ領を東西に走る街道。セッテの町から東に行くと、小山があって南は湖に面している。街道は、その小山を通っているのだが、その途中に城門を模した砦があった。
街道砦。
砦というより、山道に立っている門と小規模な駐屯所という感じだ。旅の休憩所のようなこじんまりとした、拠点というには、そこまで大したものではない。
ただ厄介な場所に、分厚くしっかりした城門がある、というのが正しいかもしれない。
こんな街道で通せんぼする門というのが、実に意味がわからない代物だが、お隣の領と争っていて、その攻撃に対する防壁だったのかもしれない。
その建造理由については、今となってはどうでもいい。だが現時点で、カパルビヨ城のある領主町へ行くルートに、デンとそびえる障害物となっていることははっきりしている。
「どうするね、ヴィゴ?」
闇鳥を操るダイ様が振り返った。
「我やオラクルが本気を出せば、あの程度の門など容易く破壊できるぞ?」
「壊すのは簡単かもしれないけど、あれも一応、進軍のための中間拠点に使えないか?」
「大軍が駐留できるような場所ではないぞ」
ダイ様は首を振った。
「あんな狭い場所など、討伐軍は通過するだけだ」
立地が悪すぎる。右手は山、左手は湖で、街道上に門があるってだけで、あとは貧相だもんな。そもそも土地が狭い。
「いざという時の防壁には……ならないか」
「うむ。向きが逆だ」
門の開閉装置が、領主町のある東側にある。そちらから開閉装置を操作できるので、西側勢力にとっては、通せんぼもできないという。
「向き、か……」
「向きがどうしたって?」
リーリエが俺の肩の上で言った。
「いや、向きを変えれば、こっち側の防壁になるって話」
「はぁ~?」
ダイ様が、わざとらしい声を出した。
「砦だぞ、向きを変えるなんてできるわけないだろ? それとも地面から壁が抜けて、回れ右するのか?」
「……案外、それもありかもしれない」
「は?」
「どういうこと、ヴィゴ?」
リーリエが俺の頬に手を当てる。んー、どういうことって。
「俺の持てるスキルで、地面から引き剥がして向きを変えて埋め直す……というのはどうだ?」
リーリエとダイ様は絶句した。
「まあ、持てるスキルなら、持てるだろうよ。でも向きを変えるってのは、寸法や土台もその地形に合わせて作られてるから、さすがに無理だ」
抜けて、持っても、今度は埋め直せない。門の右と左が非対称だから、門の位置が街道からズレてしまう、と。
「迷うほうの迷案だったな」
「残念でした」
ダイ様は肩をすくめた。俺は頷く。
「とりあえず、今回は偵察優先。あの砦についてどうするかは、帰ったら考えよう」
ダークバートは飛ぶ。街道砦の門の上には、武装した人型――おそらくオーク戦士と思われるものが複数見えた。
一応、敵側の守備隊ってことなんだろう。施設としては小さいが、門だけはしっかりしているから、ここで守りを固められると、討伐軍とて足踏みを強いられる。
道が狭いから、一度に戦える人数は少なくなる。少数が大軍を迎え撃つ場所としては、打ってつけなのだ。
攻略しないとなれば、小山を遠回りして迂回するか、小舟でも作って、湖を往復するしかないだろう。
敵対するには、実に面倒な場所だ。
俺たちを乗せたダークバードは東へと飛ぶ。前回は南から領主町を目指したから、今通っているのは、前回の帰路を逆走している感じだ。
闇鳥による襲撃があったから、今回もそれを警戒する。右後ろには、ルカとユーニが乗るダークバート、左後ろにカメリアさんとニニヤのダークバートが飛んでいる。それぞれ見張っているようで頭や視線が動いている。
だが、すぐに正面に注意が向けられた。ダイ様の頭ごしに見える黒き雲。前回も厚い雲に覆われていたが、それよりなお悪化しているような。
「……何だ、あれは?」
峡谷があって、領主町の手前に山があるのだが……何か、光ってない?
雲に遮られているはずなのに、下から光が雲に反射しているというか、とにかく異様な光景だ。
あの山を超えれば、領主町が見えて巨大な精霊樹も見え――
「ストップ! 止まれ! 止まる!」
ダイ様がダークバートに制止をかけた。俺たちの乗っている闇鳥だけでなく、ルカやカメリアさんの乗るダークバートも空中で翼を羽ばたかせつつ制止した。
「どうした、ダイ様?」
「見えぬか。闇の気配を!」
闇の、気配……?
「どうしたんですか!?」
ルカが声を張り上げて、こちらに確認してくる。
「ちょっと待ってくれ!」
俺にもわからん。と、リーリエがピトリと抱きついてきた。
「ヴィゴ、怖い。……この先、凄く怖いよぉ」
ガタガタと震えだしたフェアリー。妖精は環境に敏感だって聞く。ダイ様の言う闇の気配とやらを感じ取っているのかもしれない。
『主様よ』
オラクルが呼びかけてきた。
『わらわを鞘から抜いて、持て。わらわの力で闇の力を防いでくれよう』
「おう……」
よくわからんが、魔竜剣や神聖剣までこうも警戒感を露わにしているのは、ただ事ではない。
俺はオラクルセイバーを抜いた。その刀身が白く輝いている。
『これならば、わらわたちの周りの瘴気は阻めよう。姉君よ、主様にも見えるように進んでもよいだろう』
「うむ、ならばよし。ただし、ルカ! カメリアよ! お主たちは、ここで待て。決してついてくるな!」
その言い分だと、ここより先に進むと本当によくなさそうだ。瘴気とか言っていたが、それが闇の気配ってやつか?
俺たちを乗せたダークバードがゆっくりと前進した。気のせいかな、肌がムズムズしてくる。
黒雲に反射する金色の光。領主町への視界を妨げている山より高く上がると、見えてきた――
「何だ、これ……!?」
金色に輝く汚染精霊樹が見えた。隣り合うように建つカパルビヨ城も金色、そして領主町も。
そこにあったのは、まるで黄金の町だった。
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