第187話、ギルマスと打ち合わせ
王都カルムの街並みを歩く。
新しい白い鎧のお披露目も兼ねて歩いたら、そこそこ住民の視線を集めた。格好いい――聞こえたぞ、坊や。
俺、セラータ、イラ、ゴム、ベスティアに加えて、ルカとリーリエを連れての移動。ルカは仲間としてセラータを心配したのだろうが、リーリエは完全に興味本位だろう。
「失礼な! あーしのような可愛いフェアリーが一緒にいることで、セラータのイメージアップを図ってるの!」
などと言って、小さな妖精さんは、セラータの肩などに乗っていた。確かに、フェアリーが何の不安もなく側にいるのが、何よりの無害証明になるか。
小妖精は弱い。だから人一倍、危険は避ける性質だから。
「ありがとう、リーリエ」
「どういたしまして」
アラクネとフェアリーが戯れるの図。
俺はそれとなく周囲へと視線を飛ばす。セラータのメイド服効果なのか、案外騒がれていない様子。蜘蛛足に気づき、眉をひそめたり、表情が強張ったりしている人もいるが、悲鳴を上げたり、パニックに陥ってはいない。
スライムがいて、暗黒鎧騎士がいて、神聖騎士がいて、メイドがいて、なんていう不思議集団――という効果だろうかね。アラクネ以外は、割とこのメンツで歩いているし。やっぱり慣れだよこういうのは。
そして冒険者ギルドへ到着。
「あ、ヴィゴさん!」
「こんにちは!」
新人冒険者たちが挨拶してくる。Sランク冒険者になったところを見ていた者も多かったせいか、声をかけづらいとかそういうのは無さそう。多少距離はあるが、壁を作られるような雰囲気ではないのは、普段の行いだろうな。
「よう」
顔は知っていてもそこまで親密ではない。でも挨拶してくる奴には挨拶を返す。これは礼儀の問題だ。……さて、周囲も気づき出した。
メイド服を着ているとはいえ、蜘蛛足のアラクネが混じっていることに。俺はさっさとカウンターまで行った。
「おはようございます、ヴィゴさん!」
受付嬢も元気に対応してくれる。これもSランク冒険者効果。
「ロンキドさんと面談できるかな」
「はい、少々お待ちください」
何の用件ですか、と聞かれない。職業柄、ロビーやカウンターで話せないこともあるのは承知しているのだが、これが下級冒険者だと、わざわざギルマスに取り次ぐ用事なのかと確認されたりするものだ。
Sランク冒険者になると、ひと声で済むんだもんな。
「お待たせしました、ヴィゴさん。ギルマスはお会いになれます」
ほらね。ここのギルマスもSランク冒険者だけど、それですんなり面談できるって、上級冒険者ならではだよな。
・ ・ ・
アルマ、もといセラータのことを話せば長くなるが、俺は彼女を連れてロンキドさんに事情を説明した。
シャインにいた頃のアルマの顔くらいは覚えていたロンキドさん。その彼女がアラクネに改造されてしまったという話も、あっさり信じてくれた。……実物がそこにいるから、信じざるを得ないんだけど。
「――それは災難だったな」
ロンキドさんの言葉に、セラータは小さく会釈で返した。
「もとに戻る方法はあるのか?」
「今のところは手掛かりはなしですね」
俺は首を横に振る。ロンキドさんは言った。
「アウラは何か言っていたか?」
「変身の魔法や呪いの類なら、秘薬を探るという手もあるけど、それ以外の術で改造されたものについてはお手上げ、だそうです」
伝説のSランク魔術師であるドリアードの魔女さんも、錬金術絡みは専門外だった。
「そうか……」
ロンキドさんは腕を組んで黙り込んだ。何かいい知恵があれば、と思ったが、ロンキドさんにも心当たりはなさそうだった。
「一応、こちらでも錬金術をかじっている奴にあたってみる」
「よろしくお願いします」
俺が頭を下げると、セラータも同じく頭を下げた。ロンキドさんは頷く。
「それで、当面は彼女はリベルタで預かるということでいいんだな?」
「はい、うちのクランメンバーとして、登録しようと思っていますが……問題はないですよね?」
アラクネは冒険者になれないとか、パーティーやクランに所属してはならない、というルールは存在していないはずだ。……たぶん。
「ああ、彼女の場合は元々人間だったわけで、呪いではないが、そういう類いで姿を変えられてしまったという扱いだから、冒険者としての登録など問題はないよ」
「そうですか」
「過去にも、そういう人間以外のものに変えられてしまったって例もあったらしいからね」
「そうなんですか?」
「呪いでカエルの亜人になったという話だ。おれも実物は見たことはないし、結局最後はどうなったかもしらんがね」
というところで、セラータの話はひとまず終了。続いてラーメ領の問題についてを話し合う。王城にも報告は入れてあるが、こちらでも今後の話をしておく。
「……やはり汚染された精霊樹のことが気になるな」
ロンキドさんも、その点を危惧した。
「精霊樹と言えば、他に比べて魔力が豊富だ。しかしそれが汚染されたとあれば、周りの環境にどのような悪影響をもたらすかわからない。放置はしたくないな」
「あれが、領主町の真ん中に生えてなければ、俺たちだけでも仕掛けるんですが――」
ダイ様の46シー・フルブラストでも、一撃で叩き折れるか怪しい巨大過ぎる木になっていたが、頑張れば何とかなると思うんだ。……だが――
「領主町は魔物の巣窟です。しかもラーメ領には飛行タイプの魔物までいる。そいつらから攻撃を受けながらは、さすがに無理です」
領主町とカパルビヨ城の敵を一掃し制圧ないし、味方が押さえて、俺がフリーで動けないうちは、汚染精霊樹攻撃は不可能と予想される。
「あと気掛かりなのは、邪甲獣なんですよね……」
精霊樹に、邪甲獣装甲が継ぎ接ぎのようについているのが見えた。領主町には、おそらく邪甲獣がいる。
そして現状、邪甲獣に対して互角以上に渡り合える武器は少ない。俺の持つ魔剣と神聖剣、ヴィオの聖剣。後は少し落ちて魔法武器系統。
「ドワーフたちが邪甲獣装甲について解析してくれているが……」
ロンキドさんは唸った。先日、ドワーフの集落であるペルセランデに、かの装甲を俺たちリベルタが持っていった。防具に利用できないか、加工方法の調査をしているはずだが、それで何かあの装甲の弱点なりが見つかれば……。
「こちらでも遣いを出して聞いてみる。遠征軍が出発する前に、何らかの成果があればいいのだが……」
もし間に合わないようなら――俺とヴィオをメインに対処していくしかない。
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