第210話、レヴィアタン・ヘッド


 ギルドで、うちのクランに入りたいという志願者のリストを見せてもらった。


 正直、名前と簡単な説明を読んだくらいでは、ピンとこなかった。まあ要するに、何か聞いたことがあるような程度で、ほとんど知らない人ばかりだったということだ。


 一度、集まってもらって、能力を見て決めたいところだ。


 子連れでギルドにきたことで、俺を知っている王都の冒険者の何人かが聞いてきた。


「結婚していたんですか、ヴィゴさん?」

「何でだよ」


 俺とアウラが夫婦にでも見えるってか? 俺は否定するが、こういう時、悪ノリしがちなのがアウラである。


「ふふ、そうよ。この人の子供」

「おめでとうございます!」

「違う違う」


 まったくもう……。それにしても、やっぱ余所から王都から来たらしい冒険者たちが、ちらちら俺の方を見ている。


 さすがに神聖騎士だから、ちょっと様子見しているんだろうけど、もしSランク冒険者だけだったら、何かしら絡まれていたかもしれないな。


 冒険者ギルドを出たところで、俺はダイ様に言った。


「レヴィアタンの頭を出してもらっていい?」

『いいが、何をするつもりだ?』

「いいから」


 あー、Sランクのヴィゴ?――近くに知らない冒険者たちが寄ってきた。


 ダイ様が魔剣の収納庫から、レヴィアタンの頭部がドン、と出した。ギルド前広場に突然現れた巨大な大海獣の頭に、ところどころで悲鳴が上がったような。


「……何か用か?」


 声をかけてきた粗野な冒険者を見れば、彼らはレヴィアタンの頭に注意が引かれて、首を横に振る。言葉も出ないようだった。


 そうか何もないか。俺は巨大なレヴィアタンの頭を掴んで持ち上げた。持てるスキル様々。


 周囲からどよめきが起こる。そりゃそうだ。端からみれば、とても常人には持ち上げられないサイズだもの。


 見ればギルド建物から何人か冒険者らが出てきたが、それは無視しておく。アウラが首を捻った。


「突然どうしたの?」

「いや、王城で報告する時に、どうせ倒したって出すんだから、今のうちに手間を省いておこうと思ってな」


 俺は歩き出す。しかしレヴィアタンの頭が大きいので、これは大通りを練り歩くことになりそうだ。路地など論外。狭い道だと家屋にダメージ与えそう。


 アウラは、ラウネを抱きかかえながらついてくる。


「アナタは周りに見せびらかす方じゃないと思っていたんだけど」

「再編された討伐軍が間もなく動き出すって話だったからさ。先にアピールしておこうと思ってさ」


 通行人や町の住人たちが驚きの声をあげつつ、俺たちを注目している。レヴィアタンの頭も驚きだが、それを運んでいるのが俺ひとりということで、さらに驚きを加速させている。


「俺は見た目がパッとしないからさ。初めての人たちが、侮るんじゃないかって」


 本当にSランク冒険者? あれが噂の神聖騎士? 魔剣と神聖剣を腰に下げていて、上等な装備を身にまとっていても、わからない奴もいるからさ。


「アウラ、何だったら先に家に帰ってもいいけど」

「いいえ。ワタシも周りが驚いている顔を見ておきたいわ。特に大臣には、ラウネを見せてさらにビックリさせたいし」

「いい性格してるよ、ほんと」


 俺が皮肉ると、抱きかかえられているラウネが、ぴしぴしとアウラの頬を叩いた。


「こら! まったくこの子は……」


 もうイタズラざかりかな。ともあれ、俺は王都の大通りを進み……巡回中の騎士に呼び止められた。


「神聖騎士殿! ……これはいったい?」

「これから王城へ報告に赴くところだ。こいつは土産だよ」


 俺を見ただけで神聖騎士とわかるのは、王都民の前での表彰の影響かな。あの時から装備は変わっているんだけど、顔でわかるんだろう。


 騎士たちが先導を引き受け、俺たちは王城へ行進。城の前の広場では、討伐軍として集まった諸侯の軍の宿営地が出来ていた。


 そこへレヴィアタンの頭がやってくれば、皆が集まり注目するのは当たり前だった。俺は片手で、巨大な頭を持ち上げ、騎士や兵士、傭兵たちの前を歩いた。


「ヴィゴ殿ぉ!」


 カヴァリ王都守備隊隊長が城門から出てきた。


「お久しぶりですね、隊長殿」


 やってきたカヴァリさんに、ラーメ領での戦果としてレヴィアタンの頭を持ってきたことと、王城には報告にきたことを説明した。


 持ってきたレヴィアタンの頭を城門脇にドンと置いて、引き渡しを済ませる。じゃあ、後はよろしく、ということで、俺とアウラは王城へ入った。


 諸侯の軍隊の騎士や傭兵たちが、さっそくレヴィアタンの頭を近くで見ようと集まったみたいだが、まあ印象付けには成功したと思う。


 なお、いつものように大臣に面会を申し込んだら、シンセロ大臣のほうが飛んできた。


「ヴィゴ殿! ド、ド、ドラゴンの頭ァ……!」

「レヴィアタンですよ」


 悪びれずに言えば、アウラも大臣の驚きっぷりにニヤニヤしている。


 事情を説明しながら城壁の上からレヴィアタンの頭を見下ろしていると、ウルラート国王まで視察にこられてしまった。


 これは計算外だったが、よくよく考えれば王様だって見に来るよな。城から見える位置にあれば。


「見事な働きであった。さすがは神聖騎士!」


 お褒めに預かり、恐縮です、陛下。


 後は冒険者ギルドでしたように、ラーメ領での報告云々。……下でレヴィアタンの頭を持ち上げようと、何人かの騎士や傭兵が試していたが、ビクともしないようだった。

 ここまで俺が片手で持ってきたから、実は軽いのでは、と挑戦したのでなかろうか。


 国王陛下は報告を聞きながら、それを視界に収めてなお微笑されていた。


 報告の後、俺は国王陛下とシンセロ大臣に、王都図書館で調べ物をしたい旨を告げた。


「なるほど、閲覧制限か」


 ウルラート陛下は察してくださった。ただ本が見たいというだけなら、わざわざ王や大臣に言わなくても入って調べることができる。


 しかし、普通に入っては閲覧制限に引っかかって、入れない区画も存在する。


「よかろう。今後の活動の役に立てるのであれば、どんどん活用したまえ」

「ありがとうございます、陛下」


 ということで、国王陛下から、王都図書館での閲覧許可証を頂いた。これで本来なら読んではいけないと止められる場所にある本も調べられる。


 ドリアードとドラゴンブラッドから出来たラウネのことや、錬金術――アラクネと合成されたセラータを元に戻す方法とか、何か手がかりがあるといいんだがな。


 後は、邪甲獣や、その汚染。精霊樹が汚染された状況に対処する方法とか、知りたいなぁ。

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