第206話、飲める人、飲めない人
竜神の洞窟の遺産。ドラゴンブラッド――と思われる液体を、俺はカップ一杯分飲んだ。咽せそうになる。これはまた濃厚な――
「血の味だァ……」
「当たり前でしょ。ドラゴンブラッドなんだから」
アウラが呆れたような顔になる。俺は首を振った。
「もしかしたらワインかもしれないと、一縷の望みを」
「それはさぞ美味しく仕上がっているでしょうね」
「大丈夫ですか、ヴィゴさん?」
イラが心配そうに首を傾けている。ルカやセラータも。
「今のところはな。……もう少し飲みやすいといいかな」
「感想をどうも。かえって飲みにくいほうが過剰にとらなくていいんじゃない?」
アウラがもっともなことを言った。確かに、味がよくてガンガン飲んでしまい不老不死チャレンジして死亡というのも嫌な話だ。
「じゃあ、次、アタシ飲みまーす!」
マルモが志願した。
「当面、ラーメ領にいる魔物とか、今日みたいな戦いがあるんですよね? 少しでも生存確率上げたいんで」
ドワーフ娘は割と淡々と先を見ていた。
「あたしもだ」
シィラが真顔で言った。ではわたしも――とイラ、そしてセラータも志願する。だがここで、アウラが手を挙げた。
「セラータ、あなたはちょっと待って」
「どうしてですか?」
「あなたの今の体は、ちょっとばかり特殊なのよね。合成されたアラクネ体と本来の人間の体にどう作用するかわからないから、直接飲むのは避けたほうがいい。体の再生力を高めるのなら、じか飲みより効果は落ちるけれど、ポーションで薄めたほうがいいわ」
「わかりました」
セラータは頷いた。今の彼女は、飲んで変異しやすい体になっている可能性があるのか。そういえば獣人は暴走しやすいとか言っていたし、種族によって向き不向きもあるのかもな。
「ディー。あなたも飲むなら、他の人の半分にしておきなさい。獣人には効果が強すぎる傾向があるから」
「わ、わかりました」
「あーしは?」
リーリエが、アウラの周りに浮かぶ。
「フェアリーか……。他の生き物の血の影響を受けやすいから、あまりお勧めはできないけれど。……どうしても飲みたいなら、ほんのちょっとにしておきなさい」
そうなのか?
「妖精や精霊って、血に変化しやすいのよね。だから、ワタシも飲めないのよ。少量でもどんな変化が起きるか想像つかないもの。汚染に弱いのね……」
苦笑するアウラである。
「前世なら喜んで飲んだんだけど。ドリアードと血って、あんまよくないのよね。実は、カップですくった時に指にドラゴンブラッドが触れたんだけど、指先がヒリヒリしてきたのよね……」
「あ、じゃあ変わります」
ルカが交代した。俺はアウラに歩み寄った。
「大丈夫か?」
「平気。……と思いたい」
血のついた彼女の指先。指が小刻みに動いているのは痺れているせいか。飲んだ俺は大丈夫――と思ったら、何か少し体がポカポカしているような。
他のメンバーは、順番に飲んでいた。ネム、ファウナは普通に、ヴィオは薬を嫌がる子供が覚悟したようにグイッと。ニニヤも恐る恐る飲んでいた。
飲めないベスティアとカイジン師匠は仕方ないとして――
「ゴム、あなたもたくさんはダメよ!」
アウラのお叱りが飛んだ。ゴムも体の一部を伸ばして取り込んだようだった。
「マルモ、悪いけど、このドラゴンブラッドをいくらか回収しておいて。後で――」
「魔法薬の素材にするんですねー! わっかりました!」
いそいそ、とマルモがバックパックから、回収用の容器を取り出した。ダイ様が満足げに一同を見回す。
「ようし、ようし、ひと通り終わったな! ではここからは我ら武器の番だ!」
魔竜剣の姿に戻ると、ふわりと浮いた後、ドラゴンブラッドの溜まった石の枠に剣先を突っ込ませた。
オラクルセイバーも、俺に言った。
『主様よ。わらわにもドラゴンの力を授けるのじゃ。姉君ばかりズルい!』
「お、おう……」
血溜まりに剣先を突っ込めばいいのか。自力で動けるダイ様と違い、剣の状態では動けない神聖剣である。
「ただ刺しているだけだけど、これでいいの?」
『まあ、お主は知らんのだろうがな』
ダイ様は言った。
『ドラゴンの血を捧げよ。……その血は我ら魔法の力を宿した武器を、より進化させる力があるのだ』
『アウラの話にある、人や生き物を変化させるのと似ておるとは思うよ』
オラクルも同意するように言った。
『これでわらわも竜化の力を得られるかのぅ』
『わからんぞー。我も、この竜神とやらが何の竜か知らぬからなぁ。案外、何か新しい芸が使えるようになるだけやもしれん』
ダイ様が言えば、オラクルは不服そうな声を上げた。
『竜化! わらわは竜化が欲しいんじゃ!』
魔竜剣と神聖剣が何やら言い合っているが、そうしていると姉妹みたいだなぁ……。
そこへ、シィラが近づいた。
「なあ、ダイ様。ドラゴンブラッドは、魔法武器を進化させると言っていたな?」
『おー、言ったぞ』
『あぁ、この力が漲るような感覚! わかるのじゃ。わらわの体にドラゴンの血が行き渡り、活性化していく様がっ!』
オラクルが何やらハイになっていた。シィラは魔法槍タルナードを持った。
「タルナードも、そうなのか?」
『んー、我に断言はできんが、魔法武器であれば、進化の可能性は高いと思うぞー』
ダイ様の答えに、シィラもタルナードの穂先を血溜まりに入れた。ルカが目を見開く。
「シィラ!?」
「ルカ。お前もラヴィーナでやっておけよ」
シィラは姉に振り向いた。
「あたしたちが、この武器を族長より授けられた時のことを思い出せ。『授けし武器に竜の血を吸わせよ。さすれば、武器は真の力を解放する』って」
ルカもハッとした。俺にもよくわからないんだけど、どうやら戦闘民族ドゥエーリの言い伝えのようだ。
ルカも魔法剣ラヴィーナをドラゴンの血に浸す。ダイ様は言った。
「ほれ、お主らも何か適当な武器で試してみよ。もしかしたら、何か変化もあるやもしれぬ」
大した進化はなくとも、ドラゴンブラッドの影響で耐久力が上がったり、とか云々。
クランの仲間たちも、物は試しとやってみた。
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