第183話、偵察活動
「いつかこんな日がくるんじゃないかと思った!」
ダークバードを使った空の旅も、決して安全なものじゃないって。
俺は飛来する闇鳥にオラクルセイバーを向け、光の魔法で撃墜する。
「2羽目!」
「3羽目はアウラが落とした!」
ダイ様が、炎に包まれる敵ダークバードが落ちていくのを見つめていた。
「残りは――」
「む、逃げおったわ!」
ダイ様の使い魔の方のダークバードが、最後の1羽を果敢に攻めて退散させたようだった。仕掛けた敵は、もはやいない。
「やれやれ、空がこの有様じゃ、先が思いやられるな」
いつか、空の移動中にワイバーンとかに遭遇して、面倒なことになるって予感はしていたが、とうとう空中戦をやらかす羽目になっちまった。
「神聖剣があってよかった……」
なかったら、反撃も難しかった。こっちの闇鳥は重りをつけた状態みたいなもので、動きが制限されただろうし、アウラみたいに攻撃魔法や、ルカの強弓くらいしか大きなダメージが見込めなかっただろう。
『フフフ、そうじゃろう、そうじゃろう!』
オラクルセイバーが上機嫌な声を出した。俺の前に座っているダイ様が拗ねたような声を出した。
「ふん、言っておれ。我も新技がある。あれくらい造作もないわ」
「新技?」
「うむ、次の機会に披露してやろう」
いつの間にか新技などとおっしゃるダイ様。魔剣を取り込んだ影響かな……?
『フフン、次もわらわじゃ。姉君に次などないぞ』
「ほざけ!」
オラクルとダイ様が言い合う。元気だな……。
俺たちは飛行を続ける。ただし、また襲撃を受けないか警戒しながら。
高度を気持ち高めに取ったために、視界は少し広がったが、偵察しようとした地上のものが小さくて細部が見えにくくなった。
街道が糸のように細く、岩山や湖、街道の砦とか見えるんだけど、たとえば砦で言えば敵がいるのか、何人なのか小さ過ぎてわからない。
「もう少し低く飛べないか?」
「うむ、よかろう」
周りに敵になりそうな飛行生物などいないようなので、ダイ様は闇鳥の高度を落とした。
「……いるな」
街道の砦に、人のようなシルエットがいくつか。兵士のように見えるが……。
「伝令の話の通りだとすると、ここを人間が押さえているわけがないんだよな」
何せこの先にあるセッテの町自体が敵に襲われていたって話だから。そこよりさらに奥にある街道の砦が敵がいないわけがない。
そのまま西に抜け、セッテの町へ。上空から見たところ、廃墟の町といった印象だった。激しい戦闘があったと思われる建物の倒壊具合。今は戦闘の気配はない。
「静かだな」
曇り空とはいえ、昼間だ。普通の町なら住人らが活動しているが、魔物の群れに襲われたセッテの町は、人の気配のないゴーストタウンと化していた。
「ヴィゴ、いるぞ」
ダイ様が地上を指さした。町中を徘徊している人らしいシルエットが複数。足取りが不安定で、しかも遅い。そして武装している。
「アンデッド……スケルトンか」
「こわーい」
リーリエが俺の頭の上にしがみついた。口調からはあまり緊張感は感じられないが。
町の静けさを見れば、完全に敵の手に落ちていると見ていいだろう。……予想はできたけど。
「討伐軍がラーメ領を攻めるなら、セッテの町は必ず通る」
ここでの戦闘は不可避。領主町を目指すためにも、セッテの町は拠点として必須だろう。
「町をもう少し回れるか?」
俺たちは空からの偵察活動を継続。町の全域に敵がいて、制圧下にあるのを確認すると、離脱した。
本格的なラーメ領奪回などを考えるなら、さらに入念な偵察も必要になるだろう。が、今のところはざっくりした情報でもいいから、持ち帰ることを優先である。領主町の汚染精霊樹のこともあるしな。
・ ・ ・
ラーメ領を離れ、リベルタは王都へ帰還した。
王城へ報告する前に俺たちの中でも情報の整理が必要と思い、妖精の籠の中へ。すると、ヴィオ・マルテディが待っていた。
「ヴィゴ、君たちのおかげで聖剣を取り戻すことができた。ありがとう」
彼女は深々と礼をした。俺は思わず微笑した。
「よかったな。とりあえず、偵察もしたから、王城に顔は見せられるな」
聖剣使いが聖剣をなくして、おめおめと帰れないって言っていたヴィオだからね。……何はともあれ、まさか1回目の偵察活動で、取り戻せるとは思ってなかったぜ。これはツイてるな。
「いや、面目ないのは変わらないよ。聖騎士として討伐軍に参加しながら、結局負けたわけだからね……」
ヴィオは肩を落とした。だがすぐに顔を上げた。
「それで勝手なお願いなんだけど、僕も君たちと一緒に行動させてもらえないかな?」
戦果なしゃ帰れない、かな? 俺たちと行動を共にする――うーん……。
「君たちは次の討伐軍が動くまで、独自にラーメ領の魔物退治をやるんだろう? 王都に戻った後の僕がどういう配置になるかはわからないけど、ただ待っているよりも取り戻した聖剣で、君たちを手伝わせてほしいんだ……この通り」
ばっ、とヴィオはさらに頭を下げた。侯爵令嬢が、庶民の俺に頭を下げる、だと……?
「名誉とか、そういうのはいい。君たちに借りができた。いや恩がある。それを返させてほしい」
「ここでのリーダーは俺だ。指示には従ってもらうことになるが……いいのか?」
つまり、庶民の言うことを聞けますか、ってことだけど。
「うん。僕は君の命令には従う。いや、従います。神聖騎士殿」
背筋を伸ばして、自身の胸に手を添えるヴィオ。騎士の礼というやつだ。
「……これまで通り、ヴィゴでいい」
急に上下関係を出されても、ムズムズするからな。特に騎士の扱いでは、聖騎士の彼女より、神聖騎士の俺のほうが上らしいし。
「まあ、こっちは少人数だ。聖剣使いが加わってくれるのは嬉しいよ。頼りにしているぞ」
「! ああっ、任せて!」
ヴィオは感激したように声を弾ませた。むしろ嬉しいのはこっちと言わんばかりに目を輝かせているような……。忠犬が尻尾を振っているような光景が――と、騎士相手にそれはあまりいい表現じゃないな。
いつまで共同戦線を張るかはわからないが、国難にあって聖剣使い同士、協力関係にあることはいいことだよな、きっと。
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