第231話、俺たちも行こう


「いざ戻ったら、こんな騒動に巻き込まれるとはな」


 俺は、ルカとシィラを見た。


「せっかく帰郷したのに、大変だな」

「そうですね……」


 ルカは少し残念とばかりに肩をすくめた。


「ふたりが早く見つかるといいのですが……」

「クレハさんが仕切っているんだ。見つかるさ」


 シィラは腕を組んで、天幕内の柱にもたれている。……床には厚い絨毯も敷かれているが、立っているところからして、落ち着かないって態度に出ているぜ。


 一応、来客用の天幕はあるが、クランメンバーと同行する人が増えたので、引き続き妖精の籠を利用している。あちらではセカンドホームをさらに拡大中。新参者を中心にそのお手伝いに狩り出されている。


「ゆっくり親子で話しをする時間が取れなくて、残念だな」

「ルーディとサシータが見つかれば、時間はありますよ」


 ルカは天幕の入り口を開けて、集落の様子を見た。外はすっかり暗くなっていた。門番よろしく立っているカイジン師匠のベスティアボディ2号の背中が見える。


 話せなかったといえば、カイジン師匠もクレハさんに自己紹介すらできなかったな。できなかった、というか不明者捜索にすぐにかかれるように、自重したみたいだったけど。


 ……そりゃそうだよな。クレハさんも捜索に出ようとしたところに、カイジン師匠が『お父さんだよ』なんて名乗り出たら、どれだけ驚かし、また事情説明に時間を割くことになっただろうか。


 今の時点では、言わなくて正解だった。ドゥエーリ族の女たちは、行方不明の子供を探すことに注力できるのだから。


 とはいえ、何もしないってのも、シィラじゃないけど落ち着かないよな。旅の疲れを……というような長旅してここに来たわけじゃないし。


「俺からひとついいか?」

「なんだ、ヴィゴ?」


 シィラが聞いてきたので、俺は思ったことを口にする。


「俺たちも捜索に加わろう」

「いいんですか?」


 ルカの確認に、俺は小さく頷く。


「もちろんここの留守番を任されている以上、全員で行くわけじゃないけど。夜に強いメンバーと、アウラとラウネのドリアードコンビの力を借りれば、手伝いできるんじゃないかな」


 ドリアードさんたちが、森の植物などから手掛かりを見つけられたら、とも思うが、正直どれくらいのことができるのか、俺も自信ないけど。


「俺たちは、そのルーディとサシータって子の顔は知らないから、ルカとシィラ、どっちかについてきてもらって、残った方は、万が一、子供たちが自力で帰ってきた場合に備えて、ここで待機してもらうって考えなんだが……どうかな?」

「ならば、あたしが行こう。じっとしているのは性に合わない」


 シィラが進み出た。ルカも反対しなかったので、具体的に話を進めることにする。



  ・  ・  ・



「ふむふむ、そういうことならば、アウラよりワタシの方が役に立つわ」


 魔女帽子を被ったラウネは、自信たっぷりに言った。黒っぽいコーディネートであることを除けば、アウラと瓜二つの姿をしているラウネだが、服装はより魔女っぽい。


「アンタは、いちいち嫌味を言わないと生きていけないわけ?」


 アウラが不満そうな顔になれば、ラウネは、呵々と笑った。


「ワタシはアナタのダークサイドを多量に含んでいるもの。言わばアナタの闇そのもの。ワタシが嫌味なのは、アナタがそういう性格だってことよ。恨むならこんな性格をしている自分を恨みなさい」


 同じ顔でよくやるよ……。実質、ドラゴンブラッドの影響で生まれたラウネだけど、アウラの子供ではなく、分身だもんな。


「……で、来てくれるってことでいいんだな、ラウネ?」

「ええ、ヴィゴ。森の植物からその不明の子供たちのことを聞き取れば、無策で探すよりはマシでしょ」

「そんなこと、アンタにできるの?」

「アナタよりは、植物の声が聞こえるわよ、アウラ」


 ラウネがそこまで豪語するならば期待しよう。俺は、残りのメンバーを選ぼう。


 夜目がきく、といって真っ先に浮かんだネムに声を掛ける。


「シィラ姉ちゃんが行くなら、わたしも行く!」


 よしよし。後はディーか。獣人の五感は、人族よりも鋭敏だ。


「疲れてなければ頼みたいが、行けるか?」

「大丈夫ですよ。その子たちが怪我をしてたら、応急手当てもできますし」


 ディーは、快く引き受けてくれた。


「アニキ、アニキ! それならオレも!」


 カバーンが志願した。


「ルーディとサシータは、オレも知ってます! あいつらのニオイも!」


 動物の嗅覚といえば、捜索に役立つとはいえ、大の男が言うと途端に、怪しく感じてしまうのは何故なのだろう。


 他にイラとセラータ、リーリエが参加。残りの面々は、ここで待機してもらおう。


「カイジン師匠はどうします?」

『わしは残るよ』


 ベスティアボディの竜騎士は、集落をゆっくりと見回した。


「クレハたちから、ここを守るよう頼まれた。それを果たす。……故に、お前たちは何の心配もなく、子供たちに捜索に行くがよい」

「ありがとうございます。よろしくお願いします、師匠」


 師匠やルカたちに後を任せて、俺たち捜索隊は集落を出た。すぐそこから森に入り、真っ暗な森の道を行く。


 先導するカバーンが振り返った。


「狩りに出たって話っすから、しばらく道なりに進みましょう。あいつらのニオイを、かすかに感じます」


 獣人の嗅覚って凄いな。つい最近まで集落にいて、不明の子とも接していただけ、まだ探しやすいか。……クレハさんたちも、最初からカバーンを連れて行けばよかったんじゃないかって思った。


 森の奥へとどんどん進む。俺の視界の中を、リーリエがフラフラと飛ぶ。


「どうした、眠いのか?」

「この森、寒い……」


 リーリエがそんなことを言った。フェアリーは薄着だからな。


「夜になったから冷えてきたのかも」

「ううん、そうじゃなくて……。こう、寒気っていうか、いやな感じ」


 小妖精は何かを感じ取っているのだろうか?


「ねー、シィラ? この森ってどういう森?」

「ん? どういうって……魔獣が徘徊する普通の森だぞ」


 魔獣が徘徊する――ああ、まあ、普通だな、それ。

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