第248話、備えと、次の行動


 セッテの町は取り戻した。俺たちリベルタは聖堂を拠点にする。ここもゴブリンたちが入り込んだようだが、確認したところ逃げ出したようで、その姿はなかった。


 俺は聖堂の入口から、町を東西に走る通りを眺める。そこへメントゥレがやってきた。


「やあ、神官長」

「どうも、ヴィゴ殿。まさかこうもあっさり、町からゴブリンを追い出すとは」

「案外うまくいったよ」


 ドラゴンの脅しは効果的だったな。


「それで、これからどうされます?」

「今日の予定?」

「これからの我々の行動です」


 メントゥレも俺の隣で、東門へと視線を向けた。


「私たちは、討伐軍より先行してここに来ています。特に打ち合わせとかしていないようですが、よろしいのですか?」

「陛下や大臣には、討伐軍と別行動を取ることになることは承認いただいている」


 確かに、討伐軍本部に顔は出していない。俺が、討伐軍を離れて好き勝手やっているようにメントゥレには見えたのかもしれないな。


 確かに本部にいる各軍のお偉いさんの顔もほとんど知らない。でもね――


「討伐軍の総大将にも会って打ち合わせはしてあるんだ」

「そうだったのですか?」


 意外そうな顔をするメントゥレである。


「そうだよ」


 ちなみに討伐軍を率いているのは、マルテディ侯爵。聖剣使いのヴィオ・マルテディの父親だ。


 そりゃ爵位からみても、今回の討伐遠征軍で最上位の人だもん。聖剣使いの家系でもあるし、軍の総大将に収まるさ。


 それで、あの人が出発前に、リベルタのホームを訪ねてきた時、ヴィオの今後について話し合ったついでに、討伐軍と別行動を取るリベルタがどう動くかについて、打ち合わせは済んでいるわけだ。


「俺たちは先行してセッテの町を確保。可能な限りの偵察と、やはり可能な限りの敵勢力の漸減ぜんげんをする」


 それが討伐軍が到着するまでの、俺たちリベルタのお仕事というわけだ。


「それで――」


 アウラがやってきた。


「さしあたって、今日の行動は?」

「そうだな……。偵察と、町の見回りかな」


 まず、東へ視線を向ける。


「ここからの東にある街道砦の様子を見たいってのもあるけど、領主町の汚染精霊樹がどうなっているのかも見ておきたい」


 少し見ていないうちに劇的変化していて、領主町を含めて魔物がさらに増えているとか……あまり考えたくないけど、討伐軍が到着するのも少し先で、さらに領主町へ進軍するのももっと先になるからな。


「……嫌な雲が出ているわね」


 アウラが東の空に見える黒雲に眉をひそめた。あの先には領主町があるんだよな、きっと。方向はまさにそれだし。


「酷いことになっていないといいけれど……」

「酷いこと、ですか」


 メントゥレは要領を得ない顔になる。実際、あの馬鹿でかい精霊樹を見ていないと、実感がわかないだろうな。


「それで、町の見回りとは?」

「見ての通り、町は廃墟だ」


 前回の討伐軍が戦った時から、すでに廃墟だったけど、あの後、レヴィアタンとか、先のダイ様とオラクルのドラゴンブレスでさらに破壊が進んだ。


「外壁にもいくつか穴が空いてるし、その気になれば侵入し放題だ。外壁の上に見張りを立てたいけど、それだけだと人手が足りない」


 俺はアウラを見た。


「警戒魔法を、外壁の侵入できそうな場所に仕掛けてもらえるか?」

「いいけど……。かなりの数になりそうね」


 この荒廃具合を見るとな。魔法で侵入者探知するにしても、仕掛ける数がどれくらいになるかわかったものではない。


「手間をかけるな」

「そうね。後で、何か奢りなさいよ」

「はいはい。ないとは思うけど、帝国の手下とか魔族が、この町を取り戻そうとしてくるかもしれない。備えはしておかないな」

「ゴブリンが巣くっていたんだから、連中がここをどうこうするとも思えないけどね」


 空き巣野郎どもね。でもさ――


「討伐軍は、一度ここを拠点化したが、奪い返されているからな」


 案外、あのゴブリンを差し向けたのが、ラーメ領を支配している敵の仕業かもしれない……というのは考えすぎかな?


 もし当たりなら、連中は本格的にセッテの町に攻めてくるかもしれない。


「今度は、ワタシたちが町を守る番ってことね」

「まあ、あるかわからないけど。それを確かめるためにも偵察は必要だ」


 行軍してくる敵がいれば、それで発見できるかもしれないからな。幸い、敵が来たとしても、セッテの町は今は住民がいないから、戦場にしても制約はほとんどない。


 さて偵察だが、誰を連れて行くか。この手の偵察行動を、たとえば俺とダイ様だけ、とかだと、何かあった時によろしくない。


 非常時に備えて、多すぎず、しかし複数が望ましい。それが冒険者の偵察行動の鉄則だ。



  ・  ・  ・



 ドラゴンよりダークバートを選んだのは、ひとえに個体の大きさの違いだ。


 遠ければ鳥にしか見えない闇鳥と、あからさまにドラゴンでは視認性が違うし、何より後者は目立つ。


 偵察メンバーに、俺は、ルカ、ユーニ、カメリアさん、ニニヤ、そしてリーリエを選んだ。


 リーリエは連絡要員。彼女は俺以外にも、主要メンバーに定着の魔法を使って、いつでもその至近に転移できるようになっている。


 ユーニとニニヤは対空要員。ユーニの弓と、ニニヤの魔法で、襲撃者に反撃する。


 騎手は、ルカとカメリアさん。


 ルカは目がいいし、ダークバートに乗り慣れている。カメリアさんはというと、リベルタ合流後、こちらの流儀を徹底的に勉強し、ダークバートの扱い方も覚えていた。


 ただ乗るだけなら、ダイ様が遠隔で導けるのだが、前回の空中偵察のように、襲撃があった際、どうしてもコントロールが甘くなる。だから騎手はいたほうがよい。


 その点、カメリアさんは騎士で、馬も普通に操れて騎乗になれている、とのことだった。しかし真面目そうだとは思っていたけど、この短時間でよく覚えたものだ。ま、妹であるニニヤがいたから、色々聞きやすかったんだろうな。結構一緒にいたのを見かけたし。


 かくて、俺たちはセッテの町を飛び立ち、東へと飛んだ。

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