第200話、カタコンベの死闘


 王都を襲った黒装束の仲間らしいネクロマンサーが、ドラゴンゾンビの集団を放ってきた。


 ドラゴンって割には小型。コーシャ湖のレヴィアタンと比べたら全然小さい。だが、あれだけ広く見えたフロアも、ドラゴンゾンビの集団がまとめてくると、壁が向かってくるようなものだ。


 逃げ場なし。その圧倒的プレッシャーに一瞬でも怯めば、何もできずにやられてしまうだろう。46シーは使えない。


「オラクル!」

『応さ!』


 聖剣の力を光の刃に変えて放つ! カイジン流剣術、竜巻ぃっ!!


 高速に振るわれる右手の神聖剣。本来は相手に肉薄し、8つの斬撃をランダムかつ高速で繰り出す技。しかし聖剣の光が刃となって飛べば、距離も関係なく俺より前にあるモノを切り裂いていく。


 闇の力で動くゾンビらは、聖剣ないし神聖剣に弱い。ドラゴンなどと名がついていても、しょせんは巨大トカゲの延長。瞬く間に光の斬撃に分断され、壁は崩れていく。


 驚いたのは、ネクロマンサーの方だった。


「馬鹿な……! 魔剣使いではなかったのか!? これではまるで聖剣……」

「知らなかったのかい?」


 俺は駆ける。


「俺は神聖剣持ちだぜ!」

「くっ!」


 ネクロマンサーの足元から、新たなドラゴンゾンビが現れ、そして口から大量の何かを吐き出した。


「虫!?」


 蝿のような小さな虫の大群。こんなの躱せ――


『任せろ!』


 ダイ様の声。魔剣が動き、剣先が向いた。エクスプロージョン・バラージ!


 火球が複数放たれた。虫の塊は複数の火球の燃焼の壁に避ける間もなくすべて一瞬で消滅した。……俺もその爆発の幕に突っ込んだ。


 ダイ様が保護してくれたんだろうな。俺は無傷で突っ切った。さすが46シーでもノーダメにできる魔剣!


 炎を抜けると、焼け焦げ、崩れていくドラゴンゾンビ。そしてネクロマンサー。


「ば、化け物ぉーっ!」

「お前が言うな!」


 化け物使いがよ。神聖剣がネクロマンサーの胴を切り落とした。


 死霊使いを倒した。……どうした? 最後の悪足掻きにアンデッド化して甦らないか?


 俺は神聖剣を向けて備えたが、ネクロマンサーは上下に真っ二つになったまま絶命していた。


 ……さすがに警戒し過ぎたかな?


「とりあえず、これで終わり――」


 言いかけた時、後ろで光が走った。何事かと見れば、ヴィオが聖剣スカーレットハートを掲げ、背後から現れたアンデッドどもを消滅させていた。


「後ろ! まだまだ敵が来る!」


 え、でもネクロマンサーは――


「ネクロマンサーを失って、残っていた奴が集まってきたみたいね」


 アウラが火炎放射でゾンビモンスターを焼却する。


「ここから生きて出るためには、もうちょっと頑張る必要があるわね! ほら、皆、ヴィゴだけにいいとこ持ってかれて終わらないように、気張りなさいな!」


 ドリアードの魔女は発破ををかけた。


「ハァイイイィ!」


 マルモがガガンを連射し、敵を蜂の巣にすれば、ファウナが、聞いたことのない言葉を唄う。それはスケルトンやゴーストの魂を鎮め、動かぬ骨や布切れに変えていく。

 前衛組も、後衛組より出て、アンデッドを倒していった。

 

 かくて、激闘1時間、カタコンベの戦闘は続いた。


 掃討が終わり、聖堂に戻った時には、すでに日が落ちていた。

 そしてここでもアンデッドが押し寄せたらしく、ベスティアとゴム、イラとセラータが奮闘して、退路確保に頑張っていた。


 地下で退路遮断されていた格好だったけど、上は上で大変だったみたいだ。



  ・  ・  ・



「はい、皆、お疲れでした」


 すっかり静かになった聖堂内。俺は仲間たちを労った。


「セラータ、大丈夫か?」

「かすり傷です。イラが手当してくれましたから」

「イラ」

「わたしはディー君に」


 外で戦っていたふたりは、不意をついてきたスケルトンウォリアーの武器で負傷した。聖堂の屋根にいたイラが、斬りつけられるとか、相当だったんだな。


「治癒魔法じゃ回復追いつかなかった?」

「回復を待っていられる時間がなかったといいますか……」


 イラが苦笑すれば、ディーも疲れた顔で言った。


「魔法ですぐ直せればいいんですが、上級の治癒魔法でないと、それなりに時間がかかりますからね……」

「ディーもお疲れ」


 一時間近くの地下の戦いでは、こちらも無傷とはいかず、大事になる前の小まめな回復を強いられた。


 ルカやシィラもよく支えてくれたが、多勢に無勢だった。ニニヤは魔力をほとほと使い果たすほど、敵をなぎ払い続け、今では意識を失うくらい疲労している。


 ふだんピンピンしているアウラですら、近くに横になっているし、マルモも膝を抱えて、うとうとしている。


 俺も頑張ったから疲れたけど、正直、カイジン師匠がいなかったら危なかった。


 前衛が一気にダウンしかけた時、ひとり矢面に立って、カイジン流剣術の本家『竜巻』で向かってくるアンデッドをひたすら切り裂きまくっていた。……あれが生身の体だったら、ああはいかなかったはずだ。


「お疲れさまです、師匠」

『なに、この体ならばまだまだ動けるぞ』


 カイジン師匠は笑った。


『お主らも疲れただろう? ここはわしとベスティア、そしてゴムたちで見張っておる故、ゆっくり休むがよい』

『まもるよー』


 ゴムと分裂体たちが、ぴょんぴょん跳びはねると、四方に散った。サタンアーマー・スライムたちは素直でいいヤツだ……。


「ほら、動ける奴は、妖精の籠で休め……って、もう寝ちまったか」


 ヴィオとルカが背中を合わせて寝ている。シィラもネムとウトウトしている。……俺もあくびが出た。


 ファウナは、いつもの如く静かに佇んでいる。案外、体力お化けか? なお彼女の肩の上にリーリエが乗っかって寝ていた。……妖精さんもお疲れらしい。


 何だかんだで、セッテの町にいた敵性存在、ぜんぶやっつけちゃったかな? いや、まだ探せば残っているかもしれないけど、クラン『リベルタ』だけで町を奪回しちゃったかもしれないな。

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