第222話、とても高い塔


 何も全部登る必要はない。ある程度、森より高い場所まで行ければ、周囲を見渡せるだろうと思った。


 塔の中に入る入り口がある。扉はなく、そのまま侵入できる。中は……空っぽだ。壁に沿って上へと上がっていく階段があり、螺旋状に登っていく格好になる。


 前衛は俺、後ろにメントレ神官長、ニニヤという順で続く。


「上から邪な気配を感じます……」


 メントゥレが見上げながら言った。俺たちは階段を登っていく。


 どれくらい上がったか。突然、それが降ってきた!


「モンスター!」


 バカデカい蜘蛛が塔の上から真っ直ぐ降下してくる。ジャイアントスパイダーなんてものじゃない。塔の空洞いっぱいの巨体。

 46シー……? いや塔の中だ。もろとも心中するのはごめんだ。


「オラクル!」


 神聖剣から光弾が迸る。しかし、巨大蜘蛛の足に弾かれた! しかし足止めはできたようで、降下が止まった。


 が、こっちの剣が届かない。射撃系の攻撃はできるが、魔剣で直接ぶん殴ったり、セブンソードで切り裂く範囲の外だ。

 こういう時は……。


「ニニヤ!」

「やります!」


 マジシャンの攻撃魔法。ニニヤお得意のファイアランスが飛ぶ。巨大蜘蛛は器用に前足で2発を弾いたが、残り3発が命中し、その体を焼く。だが奴の巨体を焼却するには小さすぎた。


「それなら――!」


 ニニヤが詠唱を始める。……俺が聞いたことがないやつ来たー!


「――天焦がすは、炎の息吹。フレア!」


 燃え盛る炎の玉が飛んだ。それはみるみる大きくなり巨大蜘蛛を覆い、あっという間に燃やし始めた。


 あっつ……! 空気が熱せられてヒリついた。悲鳴みたいな軋み声が聞こえ、炎が塔の上の方へ消えると、パラパラと蜘蛛だったものが塵となって降ってきた。


『大したものじゃのう』


 オラクルが素直に感心した。ダイ様は唸る。


『ふ、ふーんだ。我の46シーなら、あんな蜘蛛如きやっつけられるもん』

『大人げないのぅ、姉君』

「本当だぜ」


 俺は振り返り、しばし呆然としているニニヤを見た。


「凄い魔法だな。よくやった。アウラに教わっていたのか?」

「今の、上級魔法ですよね!」


 メントゥレが声を弾ませた。


「素晴らしいですよ、ニニヤさん。その歳で上級魔法が使えるのですね!」

「え、ええ……」


 どこか戸惑いつつ、ニニヤは微笑した。


「教わってはいましたし、勉強もしましたけど、使ったのは今が初めてなんです」

「そうなのですか!?」


 そりゃ凄い。アウラの教え方がいいのもあるだろうけど、ニニヤ自身も才能があるんだろうな。


「これなら、魔術師試験も実技は楽勝じゃないか?」

「ですかね……」


 はにかむニニヤ。


 彼女がきちんと成長しているようで、俺も嬉しい。ロンキドさんやモニヤさんから、娘さんをクランで預かっている身としてはね。



  ・  ・  ・



 またも道中が飛んだ。


 気づけば塔の最上階に着いていた。空は曇り、周りは高所ゆえに風が吹いている。


「まったく……」


 俺は魔剣と神聖剣を構えた。


 目の前には、高さ4、5メートルくらいの金属の戦士像が斧を手に立っている。横幅があるせいか、ドワーフみたいな体格してやがる。……まあ、こんなデカいドワーフなんざいるわけないけどな。


 そしてもう一頭、白と水色鱗のドラゴンが翼を羽ばたかせながら、塔の上を周回していた。敵意をバンバンに飛ばしてきて、その咆哮はこちらの足を怯ませる。


「冗談じゃないよ」


 ドラゴンと金属巨人戦士像だと……? こんなのと戦えって? まあいいや、ぶん殴れる距離なら――吹っ飛ばす!


 俺はダッシュブーツで加速。戦士像が斧を振り下ろすより先に、6万4000トンの一撃を叩き込む!


 ガキィィィン――!


 派手な金属音が響いた。


「嘘だろ!」

『主様、上じゃ!』


 オラクルからの警告に、とっさに飛び退く。振り下ろされた巨大斧が石の床を砕いた。


「ざけんな! 魔剣を受けても無傷だと!?」


 斬れなかったのも驚きだが、仮にそれでも超重量を乗せた打撃で、吹き飛んでいるのが普通だ。


 しかし戦士像は無傷で、しかもほとんど動いていなかった。魔剣に耐性でもあるのか? それなら――


「オラクル! セブンソード!」


 七つの聖剣による連続攻撃! 光、雷、風、炎、氷、水、土の攻撃はしかし、虚しく弾かれた。


「神聖剣すら弾くのか!」


 なんて装甲だよ! だが、戦士像の動きは遅い。


 当たれば、簡単に両断されそうな一撃を躱す。――ドラゴンはニニヤが対応している。こっちは戦士像を彼女やメントゥレの方に行かせないようにする!


『どうする、ヴィゴ! ここは屋上だ。46シーを使うか!?』


 ダイ様が進言した。


「いや、こんな狭い場所で、使ったらニニヤたちも爆風が行っちまう!」

『しかし主様よ。こちらの攻撃は、あの像には効かぬぞ?』

「そうだな。オラクル。神聖剣も魔剣も効かない。だったら、懐に飛び込むのみ!」


 俺は剣を鞘に収めて、ダッシュした。ウスノロの戦士像が斧を振り下ろしてきたが、余裕で回避。


「お前は確かに硬いが……ガラ空きなんだよ!」


 俺は戦士像の足にタッチ。


「ひとつ、空でも飛んでみっか!?」


 持てるスキルで俺は全高4、5メートルの戦士像を持ち上げる。重量などほとんど感じず、ひょいとその巨体を持ち上げて……飛んでいるドラゴンに向かって投擲!


「うおおりゃっ!」


 戦士像が飛ぶ。ドラゴンはしかし、像に気づいてひらりと回避した。チッ、道連れにしてやろうと思ったのに。


 しかし戦士像のほうは高い高い塔から、真っ逆さまに落ちていった。たとえ無事だったとしても、この塔に戻っては来られないだろ……ざまぁみろ。

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