第202話、ドラゴンパワー


 魔剣ダーク・インフェルノと、魔剣ミウィニュアを合わせる。レヴィアタンと共にあった魔剣の力を、ひとつに。


 おおっ……長さはほぼ変わらないが厚みが若干増したような。俺は持てるスキルで片手で振り回せるけど、なかなかの重厚感である。


「ダイ様、どうだ?」

『フ、フフ……これは、なるほど竜の力か』


 魔剣が笑っている……!


『少し離れておれ。竜化!』


 魔剣から黒い波動が放たれ、次の瞬間大きくなった。めきめきと筋肉がつき、体が作られ、その姿は黒、紫、そして炎の赤の三色に彩られたドラゴンとなった。


『ふむふむ、とりあえず体の大きさはある程度自在に変えられそうだ』


 精悍な顔つきのドラゴンから、ダイ様の声がした。聖堂にいた面々が飛び出してくる。


「いったい何事!?」


 アウラが言い、シィラが魔法槍を構える。


「ドラゴンだと!?」

『待てぃ!』


 カイジン師匠が後ろから叫んだ。


『その竜は敵にあらず! そうだな、ヴィゴよ』


 警戒で外にいたカイジン師匠は一部始終を見ていたようだ。俺は頷いた。


「騒がせてすまない、皆。このドラゴンはダイ様だ。魔剣の力を取り込んで新しい能力を得た。……そうだな、ダイ様?」

『うむ、ドラゴン化の能力だな。それそれ、もっと大きくなるぞ!』


 おっとと、危ねぇ! 俺は聖堂へと下がる。燃えたぎる翼を持つ暗黒竜は、大通りの幅を埋めるが如く巨大化していく。おいおい……。


『まあ、とりあえず、今はこんなものでよかろう』


 全長では蛇竜であるレヴィアタンほどではないが、それでも町の真ん中に現れた巨大ドラゴンの姿は圧倒的だった。


 ぶっちゃけ、これと戦えって言われたらどうしたものかと悩みそう。


『聞くがよい! 我が名は魔剣……否、魔竜剣ダーク・インフェルノっ!!』


 何やら天に向かって叫び出したぞ……。


『そして地獄竜インフェルノドラゴンだ! 平伏せよ! 崇めよ! 我、最強なりィ!』


 力を取り込んだことで、増長し、世界でも破壊するつもりだろうか? これまでの付き合いがなければ、本当にとち狂ったような、傍目には悪竜にしか思えない言動だ。


 すると、インフェルノドラゴンが縮小を始めた。ただし、ダイ様はドラゴン状態を解かなかった。


『フムフム、よい感じだ。ヴィゴよ、これはよいモノだぞ』


 ご満悦のダイ様である。……よかった。さっきの咆哮は、いつものカッコつけの延長だったみたいで、本気で世界を壊したりとかするつもりじゃなくて。


『ふだんはこのくらいか?』


 などとドラゴンでのサイズについてダイ様は首を捻っている。ダークバードより若干大きい程度の大きさなら、町の大通りくらいあれば、壊さずに通行できるとか云々。


 と、突然、インフェルノドラゴンの背中から少女姿のダイ様が飛び出した。


「おうおう、ドラゴンを分離させることもできるな。よしよし、これはミウィニュアの能力だな」

「どういうことだ、ダイ様?」


 俺が声を掛けると、地獄竜の背中からダイ様が飛び降りた。


「ダークバードと同じだ。我から離れて使い魔として別行動が取れる。まあ、こやつは1体が限界ではあるがね」


 インフェルノドラゴンが首を巡らせ、ダイ様に返事をするように軽く吼えた。全力を出したら、やばい大音量を出せるんだろうな。


 アウラとヴィオが近づいてきた。


「ドラゴンかぁ。凄いわね、ダイ様」

「そうだろう。もっと褒めてもよいぞ!」


 さっそく調子に乗るダイ様である。ヴィオが腕を組む。


「魔剣って、ドラゴンにもなるのか……」

「違うぞ小娘。魔竜剣、だ! 間違えるでないぞ!」

「こ、小娘ェ……!」


 ヴィオがびっくりして、ダイ様を睨んだ。何でそんなドヤってるのダイ様は。


「ぐぬぬ……」


 ここでもうひとり、何やら悔しがっているやつがいた。ダイ様はさらにニヤけた。


「ほうれ、どうした神聖剣。悔しかったらおぬしも竜化してみせぃ」


 オラクルが大変不機嫌そうな顔をしていた。


「姉君はズルい! わらわもドラゴン化が欲しい!」


 いや、欲しいって……。まるで子供みたいな言い分に、俺は何と言えばいいのかわからなかった。神聖剣オラクルセイバーも、ドラゴン形態になりたいらしい。


「そういえば、ドリアードよ。そちは昨日、竜神の洞窟があると言うておったのぅ?」


 いきなり方向転換したオラクルの言葉に、アウラは「え?」と戸惑う。


「あぁ、コーシャ湖の向こう側に竜神を祭った洞窟があるって話ね」


 そうそう、何でもドラゴンの秘宝とか不老不死の力が封印されてるとかって言ってたよな?


「でも昨日も言ったけど、ドラゴンの像とか祭壇はあったけれど、何もなかったって――」

「主様よ、場所は近くじゃ、行ってみようぞ!」


 オラクルがアウラを無視して、俺に掴みかかってきた。


「アウラは何もないって言っているぞ」

「そんなものは、行ってみねばわからん! そもそもわらわの聞き違いでなければ、力は封印されていると言っておったはずじゃ。つまり、その封印に触れられぬ者には何もないというだけのことじゃろう」


 ゆくのだ!――ビシリ、とオラクルは町からコーシャ湖の方向を指さした。ダイ様が口をへの字に曲げる。


「えー、行くのぉ」

「行くのじゃ! 姉君も他人事ではなかろう。竜の力を宿したのなら、もしかしたらさらなる強化も――」

「よし、行こう!」


 ダイ様が乗った。これ以上強くなってどうするんだ?


 呆れる俺だが、しかしドラゴンの秘宝とか不老不死の力というのが引っかかった。


 俺が初めてダイ様――魔剣を引き抜こうとした時、白装束の一団が先んじて魔剣を手に入れようとして、しかし抜けずに諦めた。どことなく気味の悪い連中だったが、今にして思えば、あの黒装束の集団と雰囲気が似ている気がする。


 この国で何やら暗躍している黒装束と、白装束。あいつらが魔王の欠片を集めて、よからぬことを企んでいるのなら、ドラゴンの秘宝とか聞いて無視するとも思えない。


「どうするの、ヴィゴ?」


 アウラが自身の腰に手を当てて聞いてきた。


「敵が竜神の洞窟のことを知れば、放っておかないと思うんだ。様子を見に行ったほうがいいかもしれない」


 白装束の連中は、魔剣を手に入れられなくて放置していたけど、何か取っ掛かりがあって手に入れられるなら、絶対に逃がさないだろうし。


 敵がそういう力なり財宝を手に入れるのは阻止したい。……まあ、手遅れかもしれないけれど。

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