第205話、不老不死……?


 正面からの光。とっさに剣を前に構えた。その瞬間、ダイ様が使い魔のインフェルノドラゴンを出したのは僥倖だった。


 あの光、ぜったいまともに浴びたらいけないやつだったに違いない。光の発生源の正面に地獄竜があったことで、そのボディが光の直射をまとめて引き受ける格好になった。


「ダイ様、ナイスだ。たぶん、命拾いしたぜ」

『なに、我もあの鏡に見覚えがあったからな』


 どうやら敵が使っていた光を発生させた武器のことを知っていたらしい。なるほど、それなら対処法もわかるか。


『あれはいったい何だったのだ、姉君よ』


 オラクルは知らないらしく質問した。


『うむ、太陽の鏡とかいう眩しい武器だ。高熱を浴びせて敵を溶かすおっかないやつなのだ』


 ダイ様が物凄く嫌そうな声を出した。


『昔、あのピカッとしたやつに目潰しされてな。忌々しい!』


 どうやら軽く因縁があったらしい。それはそれは。


 俺は苦笑しつつ、振り返る。白ローブの連中は全滅していた。大騎士も、カイジン師匠とベスティアに破壊された。


「結構手強かった印象だ。よく訓練されていたような」

「帝国の特殊部隊ってところかしらね」


 アウラがシノビ形態から、魔女スタイルに戻りながらやってきた。


「連中の企みを阻止できたのならいいけれど」


 それな。仲間たちに怪我はないかと確認。幸いなことに、治癒魔法で回復する程度で済んだようだった。


「それで――」


 オラクルが神聖剣から出てきた。


「ドラゴンの秘宝とやらはどこじゃ?」

「祭壇じゃないか? 奥にいた白ローブの連中が囲んでいたのがそれだし」


 俺たちは奥へと歩き、グチャグチャに溶けた祭壇の残骸を見た。


「我のせいではないぞ!」


 ダイ様がそっぽを向いた。インフェルノドラゴンがブレスを吐いたんだっけ。オラクルが顔を引きつらせた。


「秘宝は? 不老不死とやらのドラゴンの力は? 燃やしたしまったのかや? 姉君の人でなしーっ!」

「我は人ではありませんー!」


 容姿も相まって子供の言い合いをするダイ様とオラクル。リーリエが溶けた祭壇らしきものの奥、溶けかけの壁を指さした。


「階段があるよ! この先じゃないのー?」

「行こう」


 俺たちは階段を下りる。すぐに小さな部屋に出た。棺くらい大きな宝箱が置いてあった。


「宝箱、だよな……?」

「そ、そうね……」


 アウラも苦笑いする。


「棺桶にしては、飾りが豪華よね」

「ひょっとしてミミックだったり?」


 俺たちの後から、ルカやシィラ、ヴィオにイラがやってきた。俺はさらに後ろにいるゴムを呼んだ。


「頼むわ、ゴム」

『たのまれたー』


 宝箱に取り付き、隙間にスライム状の体を出し入れ。


『はこー』


 そう言うと、ゴムは宝箱の蓋を開けた。中身は何でしょな……っ!?」


 ガコンと音がした。トラップかと身構えれば、床の一部がせり上がると、クルリと1回転。溝が現れ、そこから赤黒い液体が流れてきた。


「ひっ!?」


 見ていた女性陣が一斉に小さく悲鳴を上げた。同じく床からせり上がった箱形のスペースに液体が流れ込む。真っ赤なそれはまるで血のようで――


「ワインじゃないわよね……?」


 皮肉げに言うアウラ。鉄っぽいニオイがするぞ。そこへディーが若干引いた顔をして言った。


「それ血だと思いますよ。何の血か知りませんけど、魔力が強いような」

「ええ、何か力のようなものを感じるけれど……もしかして」


 アウラは向き直った。ダイ様がうむと頷いた。


「おそらくドラゴンブラッドだろう」


 ドラゴンの血、か? 俺と共にネムが首を傾げた。


「何かすごいの?」

「ドラゴンの血というのは、魔力に溢れているのよ」


 アウラが解説した。


「怪我とかもあっという間に治るわ。そもそもドラゴンは再生できる力が凄いんだけど、特に上位ドラゴンの血を浴びれば、永遠の命が得られるって伝説もあるくらいよ」

「じゃあ、不老不死の力って……?」

「えぇ、これが本当にドラゴンの血なら、そうなんだろうけど……うーん」


 アウラは首を捻った。ルカが、そんなドリアードの魔女を見やる。


「どうしたんですか?」

「確かに上級ドラゴンの血なら、不老不死の力と言われても、可能性はあるんだけど……あんまりいい伝説ばかりじゃないのよね」

「と言うと?」


 ドラゴンの血が溜まってきたそれを見つめながらヴィオが聞いた。


「大量に浴びたり飲んだりした結果、暴走して死んでしまうってオチも結構あるのよ」

「死……?」


 リーリエが、さっと血のプールから逃れた。アウラは腕を組む。


「ワタシも魔術師として色々調べたんだけど、多量に血液を取り込んだことで、体が変化して、それに耐えられなくて命を落とす例がいくつもあったのよ」

「変化……?」

「変異と呼んでもいいかもしれないわね。尻尾が生えて、ドラゴンの顔になったとか、有名な例ね。獣人だと獣の本能が過剰に刺激され、強くはなるけど理性がなくなって野生の獣みたいになるとか」


 そっと、ディーが二歩ほど下がった。アウラは微笑した。


「大丈夫よ。不老不死チャレンジする場合は死ぬ可能もあるって話。少量を取り込む程度なら問題ないわ」


 アウラが手に収まる程度のカップを取り出して、液体をすくった。


「上位の魔法薬には、ドラゴンの血が素材に使われていることもある。薬もそうだけど、過剰摂取をすれば薬も毒になるからね」


 赤い血液らしきものが入ったカップを、アウラは俺に押しつけた。


「少しならむしろ健康になるから、皆も一杯分くらいは飲むのをお勧めするわ。……これから厳しい戦いに身を置くのなら、特にね」

「……お、おう」


 これ、飲んで大丈夫なのかな? ちら、とダイ様を見れば『飲んでいいぞ』とばかりに頷いた。マルモは興味深げに、ニニヤは不安そうに、俺の行動を見守っている。


 ふぅ、よし……! まさかアウラが毒を押しつけるとも思えないので、一気に、グイっとひと飲み!

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