第207話、宝珠とドラゴン装備


 ドラゴンブラッドに気を取られていたが、ドラゴンの秘宝も回収した。


 宝箱の中身は、ドラゴンオーブ――竜の宝玉。所有する者に竜の力を与え、さらに願いを叶えるという。


 ただし、誰でも持てるわけではなく、また願い事も魔力を代償にするようだ。


「……これは守護者様が持つべきものではないでしょうか」


 ファウナは静かだが、断固たる意思を感じさせる口調で言った。


「でもこれ、願い事を引き出す時に魔力が必要なんでしょ?」


 俺、アウラからのトレーニングで、以前よりは魔力も増えているようだけど。


「こういうのは、君やアウラ、ニニヤが向いていると思うけど」

「謹んで、辞退致します」


 ファウナが頭を下げて、一歩下がる。


「……わたくしの願いは、守護者様のお力となること。宝珠に願わずともすでに叶っております」

「じゃあ、ニニヤ」

「え……わたしですか!?」

「何かお願い事とかある?」

「願い……ですか」


 神妙な顔になるニニヤ。


「わたしは、早く一人前の魔術師になりたいです。そのために、強い魔力と魔法を操る力が欲しいとは思いますけど」

「じゃあ、やってみる?」


 具体的な願いって、俺もパッと浮かばなかったから、ニニヤに勧めてみたけど……。ニニヤは、アウラと見た。


 お師匠であるドリアードの魔女は小さく笑った。


「試してみたら? 危ないと思ったら、すぐ手を放してみて――」

「わかりました」


 頷いたニニヤは、俺が差し出したドラゴンオーブを受け取った。……というか、アウラ、顔色悪くない? そういえば、こういうのがあれば積極的に出てきそうな彼女が大人しいのは変だ。


「……何か、持っただけで魔力を吸われているような気がします」


 ニニヤが眉をひそめた。え、俺は別にそんなのは感じなかったけど……。ひょっとして、持てるスキルの発動物件だったか?


 とか思っていたら、ニニヤの手でオーブが光った。おおっ、ちと眩しい。光はすぐ収まったが、ニニヤはドラゴンオーブをすぐ返してきた。


「すみません、ヴィゴさん。ちょっと気分が悪くて……」

「お、おう。大丈夫か?」


 俺はオーブを受け取り、ニニヤを見る。オーブから離れて、ようやくニニヤが大きく息をついた。


「やっぱりそれ、魔力が吸い取られていたかも。放したら楽になりました。……これで魔法が強くなったのかなぁ……?」


 半信半疑そうなニニヤ。どうやらお願いはしたようだ。


「次に使う時を楽しみにしておくといいさ。――それで武器のほうだけど」


 俺が視線を向ければ、まずオラクル。


『見よ、主様! わらわも自力で移動できるようになったぞ!』


 そして白銀に輝くドラゴンへと形が変わる。


『見よ見よ! 竜化を手に入れたぞ、やったぞぃ!』


 オラクルセイバーは、希望していたドラゴンフォームを手に入れたようだった。おめでとう。神聖剣がまた一段と頼もしくなったな。


 さて、ルカとシィラの魔法武器だけど……。ダイ様が見ているな。


「ふむふむ、氷剣ラヴィーナは氷竜剣。風槍タルナードは風竜槍に進化した!」


 おおっ、進化したらしい。ルカは顔をほころばせる。


「見た目もドラゴンをイメージさせますね」


 飾りとか、武器のシルエットに連想させるものがついた感じか。ダイ様は頷いた。


「あとで試しておけ。おそらく発動する技も強くなっておるだろうし、何か新しい力

に目覚めたやもしれん」

「……本当は、あたしが強くなってから、こいつを強くしたかった」


 シィラは複雑な表情を浮かべている。


「自力でドラゴンを討伐して、その血を与えたかったが、状況が状況だ。修行している時間はないが、あたしは今より強くなって必ずタルナードに相応しい使い手になる。……すぐ追いつくから……」


 何やら武器に声をかけている。決意表明というやつかな。


 ルカも自分に自信が持てなかったようだけど、シィラもまた自分の強さに満足していなかったようだ。


 まあ、皆それぞれ悩みを抱えているもんだよな。自惚れていないだけ、マシか。


 他の武器はどうなったかな? 確認してみれば、特に見た目が変化したのは……ルカのグレートボウが変化していた。ドラゴンボウ――ドラゴン素材の弓に進化する。


 ファウナが投じたミスリルソードがドラゴンソードになり、光エルフの弓が光竜弓に。


 ディーの治癒術士用の杖がホーリーロッド、ブーメランが飛翔刃に変化。ニニヤの魔術師の杖がドラゴンロッド。セラータが使っていた炎の槍が炎竜の槍。ネムの短弓も、ショートドラゴンボウになった。


「セラータの槍は、ホルバ屋敷からの回収品だっけか。これも魔法武器だったみたいだからわかるとして。……ん? ネムの弓とディーのブーメランって」

「SG武器ですね」


 ディーが言い、ネムもコクリと頷いた。


「ゴムちゃん素材で作ったやつ-」


 サタンアーマー素材で作ったものも、ドラゴンブラッドで進化した。と、いうことは――


「これ、俺たちのSG製の防具も全部、強化できるかもってことか? さらに――」


 ベスティアと、カイジン師匠のベスディア二号も、進化対象では……?


「ゴ、ゴムちゃん……!?」


 ルカが声を上げた。見れば、サタンアーマースライムであるゴムが、ぶるぶると震えている。


「そういえば、コイツもさっきドラゴンブラッドを取り込んでたよな……!」


 アウラが取り過ぎ注意って言ったやつだ。急にゴムの体が肥大化し、その姿が変わっていく。


 あわわわ……。リーリエとネムが震える中、ゴムがドラゴンの姿を取った。ダイ様がニコニコする。


「おうおう、ゴムもどうやら新たな能力に目覚めたようだな。よしよし」


 手元に魔竜剣がないので、ゴムが何か言ってもわからない。あ、ドラゴンオーブ――俺も試してみよう。


「ゴムと会話ができますように」

『――呼んだ?』


 お、ゴムの声が聞こえた。しかし驚いたのは、ルカや周りにいた面々だ。


「ゴムちゃんが喋った!?」

「喋ったぁー!」


 ネムも何故か大喜びしている。おお、特に考えていなかったけど、他のメンバーとも会話ができるようになったようだ。……凄いな、さすがドラゴンの秘宝。


 ほんわかムードになっていると、突然アウラの鋭い声がした。


「うっ……!」


 何事? 視線をアウラに向ければ、彼女は右腕を押さえて――え、腕がない? というか、足元に落ちているのは、アウラの腕?


「アウラ!? どうしたんだ!?」

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