第203話、竜神の洞窟


 ドラゴンの背中に乗るなんて、子供の頃に憧れたことはある。


 だが大人になるにつれて、そんなことは自分の人生であり得ないんだろうな、って思うようになっていた。


 だがあり得ないって言ってしまえば、魔剣、聖剣を持って、Sランク冒険者になるなんてこともそうだろう。


 俺はインフェルノドラゴンの背中に乗って、空を飛んでいる。コーシャ湖を横断。竜神の洞窟を目指した。……ドラゴンがあまりに速くて、あっという間だったけど。


「あれが洞窟じゃないか?」


 アウラに大まかながら聞かされた場所に到着。湖を越え、平原を少しいったところにある山。崖のようになっている壁面にぽっかりと洞窟が口を開けているが……。


『先客がおるぞ』


 ダイ様ことインフェルノドラゴンが、ズウンと洞窟近くに着地した。そこには小規模キャンプと、いつか見た白ローブの一団がいた。


 こいつらは、例の黒装束の連中の仲間か? そういえば白いのは直接戦ったことないから、敵かどうかもわかんないんだよな。


 俺はすっと息を吸い込む。


「お前たちは、何者だ!?」


 呼びかけてみる。インフェルノドラゴンばかりを注視していた彼らは、そこでようやく背中に俺が乗っているのに気がついた。


「貴様はっ! まさか、ヴィゴ・コンタ・ディーノ!?」

「おや、俺のことを知っているのかい?」


 で、おたくらは何者よ?


「殺せぇ! 帝国の敵だーっ!」


 おいおい、問答無用かよ。


『小うるさいカトンボめ!』


 ダイ様が吐き捨てるように言うと、次のインフェルノドラゴンが口腔から炎を吐き出した。


 ドラゴンの得意技、ファイアーブレス。それが洞窟入り口周りのキャンプもろとも白ローブたちを薙ぎ払った。


 彼らはあっという間に消し炭と化して綺麗さっぱり消滅した。


『身の程を知るがよい』


 ダイ様ご満悦。あーあ、全滅させちゃったよ。俺は、インフェルノドラゴンから飛び降りた。


 妖精の籠に合図を送ると、仲間たちが次々に出てきた。


「着いた?」

「たぶんな。ここだろ?」


 アウラに確認を取れば、魔女さんは辺りを見回し、頷いた。


「どうもそう見たいね。……何か焦げたニオイしない?」

「ここに白装束の集団がいたんだ。こっちを攻撃してきたから、ダイ様がドラゴンブレスをね……」


 ああ、と納得顔になるアウラ。


「でもドラゴンを見たら、やられると思って攻撃してくることもあるかもしれないわ。よかったの?」

「俺の名前を知っていた。その上で攻撃してきたのだから、敵だろうよ。よくわからんが、帝国の敵とか言っていたぞ」

「帝国……?」


 アウラは首をかしげた。ノシノシとベスティア2号機ボディのカイジン師匠が来た。


「帝国と言えば西のスヴェニーツの連中か?」

「ああ、あそこ」


 思い当たったのか、アウラは手を叩いた。


「あの帝国、魔王の欠片を一カ所に集めて管理すべきと言ってる国で、諸外国とちょっと仲が悪い国なのよね……。なるほど、何となく見えてきたわ。ひょっとしたら、この国で暗躍している連中、スヴェニーツ帝国と関係があるかもしれないわね」

「あのう」


 ルカがおずおずと言った。


「帝国とやらについては、よくわかりませんが、その人たちがここにいたということは、竜神の洞窟は大丈夫なのでしょうか?」

「確かに」


 俺は洞窟の入り口を見つめた。


「連中もドラゴンの秘宝ってやつを狙ってここにきたんだろう。奴らに渡すわけにはいかないな」


 洞窟の中へ突入だ。



  ・  ・  ・



「――見たところ、特に変わった様子はないけれど」


 アウラは洞窟に入ってすぐにあった部屋を見回した。


 人工的に作られたと思われる四角い部屋だった。奥に祭壇があり、さらに壁にはドラゴンを象った像があった。洞窟を切り出した感が強いが、神殿のようにも見える内装である。


 しかしここに白ローブの装備の者はいなかった。


「無人か?」


 シィラが首を傾げれば、宙に浮いているリーリエが祭壇を指さした。


「あ、まだ奥があるみたい!」

「奥?」


 アウラが眉をひそめた。


「嘘! 祭壇の奥に通路なんてなかったわよ?」


 以前、来たという彼女の証言とさっそく食い違う点が出てきた。


「きっと白装束の連中が入って、仕掛けなり秘密なりを暴いて通路を見つけたんだろうな」


 俺たちは祭壇へと近づく。セラータが槍と盾を構えて、いち早く祭壇に到着すると、祭壇周りをチェックした。


「異常はなさそうです、ヴィゴ様」


 うん。アラクネさんは、地上を進むのも案外早いんだな。通路は、アラクネボディのセラータやベスティアでも余裕で通行可能。


「待ち伏せを警戒。ベスティア、先導よろしく!」

『承知しました』


 マシンドールであるベスティアならば、不意打ちを食らってもほぼ無傷。敵が潜んでいる場合、安心して最前線に出せる盾である。


 通路を少し行くと、左に直角に曲がり、そこからさらに下へと伸びる階段となっていた。石段を踏みしめながら、ベスティアを先頭に、俺たちは行く。


 部屋に出た。そこには白ローブの男たちいて、壁などを調べていた。


「ぬっ、曲者!? 抜剣!」

「やっつけろ!」


 白ローブたちが武器を抜いた時には、俺たちも突撃していた。たちまち乱戦になるが、連中は待ち構えていたわけではなかったようで、俺たちの襲撃に立ち所に制圧された。……何か仕掛けとか隠し通路でも探していたのかな?


 部屋にはさらに下りの階段があった。まだ最深部じゃないみたいだ。上から見た様子、敵の姿は見当たらないが、白ローブの奴らも最深部を目指してないわけがない。


 俺たちはさらに先へと潜った。長い階段を下り、下って、下っていくと、またも部屋に出た。


 行き止まり。おそらく最深部。そして白装束の集団もいた。


「放てェ!」


 炎、雷、氷と多数の魔法が俺たち目掛けて殺到した。

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