第238話、報復と膠着


 ドゥエーリの女たちは、魔王崇拝者たちへの報復に乗り出した。


 敵のアジトはわかっている。おそらく逃げた敵はそこに戻っている。乗り込んでアジト諸共、殲滅せんめつしようというのが彼女たちの意見だった。


 さて、俺たちはといえば……まずは状況確認。俺たちが、さらわれた子供たちを捜索している間、敵はドゥエーリ族の集落を襲撃した。


「最初は、魔獣の襲撃でした」


 ルカは言った。


「ブラッドウルフの群れが押し寄せてきました。……それだけでも異様だったんですけど」

「迎え撃ったら、これがまた不思議なことに死体が残らない」


 アウラが顎に手を当て、考え込む。


「まるで召喚生物みたいだなって。何者だろうって、疑いながら戦っていたら」

『彼奴らが現れた』


 カイジン師匠が腕を組む。魔王崇拝者の集団が、魔獣たちの後にやってきたのだ。ルカは口を開く。


「そこで彼らは魔法を使って、集落を燃やそうとしてきたんです」


 アウラが魔法障壁で守って、ニニヤが水の大魔法で雨を降らせたらしい。……あの雨はニニヤの魔法か。雨で濡れたので、敵は集落にあるものを燃やしにくくなったと。


「大変だったな」


 一歩間違えれば、集落全部焼けていたかもしれなかったのか。何はともあれ、皆もこの集落も無事でよかった。

 ルカとシィラにとっては故郷なんだし。帰る家がなくなるってのは悲しいもんな。


『それにしても――』


 カイジン師匠は言った。


『何故、魔王崇拝者どもは、この集落を襲ったのか』

「本当ね」


 アウラは首を傾げた。


「ここがドゥエーリ族の集落だと知っていたら、手痛い反撃を受けることくらいわかりそうなものだけど」

「知らなかったんでしょ」


 ラウネが口を挟んだ。


「それもわからず突っかかって、あのザマよ」

『彼奴らは何を考えているのか』


 唸るカイジン師匠。アウラは皮肉げに口元を歪める。


「こんなご時世だから、魔王を復活させて、世の中をぶっ壊そうとしたんじゃない?」

「ラーメ領の混乱で、王国の注意がそっちに向いているし。コソコソした連中には天国かもね、この状況は」


 ラウネが呆れを露わにする。


「それで、どうする、ヴィゴ。ワタシたちは」


 ドゥエーリ族の女たちと、魔王崇拝者の残党狩りをするか、ってことだろう。


「ルカとシィラは、行く気満々だろう」


 すでにシィラは、お母さんたちとお話している。……あの様子だと、自分も同行すると熱弁しているんだろうな。俺はシィラからルカへと視線を戻す。


「できれば、私も報復をしたいです。ルーディとサシータのこともありますけど、この集落を焼き打ちにしようとした魔王崇拝者は、許せません!」

「わかった。乗りかかった船だ。俺たちも手伝うよ」


 とはいえ、あくまで主役は被害者であるドゥエーリ族の方々。俺たちリベルタは、ルカとシィラ以外は、補助に回ろう。



  ・  ・  ・



 どうしてこうなった。


 クレハさん、ナサキさん率いるドゥエーリ族の報復隊は、魔王崇拝者たちのアジトへ乗り込むべく、洞窟前までやってきたのだが、待っていたのは大量の巨大ワーム。


 窪地一帯が、ひとつの生物になったかのようにワームたちが至る所から出てきて、何とも入る気分を削がれる光景だった。


 が、ここは俺の46シーと、ニニヤの大魔法で片付けた。いやもうね、近づくのも面倒だったからまとめて吹っ飛ばした。


 若干ワームは残っていたが、大半を掃除したので、さあ進撃となったが、魔王崇拝者たちは召喚生物で対抗してきた。


 まるで洞窟の入り口が、魔物の口のようで、そこから次々にヘルハウンドやらアイアンゴーレムやらが吐き出されてきたのだ。リザードマンやオーク……なるほど、魔王を崇拝する連中が利用しようとする亜人系の魔物も、わんさか出てきた。


 結果、戦場は膠着している。


 戦闘は洞窟入り口手前。46シーやニニヤの大魔法で、一気に撃破が狙えない位置であり、ドゥエーリ族の皆さんが戦っているが、洞窟内に入れずにいる。……どうしてこうなった?


 敵も次々に出てきて、ドゥエーリ族の戦士たちにも負傷者が続出した。俺たちのいる後方へ、負傷者が次々に運び込まれ、ディーやメントゥレを中心に、ニニヤ、ファウナ、リーリエ、ヴィオと彼女の護衛たちが治療魔法や手当てをしている。


「中々、双方とも崩れないですね」


 イラが、俺の傍らで言った。すっと長銃を構えて、スコープを覗き込むと引き金を引く。


「……よく見えるな」

「ドラゴンブラッドに浸したおかげで、夜でもよく見えるんですよ」


 一発ごとに銃弾を装填しながら、微笑みメイドさん。そこへ前線からセラータがドゥエーリ族の負傷者を運んできた。アラクネ体の輸送力、凄い。


 戦友の仕事を横目に、イラは再度銃を構える。


「このままでは埒が明かないですね。何とか突破したいですが……それはそれとして、ドゥエーリ族の方々の前線が、まだ崩れないのは驚嘆です」

「それな」


 俺も、どうしたものかと首を捻る。


 ドゥエーリの報復隊は負傷者も出て、戦っている人数は減ってきている。もっともリベルタ後衛組の回復で、戦線復帰している者もいるのだが、最前線が強い。


 ルカとシィラもさることながら、クレハさんとナサキさんが双璧と言っていいくらい強い。


 いまだ崩れずに戦線を支えているのは、この二人が真ん中にいて、左右にルカとシィラがいて、コスカさんとユーニが援護しているからと言えるから。


 イラがスコープを覗き込みながら、口もとに笑みを浮かべた。


「特に強いのがクレハさんですね。さすがカイジン様の娘さん」


 そうなのだ。盾なし、刀を使い、バッサバッサとオークやリザードマン、オーガを斬り伏せていく。


 カイジン師匠やベスティアも、前線の支えに前に出たので、これ以上、スペースがないのだが……。


「うーん、完全に膠着しちゃっているんだよな……」


 魔王崇拝者たちが、どれだけの召喚生物を出し続けることができるかわからないが、どちらかが根負けするまで、この状態は続きそうな気配だ。


 しかし、どちらにしてもそんな永遠に戦い続けることはできないから、何かのきっかけで、どちらかが一気に崩壊するだろう。


 問題は、それがどちらか、なんだけど。戦うスペースの都合上、俺の入る隙間がないが、どうにかこの状況を打破できないものか考える。


 ……いっそ、洞窟に入ろうなんて考えず、崩せないかな。

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