第212話、ドゥエーリ族族長とお話


 ドゥエーリ族がやってきた。


 戦闘民族と名高く、噂通りの高身長が揃った戦士たち。ラーメ領騒動の話を聞き、傭兵として討伐軍に参加するために王都に来たそうだ。


 そしてボークスメルチと名乗った男が、ドゥエーリ族の族長であり、ルカ、そしてシィラのお父さんなのだそうだ。


「父様!」

「おお、シィラ!」


 リベルタのホームへとやってきた、彼らドゥエーリ族。父の声が聞こえたのか、ホームから出たシィラが一直線に、ボークスメルチに駆け寄ると抱きついた。身長の高いシィラでさえ、ボークスメルチ氏に前では普通の娘に見える。


「お前も元気そうだな」

「元気にやっているよ、父様。もうヴィゴには会ったか? 将来のあたしの夫だぞ」

「ああ、お前はヴィゴ・コンタ・ディーノと会うといって集落を出たからな。ちゃんと会えたようで何よりだ」


 ……その、本人の前で、そういう話されると、ちょっと反応に困るんですが。


「ルカもいるということは、ふたりとも将来はヴィゴを夫とするのか?」


 ボークスメルチ氏が、ぶっ込んでくる。シィラは満面の笑みで頷いた。


「はい!」

「ルカは?」

「あー、えっと……たぶん、そうなったら、いいな……っと」


 凄く恥ずかしそうに、ゴニョゴニョとルカは言った。


「……!」


 それって、俺に気があるってこと? 自分より身長高い男性が好みとか言っていた彼女が、俺と結ばれてもいい発言を父親の前で言ったのだ。


 モジモジしているルカを見て、シィラは溜息をついた。


「父様、見ての通りルカは煮え切らない」

「……昔っから、照れ屋だったからのぅ」


 ボークスメルチ氏は、視線を転じた。


「そちらの魔女も、ヴィゴの嫁か?」

「え、ワタシ? 違う違う」


 ラウネを抱いていたアウラは首を横に振った。


「ワタシは、ヴィゴがリーダーを務めるクランに所属する魔術師よ」

「そうか、それは失礼した。もうヴィゴには子供がいるのかと思った……」


 あー、まあ、一緒にいればそう思う人もいますよね……。


 アウラは、俺とボークスメルチ氏を見た。


「とりあえず立ち話もなんだから、中に上がってもらったら?」

「それもそうか。……如何です、ボークスメルチ族長殿」

「うむ。お邪魔する」


 ボークスメルチ氏は頷いた。



  ・  ・  ・



 リベルタの面々は、やってきた大男の集団に驚いていた。


 ルカとファウナが料理の支度をする中、ボークスメルチ氏はホーム内に。連れの方々は、庭のほうで野営の準備にかかった。


 ……うちの庭、広くてよかった。


 シィラはお父さんがいたことで、いつもよりテンションが高かった。成人したといっても18歳。それまで一緒だった家族と会えて、ホッとしているのだろう。


 家族水入らず……と行きたいところだったが、シィラの話はもっぱら俺の活躍だったりする。


「――最初に会った時、あたしはヴィゴに手も足も出なかった。聞いてくれよ。あたしは模擬用とはいえ槍。なのにヴィゴときたら武器もなく素手であたしと戦ったんだぞ!」

「シィラを相手に素手だと? 本当か?」


 ボークスメルチ氏はにわかに驚いた。


「本当だとも! あたしの攻撃はいとも容易く受け止められ、吹っ飛ばされた」

「ハッハッハ……。おい、お前たち――」


 1階テラス席でボークスメルチ氏が言えば、同族の男たちが視線を向けた。


「本当に強い男は、聖剣や魔剣に頼らずとも強いのだ。わかったかー!」

「ウーっス!!」


 屈強な戦士たちの野太い返事である。見た目、強そうな連中だ。ただ身長が高いだけじゃないっていうのがね。


「まあ、カバーンを、あっさりのした動きを見れば、自ずとわかるがな」


 見ていたらしい。そういえば、そのカバーンはどうした……?


「族長!」


 庭にいたひとりの戦士が進み出た。


「私に、ぜひにヴィゴ殿との決闘の許可を頂きたく!」


 ……え?


「力比べか?」

「いえ、娘さんを頂きたく!」

「俺も!」

「私も!」


 おいおい、何人出てくるんだよ。呆れる俺をよそに、ボークスメルチ氏は肩をすくめ、俺に向き直った。


「オレの娘たちは、村の男どもからも人気でな。まあ、我らは戦闘民族だ。欲しければ戦って勝って手に入れろ、だ」


 わぁお、頭からつま先まで戦闘民族だ。


「なあに、シィラに勝てる男ならば、こやつらの相手も難しくないだろう……」


 それ、同族の、これから俺に挑もうとする人の前で言っちゃいます? ますます煽ってるような……。


 というか、これ、俺やると言っていないんだけど――


 シィラは目を輝かせて俺を見ている。格好いいところを見せて欲しいって顔が言っているぜ。自分が選んだ男だから当然って期待が滲んでいる。


 まあ、先のことはわからないけど、シィラやルカと結ばれるようなことになれば、ボークスメルチ氏ほかドゥエーリ族とも少なからず関わることになるんだろうな。


 その時、勝負から逃げた腰抜けなんて見られるのは、さすがに肩身が狭すぎるってものだ。

 まあ、Sランク冒険者が、勝負から逃げるってのもよろしくないよな。


「お父さん、あまりヴィゴさんに無理を言うものじゃないですよ」


 声が聞こえていたのか、ルカがやってきた。俺はボークスメルチ氏に答えた。


「ま、食事の時間までなら、いいですよ。ドゥエーリ族の強者たちの胸をお借りしますよ」

「負けたら、娘たちが取られるかもしれんぞ?」

「さすがにそれは面白くないですね」


 まあ、負けないように頑張りますよ。

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