第229話、ドゥエーリ集落へ


 白獄死書ことハクは、魔術本であるが、人型になって、リベルタのメンバーと顔合わせをした。


 ラウネだったり、カバーンだったりとメンバーが増えたところで、正体が魔術本という怪しい存在なハクだが、仲間たちと案外打ち解けるのは早かった。……ラウネというアウラ2号が同時に紹介され、驚きの半分が喰われたこともあるけど。


 ニニヤがSランク魔術師になったことも驚きだったが、その要因となったのが、ハクがかなり影響していたことも、彼が受け入れられた一因でもあった。質問すると、助言で答えてくれるから、と。


「――で、ルカとシィラは?」

「オレの本の中で修行中」


 ハクは右手に、黒い魔術本を出すと、ページをペラペラと見せる。……シィラとルカが、ドラゴンと戦っている。


「へぇ……俺やニニヤが入っていた時も、こんな風になっていたのか?」

「そうなるね」


 ハクは机に、自分の分身でもある白獄死書を置いた。


「ニニヤがSランクになったことで、自分たちももっと強くなりたいって志願してきたんだよ」

「ルカとシィラは強いぜ?」

「キミやニニヤには敵わないよ」


 ハクは淡々と返した。


「間近でキミたちの強さを見ていればね、そりゃ焦りもするさ。……これから向かうラーメ領だっけ? 戦いはなお厳しくなるのは、予想されているからね」

「……大丈夫なのか?」


 その、本の中の修行で命を落としたりとかは――


「さすがにね。その辺りオレだって空気は読んでいるつもりだよ。でも、下手を打てば、大怪我するかもしれない。できるだけケアはするけど」


 強くなりたい、と腕を磨くのを止めるわけにもいかない。強くなろうと努力するのは、皆やっていることだ。むしろ熱心だと彼女たちを褒めるところだろう。無理だけはしてほしくないけど。


「それで、彼女たちに用があったのかい、ヴィゴ?」

「用っていうか、ドゥエーリ族の集落の場所を俺は知らないから、道案内をお願いしようと思っていたんだ。……修行で忙しそうだけど」

「カバーンに頼みなよ。彼なら喜んで道案内してくれるよ」

「そうする」


 彼女たちが駄目なら、カバーンに聞くつもりでいたし。俺はハクと別れると、カバーンを探し――カイジン師匠から格闘術の特訓を受けていた。

 集落の案内を頼めば、ハクの言う通り、カバーンは案内を喜んで買って出た。



  ・  ・  ・



 ダイ様のダークバードに乗り、俺たちは王都から南西方向へ飛び立った。


 俺とダイ様で1羽。メントゥレとカバーンで1羽だ。何故、神官長殿が乗っているかと言えば、お空の旅をしたかったかららしい。


 なおカバーンは高所はあまり得意ではないらしく、メントゥレに後ろから抱きついていた。


 しばらく飛んで日が傾く頃、荒野の先に森が見えてきて、そのすぐそばに円形の集落が見えてきた。


 木の柵に囲まれた集落。その建物はすべて天幕だった。


「へぇ……。ドゥエーリ族って、遊牧民みたいな移動民族なんだ」


 建物が移動できるテントっていうのがね。そこでダイ様が口を開く。


「どうかな。天幕はそうだろうが、周りの柵を見る限り、ここしばらくは動いていないようだな」

「……かもな」


 魔獣除けだろうが、結構高さがある。狼などでもジャンプして飛び越えるのは難しそう。しかし……。


「何か、集落の動きが活発なような……」


 ボークスメルチ氏の話じゃ、今は男衆が討伐軍に参加しているため、ほとんど女子供ばかりだと聞いているが……。


「降りるぞ」

「集落から離れたところに降りてくれ。……敵だと思われて撃たれても困る」


 何せ相手は、戦闘民族だ。迂闊に近づいたら、強弓でズドンの可能性もある。


「ドゥエーリ族は体格がいいからな。弓も長射程だろう」

「ルカでさえアレだからなァ」


 ダイ様が愉快そうに笑った。そうだとも、女子供しかいないでも、そこらの雑兵より強いだろう。


 ドゥエーリ族集落より離れた場所に、ダークバードはヒラリと降り立つ。もう1羽の闇鳥から、メントゥレとカバーンが降りる。


「大丈夫ですか、カバーン君?」

「膝がガクガクしてる……」


 獣人少年は相当、緊張して乗っていたようだ。まだ震えているところ悪いがな、カバーンよ。


「ちょっと集落まで行って、俺たちがそちらを訪ねていいか聞いてこい。……そうそう、ルカとシィラも一緒に帰ってきたって言うのを忘れるな」

「わかりました、アニキ! では行きますっ!」


 カバーンはタタタっ、と足早に駆けて行った。……さて、向こうと話がつく前に、ルカとシィラが、魔術本の中から戻っているといいが。


「大丈夫でしょうか?」


 メントゥレが小首を傾げた。集落の話か?


「さあ、どうかな。何か騒ぎになっていないといいけど……」


 集落のほうを改めて眺めた時、肩に気配を感じた。


「リーリエ」

「ヴィゴったら、反応はやーい!」


 定着の魔法で、突然現れる小妖精さん。気配でわかるぞ。


「ついた?」

「ああ。カバーンに遣いを頼んだ。ルカとシィラを呼んできてもらっていいか? 本から戻ってきてるかは知らないが」

「はーい!」


 出てきて早々に、妖精の籠のほうに引っ込んだ。


 待つことしばし、カバーンが集落から出てきて走ってきた。そんな全力で走らなくてもいいんだぞー!


「アニキ!」

「どうした、そんなに慌てて」


 お断りされたのか? 訝っているのをよそに、カバーンは答えた。


「集落にきてもいいが、いまちょっと取り込んでいるそうです」

「何かあったのか?」

「ちょっとした騒動が……。いえ、大したことかはわからないんですが」


 子供がふたり、行方不明だそうで――

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