第234話、狂信者の巣
伝説の魔術師が生み出した白獄死書ことハクは、魔王崇拝者から、誘拐されたドゥエーリ族の子供たちの居場所を聞き出した。
俺たちは、崇拝者たちの根城へ乗り込むべく、ハクの導きでトントの森を移動した。
木が生い茂る中、背の高い草の中を抜け、暗い森の中を抜けることしばし、岩肌むき出しの窪地に出た。
シィラが思わず舌打ちする。
「ホワイトワームの巣があったところじゃないか」
「ワームの巣だって?」
巨大ミミズ系のモンスターの名前が出た。洞窟とかジメジメした場所にいて、地中を進み、飛び出して襲ってくる。洞窟系ダンジョンでは比較的メジャーな種なので、冒険者をそこそこやっていれば、一度は見たことはあるだろう。
「ここのことは知っているのか?」
「一応な。ただ、集落の者は近づかないようにしていた。ほら、あそこに洞窟があるだろう」
俺のそばに寄って、シィラが洞窟を指さした。暗くてよく見えないから、目線を近くに合わせて見やすいように誘導してくれたのはありがたいが、距離が近い近い! ちょっとドキリとした。
「一度チームを組んで入ったんだが、もうワームだらけで散々だった」
苦い思い出があったようだ。詳しく聞きたいところだが、残念ながらあまり余裕はないかもしれない。
「で、そのワームだらけのはずの洞窟に、魔王崇拝者たちが拠点を作っていた、と」
ドゥエーリ族すら敬遠するような場所か。秘密のアジトにするには打ってつけかもな。……ワームが鬱陶しいことを除けば。
俺はハクを見た。
「あの洞窟の中に、子供たちが?」
「崇拝者が言うにはそうだね」
「さすがだ。お前がいなかったら、ここまで来るのに手間取ったかも」
「お褒めに預かり恐縮です、と。……もっとオレに頼ってもいいんだよ? 1日3回を今のところ持て余しているでしょ」
何だ、もっと構えってか?
「伝説の魔術師さんに縋るようなことが、そう毎日起きても困ると思うけどな」
「もっと日常使いしてもいいと思うけど」
「切り札はとっておくものだろ?」
「温存し過ぎて使わないやつだ、これ」
「今使っただろ」
俺は仲間たちに合図して、窪地へと降りる。敵の見張りはいなさそうだ。ラウネがハクに言った。
「なら、さらわれた子供たちを取り返してきて、ってお願いしたら、アナタ一人でできる?」
「やれと言われればできるとは思うけど――」
「マジか!」
「あー、でもオレ、さらわれた子供の顔を知らないんだよねぇ。ちょっと時間が掛かると思うよ」
「……なら、俺たちがやっても大して変わらないか」
だが、ひとりでも出来てしまうって言うなら、それだけでも大したものだとは思う。
セラータとシィラが洞窟の入り口の両側に張り付いた。見たところ、普通の洞窟だ。魔王崇拝者らしき姿はない。用心しながら中へ。
俺は声を落とした。
「ハク」
「何だい、ヴィゴ?」
「あんたは魔術本だ。いまは俺のところにいるけど、ニニヤのもとにも移動できるよな?」
でないと、呼んだ時に現れられないはずだから。俺とニニヤは、ハクのマスター。そして今、別行動中。
「呼べば、転移で移動するさ」
「呼ばれないと移動できない?」
「そんなことはないけど。……何が言いたい?」
「……俺たちに何かあって生還不能になったり、ヘマして捕まるようなことになっても、あんたは脱出できるよな?」
「あんまり考えたくないけど、答えはイエス」
「じゃ、2つ目のお願いだ。俺たちはアジトに踏み込むが、トラブったら、ニニヤのとこに飛んで、状況を仲間たちとドゥエーリ族の人たちに報告してくれ」
万が一のときに備えて。
「何なら今知らせてきてもいいけど?」
ハクが提案した。
「みんな揃ってから、踏み込むのも手だよ?」
「さらわれた子供たちがどうなっているかわからないからな。今この瞬間にも、生贄とかされていたら、マズいだろ?」
一刻を争う状況かもしれない。悠長に仲間たちを待っていたら、手遅れになるかも。
「転移で仲間もドゥエーリ族も連れてこようか?」
「できるのか?」
「可能だよ。オレが知っている場所ならね」
「それを2つ目のお願いにするって手もあるけど……」
リーリエが仲間たちより先に進んで、敵がいないか見ている。
「敵の状況がわからない。ヘタに人数集めて気取られても困る。子供たちを人質にされるようなことは避けたい」
人が増えれば、それだけ気づかれるリスクも高まる。
「とりあえず、このまま進む。状況によっては、ハクの転移に頼るかもしれないが……。取り消しが効かない分、無駄撃ちはしたくない」
切り札はとっておきたい。
「例によって使わないパターンかも」
「こういう場合、切り札は使わずに済むのが一番なんだけどね」
洞窟を進む。ワームの姿はない。いつ出てきてもおかしくはないが、魔王崇拝者たちが拠点にしているなら、出てこないように細工はされているだろう。そうでなければ、とてもアジトとして使えない。
先行していたリーリエが戻ってきた。
「途中にひとり、見張りが立ってる……!」
このまま進むと俺たちと遭遇する形になるそうだ。一本道ゆえ、迂回はできない。
「リーリエ、ネム」
俺は、二人に策を説明した。敵がひとりなら……。
「わかった――!」
小声で了承した二人は奥へと進む。少し遅れて俺たちも続く。
作戦はこうだ。まず、見張りの前に、リーリエがヒラヒラと飛んで見せる。丸腰の小妖精は、見張りの目を引くが、それで他の仲間を呼んだりはしない。小さな羽虫が、という言い方をするとフェアリーに物凄く失礼な話だが、だいたいの人間の反応は、フェアリーを目で覆う、追い払う、捕まえる、というパターンだと思う。
微妙な距離を飛んでやれば、見張りは自然とリーリエを気にして、他の注意が疎かになる。そこで忍び足の得意で小柄なネムが近づき、暗がりでも見える目で見張りを捉え、短弓で射殺す!
ゴブリンアーチャーの不意打ち能力の高さよ。哀れ、魔王崇拝者の見張りは胸に一発、そして矢継ぎ早に放たれた二発目で喉を貫かれて倒れた。
見張りを突破し、洞窟をさらに奥へ。そしてたどり着いた先には――
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