第209話、アウラウネではない


「最近、会うたびに驚かされているな」


 王都カルム冒険者ギルドのギルドマスターであるロンキドさんは言うのだ。俺は肩をすくめる。


「まあ、色々あったんですよ」

「だろうね」


 眼鏡の奥で、ロンキドさんの目が光った。


「防具、新しくなっているな。ドラゴン素材のような」

「ええ、竜神の洞窟の謎を解いたら、ドラゴンの血を見つけまして。結果、このように装備が進化しました」

「……」


 ロンキドさんは、視線をスライドさせる。俺の横にいるアウラ――正確には彼女が抱きかかえている幼子へ。


「娘がいるとは知らなかった。いつご結婚をされたのですか、アウラ?」

「引っぱたくわよ」


 アウラは眉をひそめた。


「この子、成長速度が早くてね。生後2日でこれって言ったら信じる?」

「難しいですね。でもまあ、ドリアードですから、そういうこともあるかなとは、思いますよ」


 やんわりロンキドさんは言った。


「生後2日? もう2、3歳くらいに見えます」

「昨日はせいぜい1歳くらいまでだったんだけどね」


 これもドラゴンブラッドの影響だろうか。それはともかく、ここ数日の報告をした。


 ラーメ領のセッテの町を占領していたアンデッド軍団は壊滅させた。それを操っていたとされるネクロマンサーを討ち、さらにコーシャ湖に現れたレヴィアタンを討伐した。


 その際、ダイ様が敵の魔剣を取り込みパワーアップ。それに触発されたオラクルの提案もあって、近くにある竜神の洞窟へ言ったら、他国の工作員と思われる集団と遭遇、交戦になった、と。


「帝国と言ったんだな?」

「ええ」


 確証はないが、目下、スヴェニーツ帝国がもっとも怪しい。魔王の欠片の扱いについて、周辺国と意見が合わず、緊張関係にあるのが根拠のひとつ。


「ラーメ領の騒動も、帝国が裏で関わっていると」

「その可能性は高いですね」


 俺はアウラと顔を見合わせ、頷いた。


「ラーメ領を解放できた際に、その証拠も掴めればいいのですが」

「汚染精霊樹の件もある。敵の討伐と領の解放は最優先事項になるだろう」


 ロンキドさんは首肯した。


「そろそろ第二次討伐軍も動き出す。これからが本番だぞ」

「少しは楽ができるのかしらね?」


 アウラが皮肉った。ロンキドさんは肩をすくめた。


「軍としては、前回の2倍近い。諸侯の遠征軍のほか、傭兵も多い」

「なるほど。道理で知らない顔が増えたと思ったわ」


 冒険者ギルドに来る途中も見かけたし、このギルドフロアでも余所から流れてきた冒険者の姿もチラホラあった。


 若干治安が悪くなったんじゃないかな、と心配ではあるんだけどね。ガラの悪いのも少なくないから。


「お前たちなら空から移動できるから、討伐軍と別行動で現地合流も構わないと思うが、どうするね? またラーメ領に先行するか?」

「ちまちま偵察したり、魔物を減らしたりはしようかなー、とは思ってはいるんですが……」


 俺はアウラを見た。ドリアードの魔女は幼子を見やる。


「この子のことも調べたいし、新しい装備や技の練習とかあるから、王都にいる時間も増えると思うわ」

「調べるというと――」

「王都図書館……。あそこは閲覧制限があるけど、ヴィゴが大臣に頼めば許可は下りると思う」


 思わせぶりな視線に、俺は苦笑する。Sランク冒険者で神聖騎士とあれば、大抵のことは通るだろう。まあ、それでも不可もあるんだろうけど、ラーメ領解放のためとか言えば、通るんじゃないかな?


「じゃあ、図書館の許可をもらうついでに、王城に行って大臣にラーメ領での件を報告を頼む」

「了解です」


 俺が承知すると、ロンキドさんの視線は再び、ドリアードの幼子に向いた。


「それで、この子の名前は?」

「ラウネよ」


 アウラが答えた。


「皆と話し合ったんだけどね。ドリアードと同じく木や植物と関係あるから、アウラウネの名前を出した子もいたんだけど――」


 人型の花系のモンスターとも言われているやつで、精霊ではない。

 何かと花とセットで見た目は美しいとされるが、人を惑わし生気やら養分を吸い取って殺すとされる。


「偶然、ワタシの名前がアウラだから、じゃあワタシの体から生まれたから、アウラウネの名前の半分でラウネってことになったのよ」


 ドリアードなのに、アウラ。アウラウネではない。……紛らわしい。


「やっぱり貴女から生まれたのではありませんか」


 ロンキドさんは皮肉げに口元を歪めた。


「お父さんは誰ですか?」

「竜神の洞窟のドラゴンということになるかしらね」


 アウラが幼子――ラウネの頭を撫でようとすると、幼女はペチンとそれを弾いた。人前で撫で撫でするなって抗議らしい。


「ワタシの娘ということになるなら、お父さんはドラゴン、お母さんはドリアードということになるのかしらね」

「それはまた、凄い組み合わせですね」

「でもワタシ、お父さんの顔も知らないのよー」


 めちゃくちゃ芝居がかった仕草を取るアウラである。悪ノリが過ぎませんかねぇ。


 苦笑するロンキドさん。そこで話題は変わる。


「そういえば、ヴィゴ。リベルタに加わりたいっていう志願者が何人かいる」


 へぇ、入りたいって奴がいるのか。……まあ、そういやSランク冒険者だからって、やたらキラキラした目で見ていた奴もいたっけ。


「人数はいるか?」

「今は足りてますよ」


 ここのところ、ちょくちょく人が増えている感じ。ただこれからのことを考えるなら。


「優秀な即戦力なら、まあいても困らないでしょうが」

「どうかしら? うちのクラン、人外が大勢いるから。……ワタシも含めてね」


 人間至上主義者には、まず無理だろうな。


「リストは作ってある。入れる入れないはお前の決めることだ。まあ、見るだけ見ておけ」

「どうも」


 どんな人材か見てみないとわからないが、あんまり増えてもね。どこか不足しているところあったっけか。

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