第219話、試験勉強


 王都図書館にきたメンバーは、それぞれ本を探したり読んだりしていた。


 ニニヤは、魔術師試験に向けての勉強。セラータとイラ、ディーは、錬金術や人体改造系の……ちょっと閲覧に許可がいるものの資料を漁っていた。


 マルモもまた閲覧制限スペースで探しものをしていたが、どうも闇ドワーフや邪甲獣、禁忌とされた魔法武具などを調べているようだった。ヴィオは邪甲獣と汚染についてこれまた閲覧に許可が必要な場所で立ち読みをしていた。


 ラウネが錬金術、アウラが汚染精霊樹を調べ、俺はというと、セラータの方を手伝った。


 が、駄目だ。どうも知りたい情報が見つからない。俺は何冊か棚から取って流し見しては、戻す作業を繰り返していた。


 そもそも、変化の術とか呪いとか、あるいは錬金術とかの基礎知識に乏しいので、専門用語を並べられると、理解ができなかった。


 気分を変えよう。


 閲覧スペースに戻ると、机の上に置かれた資料本をよそに、ニニヤが伸びをしているのが見えた。彼女も集中して、ちょっとお疲れの様子だった。


「どんな調子だい、ニニヤ」


 俺が声をかければ、ニニヤは微笑した。


「興味深いですよ。お師匠が教えてくれた魔法って、基本見せてもらってそれをやらされるんですけど、本を読んだら、あの人の言っていた意味はこういうことなんだって、わかったこともあって」

「いつも口頭だっけ?」


 そういえば、ニニヤが参考書などを広げて魔法の練習をしているところは見たことがない。


「家にいた頃に、ヴァレさんにも教えてもらっていたので、お師匠の話もついていけたんですけどね……」


 実家ですでに基礎ができていたんだなぁ。なお、アウラは、そのヴァレさんのさらにお師匠だ。


「ただ、魔法学の本を見ていると、ところどころお師匠の教えと違うことがあって……。こういう部分を試験に出されると、困っちゃいますよね」


 お師匠はこう言っていたけど、資料ではこうなっていたので、こっちが正解……。とかやられたらたまらんな。どっちが本当は正しいかは別にしても。


「そういえば試験って、何をやるんだ?」

「魔法に関する知識を確かめる筆記と、実際に魔法を使う実技ですね」

「ふうん。……いけそう?」

「お師匠にざっくり聞いたところでは、実技については何の心配もしていないそうです。筆記も何とかなるかな、と思います」

「そいつはよかった」

「ただ……」


 ニニヤは表情を曇らせた。


「Aランク魔術師以上の、オリジナル魔法や、魔法関係の論文とか、これまでまったく考えたこともなかったので、そっちが難しいですね」


 どちらもじっくり研究して、試行錯誤を重ねて作り上げるものである。やれ、といきなり言われてできるものでもない。


「お師匠は、Aランク試験を受けさせたいようなんですよね。まだ上級魔法も始めたばっかりだし」


 うーん、と考え込むニニヤである。


「オリジナル魔法か……」


 俺は魔術師じゃないから、魔術師試験は受けないんだけど、もしAランク以上を狙うなら、基礎がない俺に論文は無理だろう。やるならオリジナル魔法なんだろうけど、これも基礎なくしてはできないかな、やっぱ。


 魔法が持てます! ……これはスキルになってしまうか。持てるスキルで使ったものといえば、手に持って放ったり、敵の攻撃を跳ね返したり……いや、跳ね返しは魔法と関係なくない?


 そこでふと思った。


「ミックス……」

「はい?」


 ニニヤが反応した。どうも俺は考えが口から漏れていたらしい。怪訝な顔をされるので、俺は答えた。


「持てるスキルでな。魔法を持っているところに別の魔法を放ったらどうなるんだろうって考えてさ」

「それって……合成魔法ですか?」

「なんだ、あるのか」


 合成魔法というのか。異なる魔法を合わせて、強化ないし別の魔法として放つとからしい。


「でも異なる魔法を合わせるのは難しいですよ」


 ニニヤが腕を組んで考え込む。


「たとえば火と水なんて、合わせようものなら相殺しちゃいますし。……特性の異なるものは合わせるのが大変です」

「できたら、オリジナル魔法にならない?」

「できたら、まあそうですね。合成魔法の例は少ないですけど、存在しますし、その組み合わせた魔法が違えば、オリジナル魔法と言っても問題ないと思います」

「ふむふむなるほど。……あ、でも別に合わせなくてもいいんじゃないかな」

「と、言うと?」


 ニニヤが関心を示した。


「俺の持つ神聖剣は、七つの属性を持っているけどさ。技のひとつ、セブンソードは、一度に七つの属性攻撃を繰り出す。だが微妙にタイミングをズラして放つから、それぞれぶつかることなく敵に当たるんだよ」


 たとえばさ――


「七つと言わず、四つとか五つさ、異なる魔法を同時に使って、それらを干渉しないように攻撃魔法として使えれば、充分オリジナル魔法にならない?」

「考えはわかりますけど……」


 ニニヤはため息をついた。え、駄目だった?


「そもそも、ダブルスペル――二つの異なる魔法を同時に詠唱、使うのだって超高難度。ほとんどSランク級の技なんです」

「あー、じゃあ、三つ以上の同時詠唱で魔法が使えたら、もうその時点でほぼオリジナル魔法で合格か」

「……そうですね。できたなら、Aランクも余裕で合格じゃないですか」


 ニニヤは真顔になる。笑い飛ばすでもなく、15歳の若き魔術師は考える。


「できたら……オリジナル魔法ですよね」

「そうだろうな」


 彼女の何かに火をつけたらしい。ニニヤはブツブツと呟き始める。


「同時に詠唱なんて、ほぼ無理。じゃあ時間差を利用して順番に詠唱? でも間髪を入れずに唱えないと、ただのコンビネーションになる……」

「ひとつの詠唱で、複数の効果を発動したりはできない?」


 呪文ひとつでひとつの魔法。でもあれって意味のある言葉を並べているだけだと思うんだ。ちょっと長くなっても、複数の効果をもたせられたら。


「あるいは、短縮しない炎の魔法を唱えて発動させながら、最後に別の魔法の短詠唱を唱えるとか」


 これで別々の魔法が発動しちゃったりは――


「そんな不完全なことをしたら魔法が壊れて暴発しますよ!?」


 駄目だったらしい……。基礎ができていない俺の考えるとは、しょせん浅知恵か。


「たとえば炎の魔法に、別の炎を重ねても暴発しちゃうものかな?」

「……それは――同じ属性だと派手な暴発はなさそうですけど。……でも」


 ニニヤは顔を上げた。


「一考の余地はあります。ありがとうございます、ヴィゴさん。これ、面白そうです!」

「お、おう……」


 いまいちわかっていない俺だけど、役に立ちそうなら、幸いだ。

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