第215話、いい夢見た日の来訪者?


 世間は狭い。まさかカイジン師匠の孫が、ルカだったなんて。


 なお、姉妹ではあるが、ルカとシィラは母親が違うので、シィラはカイジン師匠と血は繋がっていない。


 ドゥエーリ族の若い男たちの勝負を、結果として無傷で生き残った俺である。族長のボークスメルチ氏からは絶賛され、その若い衆からは『兄貴』と頭を下げられた。


「ルカさんを、よろしくお願いします!」

「シィラさんを幸せにしてあげてください!」


 うるさいよ、お前ら!――とは怒鳴ったりはしないけど、俺と彼女らがくっつくことが一族の間で認められたようだった。


「ま、いいんじゃね?」

「よいではないか、主様よ」


 ダイ様とオラクルは、何とも気楽だった。自分たちの持ち主である俺が勝ったので気分がよさそうだった。


『気をつけろよ、ヴィゴよ』


 カイジン師匠は言った。


『こうやって、強者を一族に取り込もうとするのが、ドゥエーリ族の常套手段よ』


 つまり、彼女たちと結ばれた場合、俺はドゥエーリ族に取り込まれるわけだ。彼女らとの間に出来た子は、ドゥエーリ族の血を引いている。。


 ともあれ、その日の晩は、ドゥエーリ族の戦士たちと大いに飲み、食べた。


 会ったばかりの時は強そうで、おっかなそうな戦士たちという印象だったが、一度戦ったからか、とても気さくで思いのほかさっぱりした連中だった。うちのクランメンバーも晩餐を共にしたが、距離を置いて変に絡んで彼女たちを不快にさせる者はいなかった。


「そりゃあもう。兄貴の女に手を出したりしませんよー」


 ……なのだそうだ。


 なお、カイジン師匠が、クレハ母さんの父親と聞いたドゥエーリ族の若い衆らは、まるで御神体を見るように崇めていた。


 ルカのお母さんの影響力凄ぇ。一度会ってみたいような、会うのが怖いような……はてさて。



  ・  ・  ・



 久々に王都のホームのベッドで寝た。


 妖精の籠内のセカンドホームのほうのベッドが最近多かったから。


 あっさり眠りについたと思う。目が覚めたからこそ、自覚するのだが、はて、外はまだ真っ暗。夜中に起きてしまうとは……しかし、何か重いな。


 暗がりの中、何かの気配を感じる。俺の上に何か……誰か乗ってる? 思考がまとまらない。正体不明のものが入り込んでいるなら、飛び起きなきゃいけないんだけど……夢の中かこれ?


「あら……起きた?」


 この声は――アウラか?


 うっすら影になっているが、長い髪とか全体のシルエットは、ドリアードの魔女。


「前にもこんなことがあったような……」

「あらそう? ワタシは初めてだけどぉ」


 んー。何だろ。この違和感。しかし、体が重いな……。


「おやすみなさい。こっちはこっちで済ませておくからさ」


 眠気がひどい。最近何気に疲れているんじゃないか。相変わらずのし掛かられて重みを感じるけど――いや、彼女は言うほど重くはないんだけど、それはそれで。


 俺は眠りについた。


 ルカとシィラ、イラやヴィオが生まれたままの姿で出てくる夢を見た。ついでにブラック衣装のアウラが出てきて、気持ちよくなった。



  ・  ・  ・



『おはよう、我が主よ』


 目を覚ますと、外は朝になっていて、魔剣――ダイ様の声が聞こえた。


『昨日はお楽しみだったか?』

「何が?」


 欠伸を噛み殺していると、今度はオラクルセイバーが言った。


『よい夢は見れたかや?』

「……うーん」


 いい夢だったような。気持ちいい夢だったような気がするが、起きると夢って忘れるのが早いよな。覚えているようで、忘れちゃうやつ。


「忘れた」


 しかし、ダイ様もオラクルも俺が起きた途端に声をかけてくるのは珍しい。変な感じ。ベッドに甘い匂いがした。


「昨日、誰か部屋に来たか?」

『昨日?』


 ダイ様が素っ頓狂な声を上げた。オラクルは言う。


『「昨日は」主様がベッドに入ってからは誰も来ておらんぞ。それより前は知らぬがな。何故じゃ?』

「俺じゃない匂いがする……?」


 誰かいた。このベッドに。……そういえば夜中に目が覚めて。


「いや、誰かいたぞ……。なあ、本当に誰も来ていないのか?」

『昨日だろ? ああ、来ていないよ、昨日はな』


 ダイ様が思わせぶりな言い方をしている。……昨日?


「違う。昨日じゃない。今日だ。日が変わってからだ。俺の部屋に誰か来ただろう?」

『……』


 何故そこで、ダイ様もオラクルも黙るのか。


「来たんだな?」

『……』


 しかも口止めされているな。少なくともクランメンバーの誰かだろう。敵意のある者なら、ダイ様なりオラクルなりが俺を叩き起こすなり、侵入者を攻撃しただろうし。


「で、誰が来たの? 誰にも言わないから教えろ」

『……』

「そうか。それじゃしょうがない。今日は外出する予定だが、ふたりとも部屋に置いていく」

『なんじゃとー!?』


 オラクルが吼えた。一方、ダイ様は。


「我は本体が歩けるからいいもーん!」

「ずるい、ずるい、姉君だけずるいのじゃー!」

「何を言っておる? お主もこの前動けるようになっただろう?」

「あ、そうじゃった」


 うっかり、とばかりにオラクルが照れた。

 ドラゴンブラッドの力で、オラクルセイバーも自力移動が可能になったとか云々。置いてけぼり戦術は、効果なしかー。

 やれやれ、口の堅い頑固者たちだ。

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