第181話、ラーメ領のお空の旅


 王都カルムから、ダイ様の使い魔であるダークバードに乗って、ラーメ領へと飛ぶ。


 俺にとっては、慣れてきたものだが、ヴィオにとっては初めての空体験ということで、最初はかなりおっかなびっくりだった。


 今回飛んでいるのは3羽。俺、ダイ様、ヴィオで1羽。アウラとルカで1羽。残り1羽はいざという時の援護役として、誰も乗せていない。


「やっぱ、空を飛んでいても、敵が出てくると思うか?」

「敵が魔族やもしれぬのだろう?」


 ダイ様は俺の前に座り、闇鳥を操る。


「魔族ともなれば、空を飛ぶやつもいるからな。用心は必要だ」

「なるほどね……」


 俺は振り返る。


「大丈夫か、ヴィオ?」

「……だ、大丈夫じゃない」


 がっしり俺を掴んで密着しているヴィオである。


「空が、こんな高くて、怖いとは……。お、落ちたら、し、死ぬよね……?」

「まあな」


 どうやら怖いらしい。俺は慣れたから、ヴィオもそのうち慣れるだろう。そういえば、他のクランメンバーはどうなんだろうか?


 いつも乗っている面々に関しては問題ないだろうけど、普段から乗らない者の中には、高所が苦手で避けているのもいるかもしれない。


「それにしても……」


 曇っているなあ、空。


 ラーメ領上空は曇り。といってもほどよく明るいので、雨が降るような雲ではない。


「ここって、あまり天気よくないね」


 ヴィオが言った。


「僕らが来た時も、ずっと曇りか雨だった。晴れている日は見なかった」

「それは妙な話だ」


 ダイ様が首を傾けた。


「魔法か何かで天候を操っているヤツがいるのではなかろうか」

「そんなこと可能なのか?」

「魔王くらいになれば、な」


 ダイ様はこちらを見てニヤリとした。


「天候魔法は、かなり大がかりな力を必要とするからな。……使えるかどうかはさておき、ファウナはエルフの姫巫女だろ。聞いてみたら教えてくれるかもしれんぞ」

「そういうものなのか」


 機会があれば聞いてみようと思った。闇鳥は、ラーメ領最大の湖であるコーシャ湖の上を飛ぶ。


 うっすらと霧のようなものが見えて、地上の視界はあまりよくない。


「うーむ、あの湖、船で渡ろうとなどとは考えぬほうがよさそうだ」

「どうしてだい、ダイ様?」

「闇の瘴気を感じる。何か得体のしれない魔物がおるやもしれん」

「湖の中か?」


 それは嫌だな。水中戦なんてできるのか?


「水の中とも限らぬがな。この付近に潜んでいるのかもしれん」


 ダークバードは上空を通過する。コーシャ湖の東側から流れ込んでいる大きな川が見える。


「地図によればターレ川だな」

「あれに沿って行けば、領主町まで行けるんだったな?」


 ダイ様が確認したので、俺は頷く。周囲の地形を眺めて、現在位置を推測しつつ、俺たちを乗せたダークバードが飛翔する。


 右手にターレ川、左手にラーメ領に広がる平原を見ながらの移動だ。平原のさらに奥には台地と山がある。あっちが街道だから、例の谷があるんじゃないか。遠目から、複数の鳥のようなものが見えた。


 距離が距離だから、かなり大型ではないか?


「嫌な感じだ」


 ダイ様がボソリと言った。


「こっちには来てほしくはないな」


 少し進むと、左側ではターレ川の分岐に差し掛かった。一方の右側では平原に山がかかっていて、川との間の通り道を狭めていた。


 もし、討伐軍が谷とトンネルを使わずに迂回するなら、こちらの平原を経由することになるだろうが、この狭まった場所は敵にとって守りやすそうに感じた。


 川が北寄りになる。山を超えた先に――


「見えた」


 領主町、そしてその中央にカパルビヨ城があって――


「なんだ、ありゃ!?」


 思わず声に出た。町の真ん中に城が建っているのだが、その後ろ――東側に城に匹敵する高さと太さの木があったのだ。


 世界樹があるなら、あんな感じなのか? 俺は本物の世界樹を見たことがないが、とにかく馬鹿でかい木といったらそれしか思い浮かばなかった。ただ、葉っぱもない、どこか禍々しさを感じる捻れた木だが。


「何あれ!?」


 ヴィオもビックリしている。俺は振り返る。


「お前は、ここに来た時に見なかったのか?」


 討伐軍は領主町に攻め込んだと聞いた。だとしたら、あの馬鹿でかい木だって見たはずだ。城の後ろから異常な大きさの木がはみ出して見えたら、普通は気づくよな?


「見てないよ!」


 ヴィオは否定した。


「僕たちが来た時は、あんな木はなかった!」

「わすか数日で、あそこまで成長したっていうんじゃないよな……?」


 だが、ヴィオの話を信じるなら、そういうことなんだろうな。先ほどから黙していたダイ様が口を開いた。


「……精霊樹だな」

「精霊、樹……?」

「ほれ、アウラの本体。ドリアードの木があるだろう? アレのお仲間だ。……ただし、ここまで大きいのは異常だがな」


 ドリアードの木――あれも精霊樹なのか。だが確かにリベルタのホームにあったアウラの本体とは、全然大きさが違う。サイズ差で言ったらアリとドラゴンくらいあるんじゃないか……?


「しかも始末が悪いことにほれ。……木をよく見てみよ。変なものがいくつかついているように見えるだろ」


 変なもの……。言われれば確かに、大木に複数継ぎ接ぎみたいに周囲と違うものでできている部分があって。岩……? って――!


「邪甲獣の装甲!?」

「正解だ。今回この領で滅茶苦茶やらかした奴……何者かはしらんが、とんでもないことをやりおったわ」


 ダイ様が目を鋭くさせた。


「邪甲獣の巣を精霊樹に寄生させて、とんでもない化け物を作りおった」

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