第246話、再びセッテの町へ
ドゥエーリ族の集落である。歓迎を兼ねた祝勝会も終わり、翌日を迎えた。
昨晩は、結構飲んだんじゃないか。正直いつ寝たのか覚えていないのだが、気づけば天幕のベッドにいて……またも裸のルカとシィラが同じベッドにいたわけだ。
昨晩の記憶も祝勝会の途中から思い出せない。今回も何もなかったと思いたい。……いやね、覚えていないうちにしたとか、終わったとか、それは寂しいじゃないか。
そそくさとベッドから離脱。さすがに周りが起き出している頃に、お肌の触れ合いをする度胸はない。天幕の外で、ギャラリーが聞き耳を立てているとか嫌過ぎる。
恥ずかしながら俺はこっち方面は素人だからな。さすがにお母さんたちがどこにいるかもわからない状況で、娘に手を出せない。……これでも男だから、お触りしたい誘惑はあるんだけど。
「おはようございます、ヴィゴ」
「……おはよう、ユーニ」
天幕を出たら、すぐそこにユーニが見張り番よろしく立っていた。……うん、お姉さんたちの柔肌を前にしてもお触り我慢した甲斐があった。こんな近くに三姉妹――実際は四姉妹だったそうだけど――の三女がいた。危ない危ない。
「もう、よろしいのですか?」
「ん? 何が?」
「姉さんたちとその……お肌の触れ合い、とか」
赤面しつつ顔を背けるユーニ。恥ずかしそうに、でも聞くのね。俺まで顔が熱くなってくる。
「何てこと聞くんだ」
「すみません。いつもやられていることなのに――」
「いや、やられてないから! つか、まだやってないし!」
「え、そうなのですか!?」
ビックリするユーニだが……いや、俺も朝から何を言ってるんだか。というか、ユーニも真顔で、えっちぃ方面の話はしない!
ユーニですらこれだ。クレハさんたちも、俺とルカとシィラが……そっちを済まそうがナニしようが、どうぞお好きにという公認状態じゃあるまいか。父親――ボークスメルチさんも、初対面で済ませた確認されたし。……その割に、ルカとシィラから直接しましょって言葉にされた記憶もないけど。
閑話休題。
愉快なドゥエーリ族の歓待もそこそこに、俺たちもそろそろラーメ領へ向かわねば。討伐軍も動いている。ルカとシィラの里帰りの用も済ませたからな。
ということで、リベルタの仲間たちにも、出発する旨を伝えて確認。何かやり残していることはないか? ……ない? なら出発!
クレハさんたちにもお別れの挨拶をしておく。
「そう。名残惜しいけど、頑張ってね。いつでも来ていいからね」
そう笑顔で言うクレハさん。
「何なら孫を連れてきてもいいんだからね」
……それはつまり、娘さんとその――なんですね、クレハさん。ルカが物凄く、真っ赤になってます。てっきりお母さんに怒るなり反論するかと思ったけど、しないのね。
リベルタが、戦地に向かうと聞いて、集落にいる皆さんでお見送りしてくれた。ナサキさんとコスカさんも。
ルカやシィラ、そして今回リベルタに加わったユーニへの励ましの声に混じって、俺への黄色い声援も聞こえた。
「ヴィゴさーん、ありがとうーっ!」
「ヴィゴ様、また来てくださーい!」
うん、ここまで声援もらったこともそうそうないよな。悪い気はしない。
・ ・ ・
地上を行軍する討伐軍が、ラーメ領に到着するには、まだ少し掛かる。徒歩の上、人数が多いと、その移動速度はどうしてもゆっくりになるからな。
俺たちは、使い魔と妖精の籠の併用で、あっという間だけど。
まず目指したのはセッテの町。ネクロマンサーに支配されたアンデッドの拠点だった町だったが、俺たちリベルタで奪回した。
町を確保できるだけの人数もいないから、俺たちは撤収したけど、果たしてどうなっていることやら。
ダークバートに乗り、俺たちは町を上から見回る。
破壊された廃墟の街並み。レヴィアタンの攻撃で外壁も崩れている。どこかの軍勢がいるとか、目に見えて占領されているなどの様子はなし。魔族がいるとか、例の帝国の手下だろう、白装束やらも見えない。
だが――
「何かいるな……」
獣でも入り込んだか? 俺の前に座るダイ様が言った。
「ゴブリンじゃないか?」
「確かに」
子供くらいの大きさの亜人が、武器を持ってちらほら。ダークバートが旋回しているのを危険と見たのか、廃墟のほうへ潜り込む。
「一匹見れば、その十倍はいると思え、とはよく言うがな」
「言うか?」
だがゴブリンは、一体一体が弱いから集団行動をしていることが多いのは間違いない。オラクルが口を開いた。
『無人の町だから拠点にしようとしているんじゃろうな。小癪よな』
「セッテの町は、討伐軍の通過点で拠点にもなる」
俺は、事前の打ち合わせでのそれを思い出していた。
「どの道、掃除しておかないとな」
「やれやれ、ゴブリンかぁ」
ダイ様は面倒そうだった。
「まあ、気持ちはわかるよ。廃墟の町なんて、隠れられる場所だらけだもんな。追い出すのも大変そうだ」
が、せっかく先行しているんだ。後続のためにも、町は綺麗にしておかないといけない。……いや、本当、面倒なんだけどな。
ダークバートは降下する。町の入り口に降り立ち、俺たちは町の中を見やる。妖精の籠にいる面々にも出てきてもらう。
「敵ですか?」
カメリアさんが聞いてきたので、俺は頷いた。
「ゴブリンですよ」
町に連中が入り込んでいることを知らせれば、ヴィオが聖剣を抜いた。
「余計な仕事を増やしてくれたものだね。ガストン、ゴッドフリー、トレ、仕事だよ」
侯爵家の騎士たちも、それぞれの武器を手にする。カバーンが拳を打ち合わせて、「やりますよ、オレ」と、マルモやファウナに闘志アピールしている。アウラは、ラウネと話し込んでいるのは作戦会議か。
改めて、人数増えたよな。
ルカやイラなどリベルタの面々は、以前のゴブリン集団との戦いを経験しているから、真剣そのものだった。気の緩みはなさそうだ。
油断はせず、しかしサクサクと片付けよう。こんな前哨も前哨で、つまづくわけにはいかないからな。
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