第216話、魔術師試験って知ってる?


 クランの仲間たちと朝食を摂っている時、アウラがニニヤに声をかけていた。


「魔術師試験、ですか……?」

「名前くらいは聞いたことがあるでしょう?」


 アウラの言葉に、ニニヤは頷いた。


「はい。魔術師には、魔術師ランクがあって、ついでクラスも変わるって……」

「そっ。ワタシはSランク魔術師であり、クラスはマスターウィザード。それでアナタは……」

「Eランク、マジシャンです」


 魔術師のランクか……。そういえば、アウラが、よくSランク魔術師とか言っていたな。てっきり冒険者ランクのことかと思っていたけど、どうもそれとは違うっぽい。


「アナタは、すでに中級の属性魔法を習得していて、これをランクで見るならDランクもしくはCランクってレベルなのよね。……まあ、実際のとこ、ワタシはアナタがBランクくらいは軽く行けると思っているんだけど」

「Bランクですか!?」


 ニニヤは驚いた。……うーんと、確かリベルタ加入時は、ニニヤはCランク相当って言われていなかったっけか。俺もうろ覚えだ。


「でもわたし……まだ15才ですよ?」

「ヴァレだって、15才でAランク魔術師になってたわよ」


 あっさりとアウラは告げた。ロンキドさんの第二夫人であるヴァレさん。元宮廷魔術師だったという天才。


 ちなみにニニヤは、神聖魔法の使い手にして、プリーステスだった第三夫人のモニヤさんの娘だ。


「ここ最近色々あったけれど、その分アナタの魔法の技術は磨かれた。実戦も経験していて、実技の面では上級魔法がないことを除けば、ヴァレと同レベルだと思う」


 でも、15才でヴァレは上級魔法を扱えるようになっていたけど、と、アウラは肩をすくめた。


「そっちの方は今から覚えればいいわ。少なくとも今の魔法コントロールで威力があれば、Bランクは、まあ行けるでしょう」


 アウラはそこで首を傾けた。


「……できれば、ひとつくらい上級魔法が使えれば文句なしなんだけど。あ、でもニニヤは神聖系の治癒魔法が使えるから、そこは問題ないか」


 上級魔法が使えないと、Aランク魔術師にはなれないような口ぶりだな。俺はやりとりを注視する。


「Aランク以上だと上級魔法の習得は必須。さらにオリジナルの魔法の開発か、魔法や魔術に関係する論文を提出し、学会で評価されなければならない」


 アウラの言う内容を聞いた限りだと、上級ランクに昇格するのは簡単じゃなさそうだ。オリジナルの魔法を作るとか、魔法などに関して周囲を驚かせるような発見や研究をしないといけないってことだろ?


「というわけで、ニニヤ。魔術師試験を近いうちに受けてもらうわ。筆記も若干あるから勉強しましょう。……ということで、アナタも王都図書館にきなさい。今なら閲覧自由よー」

「わ、わかりました!」


 試験と聞いて、ニニヤも少しちょっと緊張しているようだ。アウラは手をヒラヒラさせた。


「ま、Bランクくらいは軽く捻ってちょうだいな。ワタシの弟子なんだからね」


 と、Sランク魔術師は言うのである。


 陛下から、図書館で自由に調べ物をしていい、と許可をもらっている俺たちである。じゃあ、飯を食ったらさっそくお出かけしますかね。



  ・  ・  ・



 本日は、一応、リベルタのメンバーにはお休みを与えた。それぞれ自由活動してよし!


 まあ、俺とアウラは図書館で調べ物確定していたんだけどな。ついでに今後の教育方針の手がかりを探す必要があるラウネを連れて。


 さらにニニヤが試験勉強を兼ねて、図書館行きが決定。他にイラ、セラータ、マルモ、ファウナ、ディー、ヴィオが図書館組に志願した。


 シィラは本より修行らしく、カイジン師匠の下で、他のドゥエーリ族の若手らと武術稽古をした。


 ルカの母クレハの父親が、カイジン師匠だと聞いて、より修行に身が入ったようだ。ドゥエーリ族の若者たちも、ここぞとばかりにカイジン師匠からの指導を懇願し、志願していた。


 ルカはボークスメルチ氏といて、ネムとリーリエもホームに残った。……この二人は、本がそもそも読めないだろうしな。


 というわけで、俺たち図書館組は王城そばの王都図書館に向かった。


「ひっろ……」


 中に入って驚いたのは、室内の大きさだ。セッテの町の大聖堂くらい大きくないかここ……?


 アウラがニヤリとした。


「ヴィゴは、ここは初めて?」

「ああ、これまでは縁がなかった」

「字は読める?」

「一応な」


 俺は幸い、ある程度の読み書きできるように習ったからな。図書館にきたメンツはどうなんだろう? 志願したということは、読めるんだろうけど。


 セラータは元貴族だからたぶん読める。イラは……クレリックのフリをしていたという話だけど、最低限は読み書きできそう。ヴィオもまた侯爵家の令嬢。これも問題ない。


 マルモはドワーフ集落生まれだが、人間も訪れることが多い村の出身だからいけそう。ファウナは……見た目で年齢はわからないから読めるものと解釈しよう。……ディーは、こいつは怪しい。人間の言語読み書きできる?


 入り口脇に受付があり、入館手続きをする。王陛下と大臣からの許可証を見せた上で、冒険者クラン『リベルタ』と名乗ったら、少し驚かれた。……まあ、それでなくてもエルフや獣人、アラクネとかいるからビックリ集団なんだけど。


「――陛下の許可証ですから問題ないとは思いますが、くれぐれも本を汚したり破いたりしませんように」

「そんなことする奴がいるんですか?」


 俺が真顔で聞いたせいか、司書は小さく驚いたようだった。


「ええ、実は時々いるようで……」

「それはいけない」


 真顔で頷いてやれば、そうですね、と司書は苦笑した。受付カウンターにいた年嵩の司書が口を挟んできた。


「赤ん坊を連れているようですが――」

「ああ、もちろんわかっています。本には触らせません」


 ここは真顔で押し切る。


「大丈夫、とても大人しい子です。泣いたりしません」


 年嵩の司書さんは渋い顔だった。こっちはそう言うけど赤ん坊は――と言いたいんでしょ? わかってる。アウラが仲間たちに図書館マナーを話していたのは聞いていた。


「静かに、騒いだりはしない。わかっていますよ。でもこの子は特別で――実のところ、この子のことを調べるために連れてきたところがあるので、もし文句があるなら陛下に言ってください」

「文句があるなんて……。はあ、そういうことでしたら」


 渋々と司書は引き下がった。……国王陛下の名前を軽々しく使う俺。当の陛下は知らないんだけどね。

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