第208話、……子供?


 いったい何が起きたのか?


「アウラ、その腕……」

「大丈夫。ワタシはドリアードよ。またすぐ生えてくるわ」


 ボタボタと腕の切り口から液が滴っているようだけど。


「自分で切り落としたのか?」


 落ちている右腕は変色していた。ひょっとして、ドラゴンブラッドに触れたせいか?


「直に触れたのがマズったわね……。それだけこのドラゴンの血の力が強かったってことだけど」


 精霊には、竜の血は刺激が強すぎたようだった。切り離されたはずなのに、なんかピクピク動いているんだけど。


 アウラは、自分の一部だったものを観察する。


「さあて、ドラゴンブラッドの影響でどう変化する?」


 俺たちが見守る中、腕だったものが急に大きくなって、形が変わった。


 スライムじゃないのに、さっきのゴムの変身を見ている気分だ。ドラゴンブラッドの過剰摂取は変化する副作用があるって聞いたけど、まさにそれか。


 ルカが目を見開いた。


「赤ん坊……?」

「いや、子供じゃないか?」


 シィラが覗き込む。緑色の髪が生えた小さな少女の姿になった。髪の色といい、見た感じかの質感が、アウラによく似ている。


「アウラの子供?」

「そういうことに、なるのかしら?」


 自身でもよくわからないという顔をするアウラ。


「ドリアードって子供作るものだっけ?」

「精霊様がどう増えるかなんか知らないよ」


 人型なんだけど、体は木でできているみたいな。


「この子もドリアードか?」

「どうかしら? ドラゴンブラッドが原因だとは思うから、純粋なドリアードではないんじゃない?」


 半分はドラゴンの血でできている。ドラゴンブラッド・ドリアード?


「ドラゴンの血の驚異ってやつね。害がなさそうなら、育ててみるのもいいかもしれないわね」


 アウラは左手で、横たわっているドリアード娘を突っつく。お眠なのか、ドリアード娘の小さな手がアウラの左手を掴んだ。完全に赤ん坊だよな。


「まさかの子持ちか、アウラ?」

「あるかはわからないけれど、この子については文献がないか探したいところね」

「王都の図書館?」

「あるかしらね」


 俺とアウラで話し合う。セッテの町も取り戻したし、一度王都カルムに戻るとしよう。



  ・  ・  ・



 さて、ここでドラゴンブラッドを用いた強化報告。


 まず武器。


 イラの使っているライフル、マルモのガガンについては、素材が強くなった程度で、劇的に変化はなし。


 ただ、つい先日、ライフルにつけた遠距離狙撃用のスコープなるレンズが変化したらしい。


「拡大できるようになりました」


 イラ曰く、先日マルモが闇ドワーフ資料の図面から製作したライフルスコープは、遠くは見えるが調整することはできなかったらしい。が、ドラゴンブラッドの効果か、スコープに使っているレンズを覗き込む時、拡大、縮小ができるようになったのだそうだ。


「これで遠くの様子を、より正確に見ることができます」


 銃本体ではなく、アクセサリーのほうが変化したそうな。


 そして、ヴィオの聖剣スカーレットハート。こちらも大きな形状の変化はなかったものの、より魔力を強く感じるようになった。試したところ、攻撃系の技で威力の向上や効果範囲の拡大が見られた。


 ラーメ領の領主町に、邪甲獣がいる可能性が高い現状、その天敵とも言える聖剣の

パワーアップはありがたい。


 次に、防具。


 サタンアーマー素材の武器がドラゴン属性のパワーアップが確認されたため、同じ素材の防具にも活用したところ、より強化された。ところどころにドラゴンの鱗や角を模した突起が増えた。


 気のせいか、装備しているとより魔力を感じるというか、強くなった気がした。この辺りがドラゴンの力なのかな。


 SGシリーズ防具――アーマー、ヘルム、ローブなども、DSGシリーズということで、俺たちリベルタのメイン装備となった。バックラーやカイトシールドもサタンアーマー素材+ドラゴンのものに。


 ……レヴィアタンの素材も防具に利用できたら、なんて考えていたけど、その必要なくなってしまったかな。


 そう言ったらマルモが首を振った。


「どうでしょうねぇ。案外、水辺で使える防具とか、ブーツや靴系の素材で使えるかもしれませんよ!」

「水中用の服、水着とかか?」


 まあ、そちらは考えてもらうとしよう。


 で、ベスティアと、ベスティア二号にもドラゴンブラッドで強化されるか試してみた。


 ただ、ゴーストに影響が出るかはわからないので、カイジン師匠の魂には二号ボディから抜けてもらった。……アウラがあんなことがあったばかりだったからな。


 SG防具の変化からある程度予想できたが、こちらも装甲が鋭角的に進化した。頭部の形状は、ドラゴンを模した兜みたいになっていて、より強そうだった。


 進化後にカイジン師匠が入ってどう変わったのか確認したところ、よりダイレクトに体を感じるようになったそうだ。


『以前は鎧をまとっている感覚だったのだが、まるで服のように軽い』


 師匠もご満悦である。


『そしてこの魔力の漲り……。これはもしや魔法も使えるやもしれん』


 試してみる、と、張り切っておられた。マシンドールも魔法か……。そういや師匠って魔法使えたのか……?


 ともあれ、竜神の洞窟に来たことは大きな収穫だった。同時に――


「あの他国の工作員かもしれない連中に、ドラゴンブラッドやオーブが渡らなくてよかった」

「本当ね」


 アウラは同意した。


「このラーメ領を滅茶苦茶にして、王国を攻撃している得体の知れない連中でしょ。そいつらが、さらなる化け物を生み出したらと思うとゾッとするわ」


 ドラゴンブラッドで強化された魔物とか……。相手にしたくないねぇ。


 それにしても……。子供を抱えていると、アウラが本当にお母さんみたいに見えてくる。そういや、前世のこの人のことほとんど知らないんだけど、子供、いたんだろうか……?

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