第201話、一夜明けて、皆お疲れで
翌日。一晩寝れば回復するものだと思ったが、案外体が重かった。昨日はオーバーワークだったんだなぁ。
一部天井が崩れている聖堂の中。差し込む光は白く、明るい。今日はいい天気だ。
仲間たちは結局、寝袋にくるまって聖堂内で寝ていた。静かな朝。心なしか、空気が澄んでいるような気がする。
「おはようございます、ヴィゴさん」
「おはよう、ルカ」
どうやら俺より早起きがいたようだ。ルカは、鍋を持ってきてスープを煮込んでいた。朝食である。
俺は、彼女が料理を作るのを眺める。いいなあ、こういうの……。まったり。
「手伝おうか?」
「いいですよ。もうできますから」
ニコリとルカは微笑んだが、すぐに自嘲するようなものに変わった。
「ヴィゴさんは、やっぱり凄いですね」
「何だい、いきなり?」
「……」
何か神妙な空気。ひょっとして、落ち込んでたり?
「昨日は、ありがとうございました」
「ん?」
お礼を言われるようなことあったか? 俺がわからずにいると、ルカは今度こそ自嘲した。
「何度も助けてられて……少しは役に立とうって思ったけど、やっぱり助けられて」
ドラゴンゾンビが押し寄せてきた時――ルカは視線を下げた。
「あの時、私は怯えてしまいました。……まるで雪崩が押し寄せてくるようで、とっさにどうすればいいのかわからなかったんです」
あれな……。俺もとっさに神聖剣で対処したけど、あれが最善だったかと言われるとあまり自信がない。切り抜けたのだから間違ってはいなかったのはわかるけど。
神聖剣じゃなかったら。
魔剣がなかったら。
たぶん、お手上げだったと思う。あの勢いでは、逃げても逃げ切れなかっただろう。俺だけでなく、仲間たちもおそらく。
……たぶんゴムと、カイジン師匠くらいじゃないかな自力で何とか生き残りそうなの。カイジン流剣術『竜巻』でドラゴンゾンビも細切れ。ゴムは……ほら、あれ無敵だし。
「前衛なのに……」
ルカは俯いた。
「足がすくんでしまった……」
「ラヴィーナで凍らせるのは無理だったか?」
俺が聞いてみると、ルカは顔を上げた。
「先頭の一、二頭くらいなら……でも全体を止めることは」
「一頭でも止められたなら、それでいいんじゃないか」
あの流れに飲まれて、一、二頭くらいでは駄目だったかもしれないけど、初撃を躱す隙ができて、自分だけでも助かった可能性があったかもしれない。
「前衛だからって、全部止めようなんて考えなくてもいいんだぞ」
そりゃ後ろの仲間たちに攻撃が届かないようにするのが理想だけど、何から何まで防げたり、守れたりできるわけじゃない。
「ルカは真面目だよな……」
誰も、全員を守れなんて言っていないし、そういう役割じゃないでしょ。
「君は前衛だけど、盾を持っているけど基本はオールラウンダーで、壁役じゃないんだからさ。自分の役割外のことをやって、できなかったからって勝手に落ち込むことないの」
「……!」
「人間、できることしかできないんだからさ。できないことをできるように頑張るのはいいことだけど、それってやっぱり簡単じゃないと思う。多少、落ち込んだり苛つくのもあるけど、必要以上に落ち込まなくていいんだ」
それに――俺は頭をかいた。
「助けられたって言うなら、俺もルカや皆にも助けられた」
ドラゴンゾンビを蹴散らして、ネクロマンサーも倒したけど、その後のアンデッドとの長時間の戦闘。俺だけじゃあれを切り抜けられなかった。それはあの場にいた全員がそうだし、生き残れたのはそれぞれが死力を尽くして立ち向かい、助け合ったからだ。
「ルカ、君がいてくれてよかった。俺の命の恩人だ。ありがとな」
「……ヴィゴ、さん」
ルカは息を呑んだ。目にいっぱいの涙が溜まって、感極まっているようだった。泣きたかったら、泣いてもいいんだよ。
・ ・ ・
しばらくしてルカが落ち着いた頃、ぼちぼち人が起き出した。
肉を焼き始めたら、ネムがすぐに起きてきて、シィラも寝ぼけ眼をこすっていた。
仲間たちと朝食を頬張る。パンに野菜たっぷりのスープ。そして角猪肉のステーキがアクセント。美味い。昨日はいっぱい動いたからか、俺は食が進んだ。
でも、皆はどこかお疲れの様子だった。例外はネムで、元気いっぱいという感じで食欲が旺盛だったけど。いつもは似たような感じのシィラが、ちょっとペースが遅かった。……こりゃ、今日は休養日だな。
町に残っているアンデッドが絡んでくるかもしれないが、こっちからは控えよう。
朝食の後、聖堂の外に出るとダイ様が声を弾ませた。
「ヴィゴよ、やるぞ!」
「何をだ?」
何でそんなにテンションが高いんだ?
「ほら、昨日、ミウィニュアを手に入れただろう?」
「……何だそれ?」
初めての単語が出てきた。俺が本気で首を傾げているのを見て、ダイ様は腰に手を当てた。
「昨日、主が倒したレヴィアタン。あやつの頭に剣がぶっ刺さっておったろ?」
あー、そういえば、そんなこと聞いたような。その剣が魔剣で、近くにいた黒装束の騎士は魔剣使いかもってやつ。
「その剣がミ、ミウィ――」
「ミウィニュア、だ」
めっちゃ言いにくい名前だ。ダイ様は自身の収納庫から、一振りの焦げた剣を取り出した。
「こいつがそうか」
「レヴィアタンを回収した時は忘れておったがな。そういえばぶっ刺さっていたのを思い出した」
近距離での46シーの攻撃を食らって、魔剣もだいぶ傷んでいたが……。
「出自は、我を真似た劣化コピーなんだがな! これでも魔剣だ。我も本来の力を発揮できるわけでもないし、いつもの如く、こやつの力、我の糧にしてやろうというわけだ」
「なるほど」
聖剣同士でもやり、先日は魔剣のエクリクシスを取り込んだ。ミウィニュアも取り込もうというのだ。
魔王の欠片は、取り込み過ぎるとダイ様も暴走してしまう可能性を秘めている。だが、これらの魔剣はそんな危険もなく、力を取り戻すことができる。……今でも充分、ダイ様は強いが、これ以上強くする必要があるのか?
ある。ラーメ領の超巨大汚染精霊樹を見たあとだとな……。邪甲獣もいるだろうしな。
果たして、今回のパワーアップはどんなものだろうか?
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