第237話、集落襲撃


 インフェルノドラゴンの炎のブレスを思わす熱線が、魔王崇拝者の後衛を焼き尽くした。


 燃えるというか、一瞬で燃え落ちた、というべきか。その一定範囲内にいたモノを焼き、溶かした。


 後衛の魔術師が、一気に全滅したことで、前、中衛の崇拝者たちが振り返った。夜の闇を照らすような赤々とした炎と、熱気に気づかないはずがなかった。


 彼らは、後ろにいたはずの味方がきれいさっぱり消えていることに驚いた。カラス仮面をしていても、動揺が伝わる。


 しかし何があったか想像できなかったが、俺が敵だってことはわかったようだ。何人かのカラス仮面が剣や槍を手に向かってきた。


「ダイ様、超装甲盾」

『ん!』


 収納庫から、邪甲獣の装甲でできた超分厚いラージシールドが出てくる。俺はそれを左手に保持。うーん、こっちもしっくりくるねぇ。行くぞ、おら!


 俺はダッシュブーツで加速、滑るように移動する。突っ込んできた敵が、逆に怯む。重装甲の騎士らしからぬスピードに戸惑ったのか?


「遅い!」


 まずひとり! すれ違いざまに一刀両断。次の奴に、シールドバッシュ! 果物が壁にぶつかって潰れるが如く、崇拝者が吹っ飛ぶ。


 右足で地面を蹴り、魔竜剣で両断。そこらの量産品の剣じゃあ止められないぜ。何せ、触れたら6万4000トンだからな。


 容易く折れる金属剣。そのまま胴を一突き! 矢が飛んでくる。超装甲盾でガード。あまりの強度に矢が刺さりもしない。そのまま盾を構えて突進。次を構えようとした射手らが、びびって逃げる。じゃあ、いいや、そのまま前に固まっている奴らに切り込む!


 ひと薙ぎ。魔王崇拝者の体が真っ二つになる、あるいはスライムのように飛んでいく。右へ左へ振るうだけで、まるで草を強引に刈るように崇拝者たちの集団を切り裂く。


 崇拝者は二分された。


 集落を襲っている前衛と、後ろに現れた俺に対する残りの者たち。


『主様ーっ!』


 白銀のドラゴンの到着。フライパスしたディバインドラゴンの姿に、カラス仮面たちは戦慄する。


『来たか、小娘!』


 ダイ様、小娘はやめたげて。翼を羽ばたかせれば、それだけで風が巻き起こる。俺の隣にズゥンと着地するディバインドラゴン。その背中からセラータが飛んできた。


「ヴィゴ様!」

「こっちでよかったのか? 俺しかいないぜ?」

「貴方に捧げたこの身。お傍におります、どんな戦場でも!」


 炎竜の槍を構えるアラクネ騎士。メイド衣装の上に甲冑って以外と、意外に騎士らしく見える不思議。


「格好いいよ、お前」


 ディバインドラゴンが吼えた。


『ここでわらわもブレスをお見舞いしてくれようぞ!』

『ストーップ! 集落が近い! ここでブレスなぞ使うな!』


 ダイ様が怒鳴った。さっき、魔竜剣でインフェルノブレスを使ったけど、あれよりさらに集落に近づいているもんな。


 オラクルセイバーの変化した神聖竜のブレスがどんなものか俺は知らないけど、ダイ様が止めたということは、そういうことなんだろう。


「ダイ様、盾、戻すわ。――オラクル!」


 超装甲盾を手放す。ドスンと地面に落ちた盾は、ダイ様の収納庫に消えた。そして白銀のドラゴンの姿もまた剣に変わり、俺の左手に収まった。


「切り込むぞ、セラータ!」

「はい、ヴィゴ様!」


 ――っと!? 踏み込もうとしたら、無数の矢が飛来した。矢? 十数本の光をまとった矢が、横合いから魔王崇拝者たちに降り注いで、バタバタとなぎ倒した。


 何事かと見れば、弓を構えた黒髪ポニーテールの少女弓使いと、ドゥエーリ族の少女戦士たちがいた。


「ユーニか!」


 ルカとシィラの妹の。彼女は、空に向かって矢を放つ。するとそれは光に包まれ、一本が十数本に分離した。矢の雨が、またしても十人近くの崇拝者を打ち倒す。


「やるなぁ……。ま、見てるだけってわけにもいかないが」


 矢の出所であるユーニを排除しようと、敵が動いた。だが、そうはさせんよ――! 


 オラクルセイバーの聖剣乱舞。空を切る斬撃が刃となって飛び、崇拝者たちを切り刻む。そしてセラータも槍を振るえば、数個の火球が発生して敵へと飛翔、吹き飛ばした。


 子供たちの捜索に出ていたドゥエーリ族の女たちが、次々に戻ってきて、戦いに加わる。鬼気迫る勢いでクレハさんとナサキさんが現れ、崇拝者たちを倒していく。


 もはや崇拝者たちに勝ち目などなく、俺たちが来た時、100近くいた魔王崇拝者たちは、逃亡したわずか数名以外、全滅した。



  ・  ・  ・



「この度は、何とお礼を言えばいいのか」


 クレハさんが深々と頭を下げれば、ナサキさんもそれに倣い、コスカさんが慌ててそれに真似た。


「子供たちを無傷で助けていただいた上に、集落まで守っていただき、ありがとうございました」

「いえ、大事にならなくてよかったです」


 ……ルーディとサシータは、ちょっとかすり傷程度の怪我はしていたんだけどね。


 ディーが回復魔法を使って治したから無傷に見えるけれども。


「相手は、魔王崇拝者でした」


 俺は、子供たちをさらった者たちの正体と、その連中が集落を襲おうとしていたことを知り、行動した経緯を説明した。


 クレハさんとナサキさんが顔を見合わせた。


「魔王崇拝者どもが、この近くにアジトを持っていたとは……」

「いつからかしら……?」

「わからんな。我々も、あの辺りには普段近づかないようにしていたからな」


 うーん、と腕を組みながら、ふたりして難しい顔をしている。その横でコスカさんだけ、わかっているのかわかっていないのかわからない顔をしている。


「何人か逃げたわね」

「こちらに仕掛けてきたのだ。しかも相手は魔王を復活させようとしている連中だろう? ここは完全に叩き潰すべきだと思う。またこちらに手を出してこないとも限らん」

「そうね……」


 ナサキさんの言葉に、クレハさんは頷いた。


「私たちの子供に手を出したんだもの。……許せないわよね? ここにいないけど、男たちもきっと報復を叫んだと思う」


 俺は背筋が冷えた。さすが戦闘民族のドゥエーリ。その圧倒的戦意の高さには性差などなかった。

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