第236話、アジトがもぬけの空の件について


 集会場は制圧した。俺が檻を破壊したら、捕まっていた少女たちが、それぞれ出てきて、駆け寄ったシィラに抱きついた。


「シィラ姉ちゃん!」

「あぁ、無事だったか、ルーディ、サシータ! よかった」


 わんわん泣く少女たち。やっぱ、魔王崇拝者なんて怖い連中に捕まってショックだったんだろうな。ドゥエーリ族の子供って聞いていたけど、なんか普通。


「怪我はしていないな?」

「……うん。ちょっと擦り傷とか」

「叩かれたくらい」


 何てこった。そう思ったのは聞いていた俺だけじゃなかったようで、シィラはディーを呼ぶと、回復魔法を頼んだ。


 俺はその間、辺りを見回す。集会場周りにいた崇拝者は全滅した。気になる横穴からは誰も出てこない。


 それなりに音もしたんだけど、様子を見に来る様子がないのは、本当にお留守なのか。それならそれでいい。


「撤退しよう。ここからおさらばしようぜ!」

「アニキ、ここはこのままでいいんですか?」


 カバーンが聞いてきた。彼の手甲には、殴り殺した崇拝者の血がついている。


「集落の近くに、こんなヤバイ奴らのアジトがあるのはよくないですよ。連中がいないうちに、使えないようにぶっ壊すべきっス!」

「……いや、今は脱出優先だ」


 せっかく少女たちを保護したのに、ここでもたついているわけにはいかない。


「外に出ている連中が大勢で戻ってきたら、こちらは袋のねずみだ」

「あ、外――」


 少女のうちのひとりが声を上げた。


「大変だよ、シィラ姉ちゃん! あの鳥のお面のヤツラ、集落を襲うつもりなんだ!」

「何だって!?」


 シィラだけでなく、聞いていた全員が驚いた。


「本当なのか、ルーディ?」

「うん、ヤツラ話してた。もっと生贄がいるって! だから――」


 ここの連中がお留守なのは、ドゥエーリ族の集落を襲うためだったわけだ。なんという行き違いよ。


「なら、さっさと集落へ戻るぞ。ここのことは、全て終わってからだ!」


 俺たちは、元来た道を引き返す。今、ドゥエーリ族の集落は、ルーディとサシータの捜索で手薄。リベルタの残り組が警戒しているが、つまり、その仲間たちも危ないってことだ。


 急ぐぞ、この野郎!



  ・  ・  ・



 洞窟アジトを出て、森の中を俺たちは進む。捜索の段階では遠回りした格好なので、集落の方向まで最短距離で向かう。


 地元民であるシィラとカバーンが先導するので、早い早い! というか――


「ちょ、あんたたち、速過ぎぃ!」


 ラウネとイラ、ネムが若干遅れ気味だ。シィラとカバーンが飛ばしすぎというのもある。

 あ、というか、もっと手っ取り早い方法あるじゃん。


「ダイ様、ダークバード!」

『ほいよ!』


 魔剣が使い魔を召喚する。こいつに乗っていけば、森の中を走らなくてもいい! ラウネがゼェゼェと肩で息をした。


「あるなら、もっと早く、出しなさい、よ……!」


 ディーに抱えられて、ダークバードの背に乗るラウネ。セラータが俺を見る。


「すみません、ヴィゴ様。私は闇鳥には乗れません」


 アラクネである。乗るだけならともかく、飛行する際、大きな下半身のせいで、しがみつくことができない。かといって足の先で使い魔の背中を突き刺すわけにもいかず――


『ならば、わらわが乗せてやるわ』


 神聖剣が俺の手から離れると、白銀に輝く鱗を持つドラゴンの姿に変化した。ドラゴンブラッドで竜化を得たオラクルの能力である。ドラゴンの巨体ならば、ダークバードよりも背中は広い。


『どの道、しがみつけないことには変わりないが、かわりにゆっくり飛んでやる。主様たちは先に行くがよい』

「場所はわかるか?」

『空から行けば、集落などそのうち見つかるわ」

「任せた」


 今は急ぎたいから、それがベストだろう。俺はダイ様の操るダークバードに乗り、仲間たちと共に飛び上がった。


 トントの森のすぐ上を、かすめるように飛ぶ。木の先端に引っかけないように、注意して飛んでほしい。


「……ん?」


 水滴が顔についた。というか、雨が降ってる? そこそこ強い雨が降ってきた!


「ダイ様!」

「これくらいなら問題ない! 少しくらいならな」


 空を飛ぶから早い。体が雨に濡れるのも構わず一直線。……と、雨が弱まった。通り雨?


「見えた!」


 ダイ様の声に、俺は正面に向き直る。水気を含んだ森の匂いに交じり、何か焼けたような臭い。


 ドゥエーリ族の集落は――入り口付近で戦闘になっていた。


 空からでもカイジン師匠とベスティア、そしてルカの姿がよく見えた。戦っている相手はカラス仮面の集団――魔王崇拝者たちだ。


 やっぱりこっちに来ていた。崇拝者たちの他に魔獣なども含まれているが、それらをリベルタのメンバーたちが迎撃している。


「ようし、俺たちもやるぞ!」


 俺は、ダイ様に他のダークバードを集落へ下ろすように指示。助けたルーディとサシータを送り届けないとな。


「我らはどうするのだ、主よ?」

「俺たちは、敵の後ろに降りて大暴れと行こう! 挟み撃ちだ!」

「いいな、気に入った! 今ならあの神聖剣の小娘もおらん。我の独壇場だ!」


 あ、そうか。いま俺の手元にあるのって魔竜剣だけか。……まあ、いいか。最初は魔剣一本だったもんな。


「行くぞ、主!」

「おう!」


 ダークバードは急降下。ダイ様が魔竜剣に変化し、俺の手に。そして俺は使い魔から飛び降りて着地!


 カラス仮面の崇拝者――その後ろのほうにいた連中が、一列に並び、集落のほうへ魔法を飛ばそうとしていた。


「そうはさせん!」

『ヴィゴ、新技をゆくぞ!』


 新技――? お、おう、これか。頭の中にイメージが流れ込んできたわ。腕に魔力を流して、魔竜剣に注ぐ。その刃が熱を帯びるようにオレンジ色に発光!


「行くぞっ! インフェルノブレス――!」


 地獄竜の業火が、剣先より迸った。

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