第235話、救出作戦


 魔王崇拝者のアジトらしい洞窟内に、開けた空洞があって、そこに集会場があった。


 奥にあるのは魔王だろうか? 化け物の王様のような大きな石像が置かれていた。


 俺たちは洞窟通路から出ないように注意しつつ、周囲を確認する。


「結構、広いな……」

「この高さに一階層。もう一段下に一階層」


 ラウネも覗き込む。


「横穴がいくつもあるわね。左右に4、5ずつ……。崇拝者たちの個室かしらね」

「これだけ見ると、人数が多そうだ」


 もっとも、今見える範囲だと、数えるほどしかいないが。横穴の先がどうなっているかわからないが、ラウネの言う通り信者たちの部屋だったりしたら、それなりの人数がいるかもしれない。


「構うものか」


 シィラが、すでに目が据わっていて、カバーンも頷いた。


「やりましょう!」

「待て。子供たちの安全が最優先だ」


 魔王崇拝者の始末は、その後でもいい。それで、肝心のドゥエーリ族の子供たちだけど……。


「上か」


 天井近くに吊り下げられた鉄檻がいくつにあって、その中に少女が二人……。どちらかがルーディで、どちらかがサシータだろうか?


「見つけたぞ、ヴィゴ。早く助けに行こう!」


 逸るシィラである。もう少し待て。特に儀式とか始まっている様子もない。どう助け出すのが安全か、考える時間はある。


 この通路を出ると左右に分かれて、奥のほうで下に降りる階段がある。その階段のすぐそばに、魔王像のある祭壇だ。吊されている檻を下に下ろすためには、下の集会場に行く必要がある。


「下に降りる階段まで、どちらを行っても横穴があるわ」


 ラウネが眉をひそめた。


「少し手間だけど、横穴を確認したほうがいいんじゃないかしら? 敵がいるなら倒しておけば、もし手荒な脱出が必要になった時、退路の安全の確保にもなるし」

「手間だが、仕方ないな」


 敵がいるのに素通りしたら、帰る時に妨害されるかもしれない。集会場に最低限しか人がいないところを見ると、他の者たちは出払っているか、部屋で休んでいると見るのが普通だろう。外はもう夜だし。


「セラータとイラは、ここで退路の確保。残りは右側の通路沿いに移動して、横穴の先を制圧。ただし横穴の規模がわからないから、通路が長そうなら放置。もし部屋だったなら、そこにいる敵を始末する……いいな?」


 頷く仲間たち。ディーが小さく挙手した。


「左側の横穴はどうします? 確認しないんですか?」

「……リーリエ、悪いが左側の横穴を軽く偵察してくれないか。危なくなったら、俺のところに転移してこい。下の連中に気づかれないようにな」

「わかったわ」


 フェアリーが通路を出た。左に行く小妖精。俺たちは右の通路だ。落下防止用の壁があるので、姿勢を低くすれば下にいる者たちからは見えない。


 静かに移動。まず最初の横穴の前に到着。無視して前を通れば、階段までそんなに掛からないんだけど。カバーンが壁に張り付いて、横穴を覗き込む。


「アニキ、中に人の気配は感じられないっス。物音ひとつしない」


 獣人の感覚で、中の様子を感じ取っているようだ。


「お留守ってことか。カバーン、シィラ、確認しろ」


 ふたりは横穴に素早く入り込んだ。俺たちは周囲に気を配る。ふとディーが上を見ているので、俺もそちらに目をやると――檻の中の少女と目があった。


 彼女たちは、俺たちが入ってきたのに気づいたのだ。下からは見えないが、上からは丸見えだったかもしれない。


「しー……」


 俺は口元に指を当てて、静かに、とジェスチャーを送る。すぐ助けるから、少し待ってろ。


「ヴィゴ」


 シィラとカバーンが戻ってきた。


「崇拝者の複数人部屋だった。誰もいなかった」

「この場合は、いないのはいいのか悪いのか」


 アジトにいないっていうことは外にいるってことだろう? 洞窟を出たところで鉢合わせってのも嫌だぞ。


「次へ」


 俺たちは、慎重に進み、隣の横穴も確認。やはりここも不在。次の横穴でとりあえず、二階の右の確認は終わる。


 と、そこへリーリエが俺の肩の上に戻ってきた。


「ヴィゴ、左側の横穴見てきたよ。全部、誰もいなかった!」

「ご苦労さん」


 となると、あとは一階横穴にいなければ、集会場にいる数人しかいないってことになる。それだけだったら、わっと攻めて終わらせることもできる。


「アニキ、ここも空っぽ」


 カバーンが最後の二階左の横穴も無人だったことを報告した。よし、それなら――


「下が未確認だが、集会場にいる奴らの目があるから、こっそり1階の横穴を探るのは無理だ。というわけで、ここから一気に攻め立て、ふたりを救出する」


 待ってました、という顔をするシィラ。ラウネは首を傾けた。


「いいの? 下には結構人がいるかも。たとえば食堂でお食事中とか」

「なら、余計に食っている間に済ませてしまおう」


 俺が気にしているのは、留守の連中がアジトの外にいる場合だ。ここの規模からして、結構な人数がいるはずだが、そいつらがアジトに戻ってきたら、俺たちは退路を失ってしまう。


「リーリエ。イラとセラータに、下の連中の注意を引くように言ってくれ。そいつらがそっちを向いている間に、俺たちが飛び出して、始末する」


 フェアリーが飛び去り、俺たちは音を立てないよう静かに石の階段を下る。集会場にいる崇拝者は6人、か。奥の3人が道具の整理。手前の3人は、吊るし檻を時々見上げているので、見張りだろう。


 さて、イラたちは――と、セラータが二階部から下へ飛び降りた。着地の音に、近くにいた魔王崇拝者が振り返り――


「こんばんは」


 炎竜の槍が崇拝者を貫いた。集会場周りにいた残り5人が、それに気づき、ある者はアッと声を上げた。


「行くぞ!」


 俺たちは立ち上がり、階段を飛び降りると、残っている崇拝者たちへとそれぞれ走った。


「敵――」


 言いかけた崇拝者が、ネムの放った矢で射貫かれる。さらにイラも長銃を使い、ひとりを射殺した。シィラとカバーンも、残る敵に突撃。


 俺はというと、天井近くに吊されている檻の真下へダッシュブーツで移動。左手で神聖剣を取り、1階から檻をぶら下げている鎖の一本を光刃を飛ばして切断!


「あっ!?」


 上から落ちてきた檻を、右手を挙げてキャッチ! 持てるスキルのおかげで、鉄の檻でも潰されずに済む。


 持ち上げた檻を近くに置いて、もうひとつの檻の下へ行きつつ、鎖を切断。落下してきた檻も受け止める。これも床に置いたら救出完了――鍵? そんなもの壊す!


 右手に魔竜剣を持って、ダイレクトアタック。今度こそ、救出!

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