第245話、宴の席


 しんみりした戦の儀式の後、夕焼け空の下、ドゥエーリ族の集落では、俺たちリベルタの来訪の歓迎会と、昨日の魔王崇拝者討伐の戦祝会を兼ねた席が設けられた。


 ふんだんに用意された魔獣肉の焼肉やスープ、酒などがこれでもかと準備されて、大いに盛り上がった。


 さっきの儀式は何だったの?――と思うくらいの飲めや歌えの大騒ぎ。クランメンバーもどんどん酒や食べ物を勧められ、楽しんでいた。


 なお、俺の周りには、先ほどの儀式の面々――ルカ、シィラ、ユーニ、クレハさん、ナサキさん、コスカさんが固めていて、集落の他の娘たちの接近を阻んでいた。……俺も自由に出歩けないけど。


「何か欲しいものがあれば、私、取ってきますから」


 ルカが優しい。とても甲斐甲斐しい。すまん、俺が動ければ自分で行くのだが。



「そこでヴィゴ殿」


 ユーニが、やけに真面目ぶって頭を下げた。


「今後、私もあなたのクランに参加したく、どうか加入を認めてくださいませ」


 堅いな。いや、しっかりしているように見えるけれど――これでルカたちの妹なんだよな。


「歳はいくつか聞いても?」

「先日、17になりました」


 ウルラート王国における一般的成人年齢は18歳。まあ、うちにはニニヤやディーという、王国換算で未成年もいるわけだけど。


「知っているとは思うが、俺たちはラーメ領へ行く。上級冒険者クランとして、より厳しい場所に行くことも多い。それは理解しているかい?」

「はい。次に行く場所が戦場であることも、心得ています」


 ……あまり年齢のことは言いたくないけど、君、本当に成人前? しっかりしてるなぁ。


「先日、この集落で一族の男たちが傭兵として出ました。その参加者の中には、成人前の有力な戦士もいます。成人前でも、戦場で働けます!」

「……どうなんですか、クレハさん、コスカさん?」


 お母さんたちのご意見を伺いたい。もちろん、ユーニがクランに加わりたいという話は、すでに聞いているんですよね?


「私の目から見て、ユーニちゃんは、一族の戦士として参戦するに充分な能力はある」


 クレハさんが言えば、酒を飲んでいたナサキさんが視線を向けた。


「戦闘経験はある。が、大人数が戦う戦場に関しては経験がない。――まあ、それは先日出征した坊主どもにも言えることだがな」

「お母さんとしては心配!」


 コスカさんは、モリモリと肉を食べながら言った。……緊張感ないなぁ、この人。


「でもユーニちゃんがやりたいというからには、しっかりやり遂げると思っているの。ルカちゃんも、シィラちゃんもいるから大丈夫だと思うけど、無理はしてはいけないよ。わかった?」

「はい」


 ユーニは頭を下げた。コスカさんはお母さんな言い分なんだけど、ユーニがやはり子供らしくないんだよな。


 まあ、とりあえず母親たちは、クラン参加に反対はしないようだ。それだけ信用されているのだろう。しっかりしてそうだしな。


 確認するつもりでルカとシィラを見れば、彼女たちも静かに首肯した。お姉さんたちも反対なし。


「わかった。ユーニのクラン加入を認めよう」

「ありがとうございます、ヴィゴ殿」

「……その『殿』は落ち着かないから、呼び捨てか、さん付けでいいよ」

「あ、はい、わかりました」


 ちょっと赤面するユーニである。失敗をたしなめたわけではないが、何かそんな風に受け取られた気もする。しばらく一緒にいれば、お互いわかるようになるだろう。


 そんなわけで、せっかくの祝勝会兼歓迎会だ。相手のことを知るためにお喋りをしよう。まずは、そう武器だな。


 ユーニは弓使いだった。魔法弓スヴェートの使い手らしい。ルカが魔法大剣、シィラが魔法槍、そしてユーニは魔法弓という。


 さすが族長の娘。いい武器を持っている。クレハさんがパンと手を叩いた。


「そうだ、ユーニ。ヴィゴ君に腕前を披露してあげたら?」

「わかりました」


 ユーニは、近くに用意していた自身の弓を取った。両手持ちのグレートボウ。濃い青色の綺麗な弓だった。


 そこでナサキさんが声を張り上げ、皆にこれからユーニが弓を使うことを宣言した。パーティーでの一芸みたいになってきた。


 台に立ったユーニは、そこから広場の向こうにある射的場にある的を狙い……遠いし暗くて見えないな。中央広場から直接狙うには遠い。


 次の瞬間、ユーニは矢を放った。まるで光だった。発光しているように金色に輝いた矢が、ストンと的に当たった――ように見えた。


 すかさず、リーリエが飛んで行った。


「当たった! 矢はド真ん中!」


 妖精さんが報告に戻ってくると、広場の面々が沸き立った。なるほど、いい腕だ。ユーニが振り返った。


「ルカ姉、久しぶりに撃ちませんか?」

「えぇー、私はここからじゃ当てられないわ」

「ご謙遜を。どうぞ」

「いいけど、もっと近くからね!」


 などと言いながら、気づけば余興とばかりに射的大会が始まった。参加自由ということで、ドゥエーリ族の女たちはもちろん、リベルタから弓を扱える者が出た。


 ルカ、ネム、セラータ、ヴィオ、ファウナ――ファウナは、エルフだからという理由で周囲から煽られた結果の参加だったけど。ヴィオやセラータが弓を使えるってのが、少し意外だった。それなりに形になっているのがまた、ね……。


 なお、マルモが「クロスボウはいいですか?」と言えば、イラも「長銃はいいですか?」と言い出し、参考記録扱いでやっていた。


 いいもんだな。俺は、酒をちびちびとやりつつ、周囲の歓談や歓声に耳をすました。


 アウラはドゥエーリ族の大人たちと井戸端会議をやってるし、ラウネは手品じみた魔法を披露したり。カバーンが同い年くらいの娘と何やら乱闘じみたことをやっていて、メントゥレを困らせていた。ディーは、やたら女の子たちに絡まれているような……。


 他の仲間たちも、飲んで食べて楽しそうだ。いつの間にか離れたクレハさんが、カイジン師匠と何か話している。親子水入らず、そっとしておこう。


 また、こんな風に皆で楽しくやれたらいいなぁ。明日か、明後日にはラーメ領の魔物退治――ウルラート王国を混沌に突き落とそうとしている、帝国の手の者たちとの戦いが待っている。


 皆、無事に帰ってこられるといいな。俺は心からそう思い、お酌してくれたナサキさんに礼を言いつつ、一杯飲み干した。

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