第199話、ネクロマンサー
聖堂の地下には果たして何があるのか?
この町の住人や討伐軍の兵たちを、アンデッドにした者が潜んでいるのだろうか?
俺たちが階段を降っていくと、遺跡のような地下の大部屋に出た。
「カタコンベだ……」
地下埋葬所である。石造りの遺跡のようでありながら、地下を掘り進めた洞窟のようになっている部分もあり、地下ダンジョンの趣があった。
「気味が悪いな……」
シィラが呟いた。地下を支える大きな柱には人骨らしきものが多くあって、部屋の隅には棺桶がいくつか見えた。
「こりゃ、まだまだアンデッドが出てきそうだな」
ネクロマンサーにとっては、素材が山ほどありそうな場所だ。すでにクランの一部メンバーの表情が青ざめている。こういう場所が苦手な子がいるのは仕方がない。ぶっちゃけ、俺だって好きじゃない。
「棺桶や人骨からは距離を取れ」
不意打ちされても、離れていればまだ対処できる可能性が出てくる。規則的に並ぶ柱がこの部屋の視界を遮っているところはあるが、広さはあるので、対応できる。
前衛は中央は俺とカイジン師匠。右をルカ、左はシィラ。
中衛は中央にアウラ。右にディー、左はネム。
後衛は中央にヴィオとマルモ、右はファウナ、左にニニヤ。それぞれゴムと分裂体が盾役として随伴している。
どんよりとした空気が漂う。かすかに臭う死と血の気配が、背筋をゾクリとさせる。ポタリと滴る水滴の音が、俺たちの立てる足音をぬって聞こえてくる。
「セッテの町に、こんな地下埋葬所があったなんてね」
アウラが眉を潜める。
「まさか竜神の洞窟まで続いていたり……は、ないか。さすがに」
「竜神……?」
俺が聞き返すと、彼女は答えた。
「コーシャ湖を越えた先に、山間の洞窟があるのよ。ドラゴンを祭った洞窟があったって話。そこにはドラゴンの秘宝と不老不死の力が封印されているって伝説があるのよ」
「ドラゴンの秘宝に不老不死、ね……。それ本当?」
「ただの伝説よ。昔行ったけど、ドラゴンの像と祭壇っぽいのがあったけど、それ以外は特に何もなかったわ」
そりゃそうか。本当に秘宝なり不老不死の力があれば、知らない者はいない長有名スポットになっているだろうから。
『お喋りはそこまでだ』
カイジン師匠が注意を促した。
『何か来るぞ……』
・ ・ ・
まさか、フームーとミウィニュアが倒されるとは……。
スヴェニーツ帝国の特殊部隊シャドーエッジ所属のネクロマンサー、マトスにとって、レヴィアタンと魔騎士の喪失は想像していなかった。
いや、おそらく指揮官であるボーデン卿ですら、想定していないだろう。
ウルラート王国を弱体化し、あわよくば滅ぼそうとしている帝国特殊部隊であるが、ここにきて流れがよくないと、マトスは感じていた。
最初の討伐軍を壊滅させた辺りまではよかった。王国の次なる討伐軍がやってきた時のために、最前線となるセッテの町にマトスは派遣された。
大量のアンデッドを配置して、敵に出血を与えつつ、出た死体をアンデッド化し自軍に取り込む――そういう戦術だったのだが、ここで伏兵が現れる。
少数の先行部隊――おそらく魔剣使いのヴィゴ率いる冒険者グループの介入によって、その目論見は外された。
大量のアンデッドは叩かれ、そのリカバーのためにレヴィアタン・ミウィニュアが増援として送られてきたが……。
魔剣使いだろうウルラート王国の騎士にやられてしまった。
「奴を仕留めねば、計画全体が水泡に帰するやもしれない……」
マトスは警戒感を募らせた。
あの魔剣使い――ヴィゴ・コンタ・ディーノはそれだけ危険だ。
「このカタコンベを、貴様らの墓場にしてくれる!」
マトスは不敵な笑みを浮かべた。
・ ・ ・
現れたのは、スケルトンの集団だった。さすが墓地だけあって、アンデッドは掃いて捨てるほどいるらしい。
ソンビはいない。ひたすら骸骨だらけだ。棺桶からこんにちは!
「凍れ! ラヴィーナ!」
ルカの魔法剣が、スケルトンを新しい氷の棺桶に封じ込め――
「吹き飛ばせ、タルナード!」
シィラの魔法槍が、動く人骨をバラバラに吹き飛ばして、アウラとニニヤの出番。
「ファイアランス!」
「塵になりなさい!」
火葬で灰まで焼き尽くす。
後衛では、やっぱり棺や墓標から出てきたスケルトン相手に、ヴィオが聖剣を、マルモはガガンで一掃している。
この程度では、俺たちを止めることはできないのさ。俺は右手に神聖剣、左手に魔剣でそれぞれを正面に突き出す。
オラクルセイバーからの光の柱。ダーク・インフェルノからの火球が、スケルトンを砕く。
「数だけで攻めてきてもな……」
『余裕じゃな』
オラクルが笑った。ダイ様は言う。
『もっと歯応えのやるヤツはおらんのかー』
「やめろよ、ダイ様。そういう煽り、絶対面倒になるって」
とか言っていたら……
「ほらぁ、何かきたー!」
そこそこ大きな魔獣か? ワニの巨大版? 色合いが紫のワニ、いや小型ドラゴンもどきが複数体、押し寄せてきた。
しかも強烈に死臭がした。
『ドラゴンゾンビか……!?』
カイジン師匠が魔断刀『陽炎』を構えた。
「ふふふ、私をそこらのネクロマンサーと思ってもらっては困るな」
ドラゴンゾンビ集団の後ろに、漆黒ローブをまとう、フードを被った男が立っていた。
「私の専門は人間ではなく、魔獣なんだ。行けぃ! 死霊竜よ!」
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